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第三章 魔法学園

桜の思い出 (偽ニリーナ視点)

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攻略対象たちの好感度は思った通りに上がっている。

学園の一部の生徒や教師たちもこちらの思い通りに操ることができる。
やっと…

やっと望みが叶う時が近づいてきた。

突然この世界に放り込まれたあの日から長い間待ち望んだ日が…

それなのに何故だろう、素直に喜ぶことができない。なんだか胸騒ぎがする。全てがまやかしであるかのような違和感。
一体何故?

私は鏡に映った姿をしっかりと確認する。

今日も変わらずロベリア・ハフスは美しい。
立居振る舞いや言動に気をつけているおかげで魔力のおよんでいない者たちの態度もだいぶ和らいでいる。

1週間後に卒業式を控え準備は万全だ。

ゆったりと椅子に腰掛け窓の外に目をやる。ピンク色のふわふわと波打つ髪がちょうど女子寮の玄関から出ていくのが見えた。

カッとなって思い切りカーテンを閉める。

何故あの女は私の視界に入ってくるんだろう。
今すぐに消してやりたい。

目を閉じて心を落ち着けようとしたけれどかえって昔のことが思い出されてしまった。

あの恐ろしい始まりの日。





闇に浮かび上がる桜を満たされた気持ちで見上げていた。

毎日必死になって勉強して目指していた大学に受かり手続きを済ませてきた帰りだった。

もうすぐ始まる新しい生活が楽しみで夜に浮かぶ桜も輝いているように見えた。

「ヒロインの髪の色みたい。」

そうつぶやいてしまったのは受験後勉強から解放されてはまっている乙女ゲームのキャラクターが頭に浮かんだからで…

それが引き金だったのだとしたら。私は何としてもあの時の自分の口を塞ぎにいきたい。

唐突にまばゆい光に飲み込まれ、浮かれた気持ちでいた私をあっという間に包み込む。

光が眩しすぎて頭が殴られたようにクラクラし、私はいつの間にか地面に倒れ込んでいた。

まだクラクラしながらゆっくりと起き上がると私の周りを囲むようにいつかテレビで見た外国の開拓民のようなクラシカルな服装をした男女数人がいぶかしむような表情で私を見下ろしていた。

わけもわからず私は彼らに連れられて木造や石を重ねて作ったらしき家が並ぶ集落へ行き、一番大きな家の中へ連れていかれた。

そこには桜色の髪をしたまだ幼い少女と同じ髪色の体格のいい厳つい顔をした女性がいて、その鋭い眼差しに私はすくみあがった。

ガヤガヤと話し合う大人たちをしりめに人懐っこくニコニコと近づいてきた女の子が無邪気に名前を聞いてきたので素直に自己紹介をする。どこから来たの?と聞かれこれまた素直にいつの間にか見知らぬ土地に来ていたこと。どうやってきたのかどうすれば帰ることができるのかもわからないと話してしまった。
その様子を大人たちはじっと見ていたのだ。

その日から私は母娘の家に置いてもらえることになり、しばらくは親切に衣食住を与えてくれる彼らに感謝しながら暮らしていた。

女の子はすっかり懐いてくれて一緒に遊んだり家事を手伝ったりしながら、
私は半分夢の世界にいるような気持ちで不思議なほどそのうち帰れるだろうという根拠のない自信を持ってのんびりしていた。

そうしてひと月ほど経ったある日、私は川へ水汲みに来て聞いてしまったのだ。村長の娘の代わりになる生け贄が見つかって良かったとヒソヒソ噂している声を。

生け贄?生け贄って何だ?

あまりに聞き慣れない言葉に固まってしまったのが良くなかった。

噂話をしていた村人二人が私に気づき、逃げようとした時には遅かった。

私は意識を奪われ、気づいた時には薬でも飲まされたのか体がしびれて動かせないし言葉も発することができなくなっていた。

真っ白な服を着せられ、木の枝を編んで作った神輿のようなものに座らせられ、月のない真っ暗な夜に村長の家から運び出された。

初めは一緒に行きたいと泣いていた女の子も母親に何か耳打ちされるとパッと笑顔になり、私におめでとう!っと言いながら手を振ってきた。
何がめでたいもんか、私は大きな声で喚きたかった。

私はあんたの身代わりにされたんだ。素直に大人に騙されてるあんたと同じ私も騙されてた。帰りたい!私は自分の家に帰るんだ!

声に出すことも表情を動かすこともできずに私の叫びは自分の中で荒れ狂い他の誰にも届かなかった。
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