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第二章 イシェラ王国

時は流れて

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「マリー、ディルー」

名前を呼ばれて私とディルは互いに動きを止め声の方へ振り向いた。

侍女に日傘を差しかけてもらい手を振りながらすっかり美しく成長したイライザがこちらへ歩いてくる。

「イライザ久しぶり。もうそんな時間?」

アイリーンがすかさず持ってきてくれたタオルで汗を拭いながら尋ねるとイライザは呆れた顔をする。

「いいえ、時間よりだいぶ早いですわ。
ですから無礼を詫びる場面ですけど一つ言わせてくださる?マリーは何を目指してるの?」

キョトンとする私にディルが苦笑いを浮かべる。

「だから言ってるじゃないかマリー。
普通の淑女はここまでしないって。」

すっかり声変わりしたディルの柔らかいアルトを聞きながら私は手元を見下ろし手にしていた扇子と飾り紐を持ち上げる。

「でも、スリジェ家の淑女としてこれくらいはできて当然じゃない?」

「スリジェ家がいくら特殊な家でも次期当主と互角に戦えてる時点で少しやりすぎな気がしますわ。」

「いや、僕ももっと精進しなきゃなんだけど…」

ディルがちょっとしゅんとしてしまい私とイライザは慌てて手を振る。

「ディルは次期宰相候補とまで言われる秀才でしかも武芸も優れていると評判だとお父様が嬉しそうに言っているのを聞いたよ。」

「そうですわ。だいたいマリーが規格外に強すぎるんですのよ。光魔法という希少な魔法を持っているにも関わらず魔法学園より先に騎士養成所からお声がかかったとのウワサが社交界を飛び交ってますもの。」

「えぇ、何でその話がバレてるの?」

「はぁ、やっぱり本当なんですわね。」

イライザは私の姿をジッと見る。

長く伸びた桜色の髪はポニーテールにしてグリーンのリボンを結び練習着のブラウスにはヒラヒラレースが胸元に、乗馬ズボンにブーツにもアクセントでリボンが入ってるし女性らしさに欠けるわけではないと思うんだけど…

私の視線はほどよく膨らんだイライザの胸元へ向かう。

その女らしさに欠けるのは私のせいじゃない…と思いたい。

「ま、マリー?一体どこを見てらっしゃるの?まったく。
私が言いたいのはそういうことではなくってよ。」

イライザは私の視線に気づきパッと胸元に扇子を広げる。

「まさか騎士養成所に行くとは言いませんわよね?」

「言わないよ~魔力をもっと高めたいしイライザやのんちゃんたち皆んなと一緒の学園生活楽しみにしてたんだから。ディルは校舎が違うけどたまには会えるよね?」

ディルはその頭の良さを買われ、本来なら魔法学園を卒業してから選ばれたものが学に入れる幹部候補生のための研修所に招かれていて学園にいるよりそちらにいることの方が多いらしい。

まぁ、ディルはリトア王国の人間だから時期がくればリトアに戻ることになるけど少なくとも卒業までのあと一年は一緒の敷地内にいられる。

「ディルより貴女の婚約者に会える機会の方が少なそうですわよ。
同じ学年だというのに数えるほどしかお会いしたことがないのですから。
もっとも先生方はその方がありがたいのかもしれませんわね。

リノアに加えてアロイス様の難題にまで取り組まなければいけなくなってしまいますから。」

魔力を持っていて十三歳以上になると入ることができる魔法学園。ディルとエドワード第一王子は3年前から、イライザ、リーク、リノアとアロイスそして騎士養成所を卒業後、リークの護衛兼魔法の勉強のためにカストルが去年から魔法学園に入学していて今年私も皆んなと同じ学園に入学する。

「アロイスは忙しいからね~魔法学園を卒業しているという肩書きさえあればいいからって試験だけ受けに行っているようなものだって言ってたから。
リノアもたまにアロイスに付き合って出かけてるでしょ?」

「えぇ、リノアにも困ったものですわ。留守にする間リークの婚約者として行わなければいけない外交の付き添いやらパーティでのパートナーを私に押し付けるんですもの。」

「2人はお似合いだと思うけど…」

イライザはフンとそっぽを向いた。

「とんでもないですわ。誰があんなわがまま王子とお似合いなものですか。」

イライザは父親が持ってくる婚約話をヒラヒラとかわし続けている。
好きな人がいる話も聞いたことないし、アンディーブ様には憧れているだけで半径15メートル以内に入ったら失神してしまいそうな美形は観賞用にかぎると以前話していた。

学園に入ったらそれらしい人がいないか調査しよう。

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