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第二章 イシェラ王国
王弟殿下が望むもの
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陛下はしばらく様子を伺うように黙り込んでいらしたがスッと顔をあげられた。
「よかろう。」
カツンっと陛下が王笏を床に打ちつけると会場は瞬く間にシンと静まり返る。
「王弟クリアフォルト・イシェラ。またの名をリトア王国スリジェ辺境伯騎士団副団長クルート。
そして飛馬の騎士と称えられる者よ。
そなたの望みを叶えよう。
我がキルライト・イシェラの第二妃アリアドネ・イシェラをそなたの妃として下げ渡す。」
下げ渡すという言葉にエライザ王妃が嫌な顔をしていたのを思い出し不安になって王妃様を見たけどさすが、顔色一つ変えていない。
「恐れながら国王陛下。私はアリアドネ妃様を正妃としてお迎えしたいと思います。」
この話も予定外。聞いてない。アリアドネ様が頭を下げていなかったら焦った顔が見られたかもしれない。
「彼女以外の妻を迎えるつもりはないと?」
「陛下のお考え通りでございます。」
キルライト陛下は顎に手を当てた。
「否と申しても他に正妃を娶るつもりはないのであろうな?」
クリアフォルト様はこの問いに沈黙で返している。
私はハラハラしながらお二人と、リークや王族の方々に目を向けた。
リークはポカンとしているしエライザ王妃は面白そうにこのやり取りを眺めている。
「アリアドネ妃は国王の第二妃として才覚を発揮してきた。王弟の正妃としても申し分なく勤めてくれるだろう。」
陛下に呼ばれてアリアドネ様が前に進み出る。
「この場にいる皆にも問いたい。
アリアドネ・イシェラが王弟妃となることに異議のある者は前へ。」
陛下の言葉に会場が凍りついた。皆が息を飲み僅かにも動かない。
いや、動こうとした気配も感じた気がするけどその人たちは陛下の刺すような視線を向けられ動けなかったんだと思う。
陛下はたっぷりと時間をかけて会場を見渡してからクリアフォルト様に微笑みかけた。
「誰もいないようだ。」
その言葉に会場の空気がフッとゆるんだ。
陛下はアリアドネ様の背を優しくクリアフォルト様の方へ押し出す。
クリアフォルト様が両手のひらを前に伸ばしアリアドネ様を見上げる。アリアドネ様は微かに潤んだ瞳で少し震える指先をそっとその両手に重ねる。
「よく励んでくれた。おめでとう弟よ。
幸せになってくれ。」
陛下がクリアフォルト様の肩に手を置いて立ち上がるようにうながしてから拍手するとジワジワと拍手が伝染していき。会場中から割れんばかりの拍手が響き渡った。
クリアフォルト様とアリアドネ様は並んで陛下に深くお辞儀をした後向かい合いクリアフォルト様が再びひざまずきアリアドネ様の手の甲にキスをした。
美しい2人のその姿はまるで一枚の絵の様だった。
アリアドネ様が優しく手を引いて立ち上がらせようとした時、何を思ったのかクリアフォルト様はアリアドネ様の腰に回された飾り紐を片手ですくいあげ、アリアドネ様を見上げながらキスをして見せた。
少し大げさなくらいの仕草に私は何をしているのか分からず首をかしげたけど、周りの大人たちがどよめいたのは分かった。
それでも皆拍手を止めずに立ち上がりこちらに向き直った2人により一層の拍手を送る。
私ももちろん手が痛くなるほど精一杯拍手した。目の前は涙で曇って見えないし、鼻水が垂れてきた気がするけどお父様がさりげなく自分の背後に私を隠してくれたので急いでハンカチを取り出す。
後からお祖母様に聞いたところによると、
女性の腰に回された飾り紐にキスをするのは他の誰にも渡さない。
自分だけの女性だとしらしめる好意で、自分は独占欲が強いと誇示するようなものだからあまり公の場では行わないそうだ。
「クルートにあんな情熱的な所があったなんて思いもしなかったわ。」
お祖母様は扇子で顔をあおぎながらブツブツいっていた。
「よかろう。」
カツンっと陛下が王笏を床に打ちつけると会場は瞬く間にシンと静まり返る。
「王弟クリアフォルト・イシェラ。またの名をリトア王国スリジェ辺境伯騎士団副団長クルート。
そして飛馬の騎士と称えられる者よ。
そなたの望みを叶えよう。
我がキルライト・イシェラの第二妃アリアドネ・イシェラをそなたの妃として下げ渡す。」
下げ渡すという言葉にエライザ王妃が嫌な顔をしていたのを思い出し不安になって王妃様を見たけどさすが、顔色一つ変えていない。
「恐れながら国王陛下。私はアリアドネ妃様を正妃としてお迎えしたいと思います。」
この話も予定外。聞いてない。アリアドネ様が頭を下げていなかったら焦った顔が見られたかもしれない。
「彼女以外の妻を迎えるつもりはないと?」
「陛下のお考え通りでございます。」
キルライト陛下は顎に手を当てた。
「否と申しても他に正妃を娶るつもりはないのであろうな?」
クリアフォルト様はこの問いに沈黙で返している。
私はハラハラしながらお二人と、リークや王族の方々に目を向けた。
リークはポカンとしているしエライザ王妃は面白そうにこのやり取りを眺めている。
「アリアドネ妃は国王の第二妃として才覚を発揮してきた。王弟の正妃としても申し分なく勤めてくれるだろう。」
陛下に呼ばれてアリアドネ様が前に進み出る。
「この場にいる皆にも問いたい。
アリアドネ・イシェラが王弟妃となることに異議のある者は前へ。」
陛下の言葉に会場が凍りついた。皆が息を飲み僅かにも動かない。
いや、動こうとした気配も感じた気がするけどその人たちは陛下の刺すような視線を向けられ動けなかったんだと思う。
陛下はたっぷりと時間をかけて会場を見渡してからクリアフォルト様に微笑みかけた。
「誰もいないようだ。」
その言葉に会場の空気がフッとゆるんだ。
陛下はアリアドネ様の背を優しくクリアフォルト様の方へ押し出す。
クリアフォルト様が両手のひらを前に伸ばしアリアドネ様を見上げる。アリアドネ様は微かに潤んだ瞳で少し震える指先をそっとその両手に重ねる。
「よく励んでくれた。おめでとう弟よ。
幸せになってくれ。」
陛下がクリアフォルト様の肩に手を置いて立ち上がるようにうながしてから拍手するとジワジワと拍手が伝染していき。会場中から割れんばかりの拍手が響き渡った。
クリアフォルト様とアリアドネ様は並んで陛下に深くお辞儀をした後向かい合いクリアフォルト様が再びひざまずきアリアドネ様の手の甲にキスをした。
美しい2人のその姿はまるで一枚の絵の様だった。
アリアドネ様が優しく手を引いて立ち上がらせようとした時、何を思ったのかクリアフォルト様はアリアドネ様の腰に回された飾り紐を片手ですくいあげ、アリアドネ様を見上げながらキスをして見せた。
少し大げさなくらいの仕草に私は何をしているのか分からず首をかしげたけど、周りの大人たちがどよめいたのは分かった。
それでも皆拍手を止めずに立ち上がりこちらに向き直った2人により一層の拍手を送る。
私ももちろん手が痛くなるほど精一杯拍手した。目の前は涙で曇って見えないし、鼻水が垂れてきた気がするけどお父様がさりげなく自分の背後に私を隠してくれたので急いでハンカチを取り出す。
後からお祖母様に聞いたところによると、
女性の腰に回された飾り紐にキスをするのは他の誰にも渡さない。
自分だけの女性だとしらしめる好意で、自分は独占欲が強いと誇示するようなものだからあまり公の場では行わないそうだ。
「クルートにあんな情熱的な所があったなんて思いもしなかったわ。」
お祖母様は扇子で顔をあおぎながらブツブツいっていた。
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