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第三章 魔法学園

迎賓館での憂鬱な会食  (イライザ視点)

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正直に言わせてもらいますわ。
私はルル様が嫌いです。

良い方だとは思いますわよ、勤勉で努力家で辛い状況にも泣き言も言わず耐えていらっしゃる。立派ですわ。
ルル様の事情を聞いて苦手なお父様と帝国の方との会食にも参加しましたし、侍女たちの背後にいる人物も調べ上げました。
でもそれは自分の為ですわ。
兄君と密かに帝国へ渡ったリノアからもたらされる情報と張り合う為。
彼女の有能さを破ることが目下私の最重要課題ですから。
マリーにはこんな一面見せられないですが…

ルル様に語学特訓をする間、セーラと三人で色々な話をしました。
迎賓館での暮らしぶりや使用人たちの態度についてもそれとなく探りを入れましたが、彼女は自分への扱いを不当だとは思っていないようでした。
「仕方ない。」「自分の母は小国の王女だから。」

何度か聞いたその言葉、彼女の態度。全てが気に食わなくて私はルル様が嫌いになったのです。

そして私はルル様に情報を渡したり迎賓館の環境をこっそり改善することはしませんでした。

唐突な会食に招かれ迎賓館を訪れるまでは…







「何をやってるの貴女!!」

食事を始める前にルル様の様子を見にきたのはマリーの言葉が引っかかっていたからですわ。

扉の外まで漏れてくる声に私は案内してくれた侍女に帝国語で開けるよう強要し、室内の様子が目に入ったと同時に彼女を押し除けて部屋へ入りました。

新たな蹴りを入れようとした体制のまま侍女は固まり引きつった顔で私を見ています。

「勝手に入ってくるなんてさすが低能な国の令嬢だわ…」

私には理解できないと思ったのでしょう。帝国語でそう呟いた彼女を手で追い払ってルル様の側から離す。

「たかだか侯爵家の娘が公爵家の娘である私に歯向かうなどどちらが低能なんでしょうね?貴女にルル様を託した皇妃様も、貴女に大金をはたいてルル様を害するように命令なさった第3妃様も人を見る目の無さに涙なさることでしょう。二重スパイさん。」

私の帝国語をしっかりと理解したらしく彼女は目を大きく見開き青ざめた顔で震え始めた。

「なんで…なんでそれを…」

ぶつぶつ何か呟いているけどそれどころではないですわ。

私はルルの首に巻きついていたリボンをほどき、状況が分からずあたふたしている案内役の侍女に医者を呼び水を持ってくるよう命じました。

「私、私はこんな国に来たくなかった。私は皇妃様にお仕えし、いずれは次期皇帝となられるフェイ様の妻に…皇妃になるのよ…こんな…こんなところで終わるわけにはいかないのよ!」

怒りに任せて重厚な燭台を振り上げながら侍女が迫ってくる。
すごい腕力ですわね。
感心している私の前に金色の光が走り込んでくると同時に侍女の手に剣の柄が素早く振り下ろされる。

ガコンッと大きな音を立てて燭台が床に落ち、侍女は手首を抑えながら悲鳴をあげて座り込む。

「燭台がこちらに落ちてこなくて助かりましたわ。危うく大怪我をするところでした。」

「おいおい、そこはありがとう。だろ?」

呆れた顔をしてこちらを見下ろしてくるリークに一瞬ドキッとしてしまったけど、これは…あれですわ!吊り橋効果というやつですわ。

「遅かったですわね?」

「かわいくね~」

「かわいいと思われなくて結構です。
でも、お礼は言わせてもらいますわ。ありがとうございました。」

頭を下げた私から顔を背けリークは頭をかいています。
まぁ、珍しい照れてますわ。まじまじと見つめている中、駆けつけたイシェラ王国の騎士と帝国の騎士が侍女を捕まえて言い争い揉め合いながら部屋から引きずり出していきます。廊下にいるエドワード王子様がテキパキと指示を出していらっしゃるのであちらは大丈夫でしょう。

「そいつ、大丈夫か?」

リークが気を取り直してルル様を見下ろした時、小さくうめきながらルル様が目を開きました。

「う…あれ、痛!」

「動いてはいけません。もうすぐお医者様がいらっしゃいますわ。」

ルル様の手を握り無事に目を覚ました彼女を前に私は恐怖と怒りと安堵がごちゃ混ぜになって私らしくもなくつい感情的になってしまいました。

「貴女!いいかげんになさいませ!
何故もっと早く私たちに助けを求めないの!あの侍女をどうにかしてと一言でも言ってくださったらいつでも動けるように準備しておりましたのに!」

私の帝国語の怒鳴り声にルル様は呆気にとられたようにただただ私を見つめていました。

「貴女は何でもそうですわ。ソーマの為、お母様の為と言いながら周りの決定を甘んじて受け入れて。
お母様の立場が低くかったから不当に扱われても仕方ないと周りに軽んじられても黙って耐え続ける。

その行為が一番お母様の尊厳を傷つけているではありませんか!
貴女はただ周りが自分の為に動いてくれるのを待っているだけ。
自分で切り開いて生きるのを怖がって誰かに決定を託して自分の意思を大切にしない!
自分自身を大事にしない!」

ルル様は目を大きく見開き、ジワジワと涙が滲みはじめています。

「私はそういう貴女が嫌いです。
美しさも知性も持ちながら…自分で切り開く力を持ちながら…言い訳ばかり並べてお兄様の、お母様の力になれればそれで良いなんて。自分が傷つくのは構わないなんて。悲劇のヒロイン気取りですの?
貴女はただの臆病者です。ただ周りに流されながら自分を軽んじる者を心の中で見下して実際には何もしない。貴女のために駆けずり回っているリノアやマリーが哀れですわ。
だって助けようとしている貴女自身が一番ご自分を大事になさらないんですもの。」



ボロボロ涙を零し始めたルル様のもとにようやくお医者様が到着して私とリークは部屋を出ました。

しばらく黙って廊下を歩いていましたが、やがて2人だけになった頃リークが話しかけてきました。

「すげ~剣幕だったな?」

「言いたいことはそれだけですの?」

「だって、俺お前ほど帝国語できね~もん。でもまぁ…」

リークはポンポンっと私の肩をたたきます。

「あんま自分を責めんなよ。こんなにひどい状況だったって俺も兄貴も気づかなかった。」

「別に私は…
自分を責めてなんて…」

「じゃあなんでそんな顔してんだよ。」

リークに言われて初めて私は目の前が涙で曇り始めていることに気づきました。

「私は薄々気づいていましたわ。気づいていて彼女から言ってきてくれるのを待っていたのです。くだらない対抗心ばかり燃やして。私ならこんなことになる前に何とでも手を打てたはずですのに。まさか、まさかあんな目に合うなんて…」

あぁ、いけませんわ。リークの前でこんなみっともない姿…弱みを握らせるようなものですわ。
うつむいた私は突然爽やかな香りと温もりに包まれました。

「お前のせいじゃねーよ。」

ギュッと抱きしめる力は強くてあぁ、リークも男性なんだわと今更なことを思っていました。

どのくらいそうしていたのでしょう。誰も通りがからなかったのは本当に幸運でした。

不覚にもリークにもたれかかってホッとしてしまっていた私は慌てて彼の腕の中から離れ距離をとります。

「わ、私は…あの、マリー。
そう!マリーに報告に行かなければ。
今夜はもう失礼いたしますわ。」

私らしくもなく乱雑に頭を下げると控え室で待たせていた私の侍女を置いて迎賓館から逃げ出すように女子寮へと帰りました。
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