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第三章 魔法学園
迎賓館での憂鬱な会食 (ルルシア目線)
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(ハァ)
ルルは心の中でため息をついた。
鏡に映る侍女はまるで親の仇を見るような憎々しげな眼差しでルルの長い髪をとかしている。
気持ちは分からないでもない。彼女は由緒ある高位貴族の家柄で数ヶ月前までは帝国の正妃付きの侍女だったのだから。
それが小さな国の王女とは名ばかり、平民と変わらぬ暮らしをしていた母の娘である私付きになるよう命令されて祖国から離れたイシェラ王国まで来させられたのだから。
まぁ、もし私だったらもう少し上手くやるけど…
鏡に映る無表情な自分をボンヤリと見返しながら思う。
わざわざ私付きになったのは少なからぬ正妃の意図があるのだろう。何らかの指示を与えられているのは明白で、ならば仲良くして懐柔した方が色々とやりやすいだろうに。
彼女にはそんな様子はひとかけらもない。
イシェラ王国へ入る前に本当は私は殺されている予定だったのだろう。食事には毒が入り馬車には細工がされ、寝首をかかれそうになったことも一度や二度ではない。
無事だったのは単純に運が良かったのと魔力のせいだ。
幼い頃から見えるモヤモヤした気配の様なもの。ソーマは魔力だと言うけれど、ある程度成長するまで信じられなかった。
それほどまでに私の力は少なく、微風を吹かせる程度しかできなかった。
それに帝国には魔力を持つ人間は本当に一握りしかいないので魔法というものが遠い存在だったのもある。
貴族の一部は魔力を持つ人間を原始的で野蛮な蔑むべき対象として見ているくらいだ。
それでも出される食事から、話しかけてくる相手から、部屋や、場所自体から灰色や酷い時は真っ黒なモヤが立ち上り、近づいてはいけないと教えてくれる自分の力をありがたくは思う。
逆に暖かくキラキラした光の粒が見えるようになったのは最近のことで特にマリーの側は素晴らしく居心地がいい。
マリーは不思議な子だ。幼い子のように素直に笑ったり怒ったりするかと思えば熟練の貴婦人のような落ち着いた所作をしたり、長年鍛錬をつんだ暗殺者のような動きをしたり。
一緒にいて飽きないし、その優しさに何度も救われた。
彼女のことを思い出して小さくクスッと笑ってしまうと侍女が怒りに燃えた眼差しでルルを睨みつけた。
嘲笑われたと思ったのかもしれない。
バシッと櫛を叩きつけるように置くとドレスを取りに行ってしまった。
誤解している彼女に否定するべきなんだろうけど、拒絶する空気が強すぎて結局黙ったままドレスを着せられた。首元にドレスに付属されたリボンを結ばれギュッと締められる。
苦しい。でもいくら彼女でもこんなにバレやすい方法で殺しはしないはず。いつもの嫌がらせだろう。
分かってはいても苦しさが和らぐわけもなく
口を開けて喘ぐ。鏡に映る彼女はギラついた目をして口元をUの字に歪めている。
あぁ、もしかして今日こそ彼女は本気なのかもしれない。目の前がチカチカし始めた時、バチバチっと大きな音がして侍女が悲鳴をあげ手を離した。
急に解放され床に手をついてゲホゲホ咳込む。吸っても吸っても足りない気がしてヒリヒリ痛む首元をさすりながらゼイゼイ息をしていると足に痛みが走った。
「低能な魔力持ちの野蛮人!皇室の汚れが!
私に魔法をぶつけるなんてよくも。」
私の足を、お腹を蹴り付けながら彼女は自分の手をさすっている。
一体彼女は何のことを言っているんだろう。私は人に痛みを与えるほど強い魔法は使えないというのに。
黙って痛みに耐えながら考える。
そうか、リノア。マリーの風変わりな婚約者がかけてくれた護りの力が発動したのかもしれない。
ボンヤリとそんなことを考えているとバタンっと部屋の扉が開き青ざめた別の侍女と怒り心頭という言葉が似合うイライザが廊下に立っているのが見えた。
あぁ、助かった。助かったけどイライザのあの様子だと一悶着ありそうだな。
他人事のようにそう思い私は意識を手放した。
ルルは心の中でため息をついた。
鏡に映る侍女はまるで親の仇を見るような憎々しげな眼差しでルルの長い髪をとかしている。
気持ちは分からないでもない。彼女は由緒ある高位貴族の家柄で数ヶ月前までは帝国の正妃付きの侍女だったのだから。
それが小さな国の王女とは名ばかり、平民と変わらぬ暮らしをしていた母の娘である私付きになるよう命令されて祖国から離れたイシェラ王国まで来させられたのだから。
まぁ、もし私だったらもう少し上手くやるけど…
鏡に映る無表情な自分をボンヤリと見返しながら思う。
わざわざ私付きになったのは少なからぬ正妃の意図があるのだろう。何らかの指示を与えられているのは明白で、ならば仲良くして懐柔した方が色々とやりやすいだろうに。
彼女にはそんな様子はひとかけらもない。
イシェラ王国へ入る前に本当は私は殺されている予定だったのだろう。食事には毒が入り馬車には細工がされ、寝首をかかれそうになったことも一度や二度ではない。
無事だったのは単純に運が良かったのと魔力のせいだ。
幼い頃から見えるモヤモヤした気配の様なもの。ソーマは魔力だと言うけれど、ある程度成長するまで信じられなかった。
それほどまでに私の力は少なく、微風を吹かせる程度しかできなかった。
それに帝国には魔力を持つ人間は本当に一握りしかいないので魔法というものが遠い存在だったのもある。
貴族の一部は魔力を持つ人間を原始的で野蛮な蔑むべき対象として見ているくらいだ。
それでも出される食事から、話しかけてくる相手から、部屋や、場所自体から灰色や酷い時は真っ黒なモヤが立ち上り、近づいてはいけないと教えてくれる自分の力をありがたくは思う。
逆に暖かくキラキラした光の粒が見えるようになったのは最近のことで特にマリーの側は素晴らしく居心地がいい。
マリーは不思議な子だ。幼い子のように素直に笑ったり怒ったりするかと思えば熟練の貴婦人のような落ち着いた所作をしたり、長年鍛錬をつんだ暗殺者のような動きをしたり。
一緒にいて飽きないし、その優しさに何度も救われた。
彼女のことを思い出して小さくクスッと笑ってしまうと侍女が怒りに燃えた眼差しでルルを睨みつけた。
嘲笑われたと思ったのかもしれない。
バシッと櫛を叩きつけるように置くとドレスを取りに行ってしまった。
誤解している彼女に否定するべきなんだろうけど、拒絶する空気が強すぎて結局黙ったままドレスを着せられた。首元にドレスに付属されたリボンを結ばれギュッと締められる。
苦しい。でもいくら彼女でもこんなにバレやすい方法で殺しはしないはず。いつもの嫌がらせだろう。
分かってはいても苦しさが和らぐわけもなく
口を開けて喘ぐ。鏡に映る彼女はギラついた目をして口元をUの字に歪めている。
あぁ、もしかして今日こそ彼女は本気なのかもしれない。目の前がチカチカし始めた時、バチバチっと大きな音がして侍女が悲鳴をあげ手を離した。
急に解放され床に手をついてゲホゲホ咳込む。吸っても吸っても足りない気がしてヒリヒリ痛む首元をさすりながらゼイゼイ息をしていると足に痛みが走った。
「低能な魔力持ちの野蛮人!皇室の汚れが!
私に魔法をぶつけるなんてよくも。」
私の足を、お腹を蹴り付けながら彼女は自分の手をさすっている。
一体彼女は何のことを言っているんだろう。私は人に痛みを与えるほど強い魔法は使えないというのに。
黙って痛みに耐えながら考える。
そうか、リノア。マリーの風変わりな婚約者がかけてくれた護りの力が発動したのかもしれない。
ボンヤリとそんなことを考えているとバタンっと部屋の扉が開き青ざめた別の侍女と怒り心頭という言葉が似合うイライザが廊下に立っているのが見えた。
あぁ、助かった。助かったけどイライザのあの様子だと一悶着ありそうだな。
他人事のようにそう思い私は意識を手放した。
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