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?-1 陰湿悪役令嬢の Other Side
しおりを挟む―――遡ること数時間。使用人たちの休憩室。
バターン! と大きな音を立ててリリアナが飛び込んできた。
「ジョハン! ジョハンはいる? 庭で仕事中?」
「なによ、騒々しいわね」
ちょうどその場にいたジョハンが面倒臭そうに返事をする。
「あー! ジョハンいたのね、良かった! さっきは小花をありがとう! でね、また急で申し訳ないんだけど、薬湯を煎じて欲しいのよ」
「また急ねぇ、コレット嬢様のいつもの頭痛?」
「そうよ、いつもの頭痛。急いでね」
「……それにしてはあんた、楽しそうね。いつもなら急いで欲しくて必死って感じなのに」
「そう?」
「そうよ。まぁいいわ、ちょっと待ってなさい」
「はーい!」
場所を厨房に移して、薬湯を煎じるジョハンの手元を鼻歌交じりのリリアナが見つめる。
「本当に上機嫌ね」
「あ、ごめんね、邪魔だった?」
「鼻歌くらい良いわよ」
「コレットお嬢様に早く届けて差し上げたくて」
「……そういえばいつも急よね。天気とか前日の体調とか何かしら前触れがあってもよさそうだけれど?」
「あっはは、コレットお嬢様のこの頭痛の原因はちょっと特殊なの」
「特殊?」
ジョハンの目が一瞬だけ鋭く光ったけれど、リリアナは気付かない。
「そうなの! 大旦那様の弟の娘の息子……ほらあの、なんだったかな公爵様の嫡男で、オルカナイト様と同い年の……」
「エヴァン様?」
「そうそう、そのエヴァン様の名前が話題にのぼると、お嬢様はたいてい頭が痛くなるのよ。よっぽどお嫌いなんでしょうね」
「そう……そうね。ねぇ、その公爵様、サンナゼート家を嬢様が訪問することは?」
薬湯の色と香りを確かめながら、ごく自然にジョハンが尋ねる。
「あるわ! っていうか毎年この時期に。クロエラ様……エヴァン様のお母様と、現魔法師団長のダニエラ様のお誕生日が近いからね。双子そろってコレットお嬢様がお気に入りだから毎年招待状が届くわよ! もう小さい頃からずっと」
「小さい頃から毎年、ね……」
ジョハンはもう何かを考える素振りを隠さない。
「そうよ! ……もうできた?」
急かすリリアナを一睨みすると、肩をすくめて笑った。
「えぇ、できたわ。コレット嬢様に持って行ってあげて」
「ありがとう!」
パタパタと、侯爵家の使用人としてはどうかと思うほどの足音を立ててリリアナが厨房を出ていく。
「毎年この時期にサンナゼート家、ねぇ」
厨房の調理台、真っ黒に煤けた壁を見てジョハンが呟いた。
◇◇◇◇◇◇
―――コレットが厨房にいるのと同時刻、オルカナイト私室
「…………大丈夫か?」
普段は友人に対して辛辣なオルカナイトが、珍しく気遣う台詞を吐く……ほどにはザック・ハスレイは落ち込んでいた。
「あぁ、ありがとう。オルカナイトが優しいなんて珍しい」
「だって……さすがにあれは……堪えただろう? ……っく、はは……しかも後頭部から落とした直後で罪悪感いっぱいのタイミング……ふ、ははは」
「……前言撤回、お前は相変わらずだ」
恨めしそうに自分を見るザックに、笑いを引っ込めながら、オルカナイトが思い出したとばかりに問う。
「そうそう、さっきコレットを助けてくれた時にお前の身体が光ったの、あれが魔力枯渇の合図なのか? 初めて見たが、不気味なものだな」
「光るというより……端から半透明になって光って戻る、が正しいかな。魔力を大量に消費する魔術師団員くらいしか体験しないだろが、何度味わっても良い気分ではない」
「秘匿事項ってことでもないのか?」
「あぁ、必要ないから通達していない、程度のものだろう。最近の魔宝石具は優秀だから、そんなに魔力を使うことがないからな」
「なるほど…………いや、ちょっと待て」
「……気付いたか」
オルカナイトの指摘に、ザックが目を逸らす。
「あぁ。半透明になっても光って戻るなら、なぜあの時コレットを持ち上げていた風魔法を切った?」
「この先は、秘匿事項になるぞ?」
脅しともとれる言葉に、オルカナイトが両手を上げる。
「じゃあ聞かない。うちは幸い魔力量は多い血筋だからな」
「まったく羨ましい限りだ。俺は元々魔力量が少ないから “この姿の維持” に加えて風魔法を使っただけであのザマだ。それよりさっき俺がコレット嬢を救った時……お前、風魔法を発動させようとしたか?」
ザックが少し真剣な顔になって聞く。
「俺は何も。何かあったのか?」
「一瞬だけ、風魔法が発動するのを感じたんだが……お前じゃないなら……」
「どうした?」
「いや、なんでもない。それよりお前にトランクを借りたいんだが?」
その一言で、ここへ集合した理由を思い出した二人は、重い腰を上げて荷造りを開始するのだった。
◇◇◇◇◇◇
―――厨房にコレットが出没してから約二時間後、スノウスタン家廊下
夕食の準備を終えたゴティアスが、偶然見つけたコリアンナに話しかけていた。
「大奥様! 夕食の支度が遅れておりまして申し訳ありませんでした。オルカナイト様のお祝いの席でもありますし、厨房一同気合が入っておりまして」
「あぁ、大丈夫だよ、楽しみにしているよ。ゴティアス、息災かい?」
侯爵夫人としてここにいた時と変わらない使用人の様子に、コリアンナも笑顔になる。
「えぇ、おかげさまで! 今はちょいと腰がアレですが……そうそう、腰痛といえばコレットお嬢様にはまた見抜かれまして」
「あの子は昔っからだねぇ。そういえばここ一年のあの子が、これまでと違っていたって?」
「そうなんです! お召し物も華やかになって、立ち居振る舞いも別人の様でして。それでも今日はわしを心配して厨房にまで来てくださって、これまでのお嬢様に戻られたようでした! それに大奥様に魔術制御を教わるって嬉しそうにされてましたよ」
嬉しそうに話すゴティアスとは裏腹に、コリアンナは一瞬、何か思う所があるような表情をした。
「……大奥様?」
「いや、なんでもないよ。それより、お前はうちの大事な料理長なんだ。無理するんじゃないよ」
「ありがとうございます、今日はお嬢様に新しい料理を教わって、年甲斐もなくはしゃいでしまいましたよ」
「コレットが新しい料理を?」
「はい、ジョハンが言うには淑女のたしなみ、だそうです」
「たしなみ、ねぇ。一丁前に言う様になったもんだ」
食堂へ向かう二人の笑い声が、廊下に響いていた。
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