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第一章 リトア王国
美少女は目の保養です
しおりを挟む公爵様がお帰りになった翌日から屋敷にはひっきりなしに人がやってきてはお父様に詳しく話を聞きたがり、不安をもらし、自らは潔白であるとくどいくらいに説明していった。
お父様は頻繁に王宮からも呼ばれ、屋敷には客人が待ち受けで休まる暇がないのではと私は心配だ。
どんなに忙しくてもいつもと同じに見えるからどのくらいつかれているのか分からないし。
お客様と話していらっしゃる応接間の前の廊下をウロウロしていると、やはり大忙しなはずのダミアンさんがワゴンを押しながらにこやかにやってきた。
「おや、マリー様。いかがされました?」
「ちょっと、お父様が心配で。ずっと働きづめだし。どうして皆さんお父様のところにいらっしゃるのですか?騎士団長は今はオーレル伯父様ですよね?」
ダミアンさんはニコッと笑ってから少し待っていてくださいね。
と言って応接間へ入っていった。
廊下に置かれた長椅子に座って待っているとのんびりした足取りでこちらへ近づいてくる足音が聞こえてきた。
顔をあげるとサラサラと輝く腰まである金髪にヘアバンドをつけ、桃色のドレスを着た美少女が近づいてくる。
「のんちゃん!」
笑顔の私の隣に彼女、リノア・エシャルロットが座り呆れた顔をした。
「なんか、この姿で来るほうが嬉しそうだよね?」
アロイスは自宅とこの屋敷を自由に行ったり来たりしていて、王宮でリーク王子と会ったあとはリノアの姿のままやって来る。
初めてこの姿を見た時はびっくりしたけどその美少女っぷりが逆に見事すぎて目の保養として楽しませてもらっている。
姿より私を悩ませたのは呼び名だ。
やっとのんちゃんからアロイスと呼び慣れたのに、この姿の時は絶対にアロイスと呼ばないようにと言われてしまったのだ。
悩む私にアロイスはリノアだからのんちゃん呼びで大丈夫と言ってくれた。
呼び慣れた愛称に美少女、テンション上がらないほうがおかしいでしょ。
だって、完璧に女の子に見えるから気軽に腕をからませたり抱きついたりできるし。
のんちゃんにもそう言ったらなんだか微妙そうな顔をされたけど。
ニコニコする私にのんちゃんがジトッとした眼差しを向けていると扉が開きダミアンさんが出てきた。
一瞬おやっという表情をしたけどすぐに笑顔に戻り室内に一礼してからそっと扉を閉める。
「リノア様、いらしていたのですね。
マリー様、お待たせいたしました。中庭にお茶の準備をいたしますので。」
私たちは手を繋いでダミアンさんの後に続いた。
中庭に出ると何故か使用人たちが数名集まっていて、聞き慣れない子供の声とディルの困っているようなか細い声が聞こえる。
「どうしました?」
ダミアンさんの一言で人垣が割れ、ディルの姿が見えた。見知らぬ男の子に腕をガッチリと掴まれている。
「ディル、どうしたの?」
「リーク様!何故ここに…」
のんちゃんの声にこちらに背を向けていた男の子が振り返った。
ま、まぶしい…
シミひとつない真っ白な肌に太陽の光でできているようなキラキラの金髪はクルクルした巻き毛で見開かれた瞳はとびきり晴れ渡った空の色。
前世でみた宗教画のキューピットか天使みたいだ。
「リノア…と、誰だお前?」
口を開いたら全然天使じゃなかった。
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