悪役令嬢とヒロインはハッピーエンドを目指したい

ゆりまき

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第一章 リトア王国

ランギャー家のお二人が到着されました

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みんなと一緒に応接間に行くとお父様と向かい合うようにソファーに青ざめた女性と男の子が座っていた。

私たちが入って行くとお二人はサッと立ち上がり深く頭を下げる。

お父様も立ち上がり私たちを紹介してくれた。

「公爵様のご子息、長男のアンディーブ殿とこちらはご存知ですね。次男のアロイス殿。そして、私の父デュークと母のセリーナ。娘のマリーベルです。

こちらはランギャー伯爵夫人。マーガレット・ランギャー夫人とご子息のディル・ランギャー殿。」

紹介が終わっても頭を下げ続ける二人にお父様が再び声をかける。

「お二人とも、もうお顔をあげてください。どうぞおかけいただいて。長い話になりそうですから。」

お二人はゆっくりと顔をあげ、私たちを目にすると再び深く頭を下げた。

「この度は本当に申し訳ありませんでした。どのような処罰も受ける覚悟でこちらに参りました。」

マーガレット様は青ざめてはいたが、気丈に振る舞いしっかりとした声でおっしゃった。

「此度のことはあなた方の勇気ある行動で防ぐことができたのです。
ですからどうぞ、頭をあげて話し合いましょう。」

ようやくお二人はソファーに座り、私とアロイス様は向かい側、お父様の横に。お祖父様、お祖母様が右側、アンディーブ様、公爵様が左側に座った。

マーガレット様は艶やかな栗色の髪をギュッとまとめ、赤茶の美しい瞳の下にくまができている。憂に満ちた顔は美しいけれど陰りが見えて心配になってしまう。
隣に座るディル様もさすが攻略対象。
少し痩せすぎなのが薄幸の美少年といった雰囲気に拍車をかけている。
耳の辺りまであるウェーブがかったキラキラと輝く金茶色の髪と最高級の紅茶のような赤茶色の瞳。大きな黒縁メガネが顔をさらに小さく見せている。

「あなた方がアロイス殿に協力してくれたおかげで我々は屋敷の側の森で夫君や襲撃者の集まりを見つけ、とらえることができました。他方からきた侵入者の情報も事前に仕入れることができたので充分に対処しこの通り、我々は傷一つ負っていない。」

「お言葉はとてもありがたいですわスリジェ辺境伯様。
ですが、夫の罪は私の罪、我がランギャー家の罪になります。
どうぞ相応の処罰をお願いいたします。」

マーガレット様はスッと背筋を伸ばしまっすぐにお父様を見つめている。

「相応の処罰…
ならば、貴女の大事な息子をいただきましょう。」

お父様が事もなげに言い放った言葉はマーガレット様を多少動揺させたらしい。

「処罰は私が受けます。この子はまだ年端もいかぬ子供ですので…」

「大丈夫です。お母様。」

ディル様が初めて口を開いた。
澄んだ声は迷いがなく。彼も真っ直ぐにお父様を見つめている。

「辺境伯様。確かに母が言う通り私はまだ子供ですがランギャー家の人間としてどのような処罰も受けます。」

「そうか、ならばディル。君には我が辺境伯家に養子に来てもらおう。次期辺境伯当主として。」

ディル様の目が大きく見開かれ、チラッと私に目が向けられた。
あっ、これ勘違いしてるかも…

思ったそばからアロイス様の手が伸びてきて手を握られた。

「私と公爵殿はマリーベルとアロイス・エシャルロットの婚約を陛下に願い出ることにしている。
本来ならばアロイス殿にスリジェ辺境伯の地位を譲る所だが、二人は国や家柄に縛られない身分を望んでいる。我々も二人の様々な事情をかんがみてそれが良いだろうと決断した。
そこで、スリジェの血をひくそなたを養子に迎えたいということだ。」

ディル様はしばし呆然としていたが、ゆっくりと口を開いた。

「しかし。それでは全く処罰にはなりません。私は伯爵よりも地位の高い辺境伯の地位につくことができてしまいます。」

「処罰かどうかの感じ方は君次第だ。辺境伯当主の地位は重いぞ。武力も知力も膨大な量を持たねば足元をすくわれる。それに幼いそなたと母君を引き離そうというのだ。充分処罰に値すると思うが?」

ディル様はうつむき両膝に置かれた手をギュッと握りしめた。
マーガレット様がそんなディル様を心配そうに見つめている。

しばらくして顔をあげたディル様は目を潤ませながら声を絞り出した。

「アラン・スリジェ辺境伯様。寛大なお計らいに心より感謝申し上げます。」

今にも涙が溢れ落ちそうなその表情は私よりよほどヒロインらしかった。
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