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第一章 リトア王国

ヒロインの座を奪われました?

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「アロイス様。」

剣を片手に庭に立つアロイスを見つけディルが駆け出してきた。

あの日からディルはスリジェ家に留まり、マーガレット様は一人でランギャー家へ戻り、公爵様とアンディーブ様もイシェラ王国へお戻りになった。
事件は密やかに両国の陛下に報告され謁見の日取りは異例の速さで決まり私たちは今日邸を出発してまずはリトア王国の王都へ向かう。

旅行服に着替えた私がふと部屋の外に目をやった瞬間に先ほどの光景が目に入ったわけだ。

ディルは(ディル様と呼んでいたらやめて欲しいとお願いされたのでお互い敬称はなくすことにしたのだ。ちなみにのんちゃんがむくれてしまったので私とのんちゃんの間の敬称も撤廃となった。)礼儀正しく優しい男の子だった。
父親の仕業のせいで私への罪悪感が消えないらしく最初は距離を取ろうとしていらしたが私の仲良くしよう攻撃とのんちゃんのとりなしのおかげでだいぶ打ち解けることができた。

「それでも、あの笑顔を引き出せたことはないんだよね~」

ディルはアロイスに一番心を開いていて剣術の稽古や勉学の授業も一緒に受けている。
まぁ、私は剣術の訓練は二人とは別メニューだし、勉学も二人に追い着けていないから仕方ないけど…なんか…

「寂しいなぁ」

のんちゃんはゲームのディルが幼い頃からヒロインに恋をしているって言ってたけど…

庭ではつまずいて転んだディルをアロイスが慌てて助け起こしている。

「絶対違うでしょ…」

頬を染めて手をとられているディルの潤んだ乙女のような表情。爽やかなアロイスの笑顔。

「ディルの方がずっとヒロインらしい。」

声に出したら急に不安になってきた。

思えばゆきの時からそうだったのだ。
ゲーム好きだけどスポーツも勉強もそつなくこなすのんちゃんは男女問わず人気があって告白されたことだってあった。
ゲームする時間減っちゃうからって断ってたけど…

その断られた子に言われたんだっけ…

「ゆきはいいね。幼なじみだから意識されずに側にいられて。
ゲームも苦手だしスポーツも勉強も好きなもの全然かぶってないじゃん。
昔から一緒にいたっていう慣れ以外何にも共通点ないんじゃない?」

振られたからってゆきに八つ当たりすんのやめなよ。って言ってくれたのも女友達で私自身は何も言い返せなかった。

自分でも分からなかったから。仲良しって思って、親友って思って、好きって思ってるけど…のんちゃんは?
私のどこが好きで一緒にいてくれるんだろう。昔からの習慣?慣れてるから一緒にいるだけ?じゃあいつか、いつかは離れちゃうのかな?
そうして好きって言えないまま変わらずにのんちゃんが勧めてくるゲームをやったりのんちゃんがゲームする姿を眺めて過ごしてたんだ。

マリーに生まれ変わってアロイスに生まれ変わったのんちゃんに再会してプロポーズされてここまできたけど、のんちゃんは私のどこが好きなんだろう。やっぱり昔から知ってる私だから?それじゃあいつか私に飽きた時、のんちゃんはどうするのかな?

のんちゃんは酷いことをするような人間じゃない。分かってるけど悪い想像は止まらなくて自然と涙が溢れていた。
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