悪役令嬢とヒロインはハッピーエンドを目指したい

ゆりまき

文字の大きさ
197 / 247
第三章 魔法学園

再び外の世界へ  (偽ニリーナ視点)

しおりを挟む
いつもの場所に竜が見当たらない。それだけで私が過ごしていたその場所は全く違う所に見える。

呆然と立ち尽くす私に集団が気づき、女が笑顔を輝かせながら駆け寄ってきた。

「お姉さん?あの時のお姉さんですよね?全然変わってない。無事だったんですね。良かった~」

その女があの身代わりにさせられた小さな女の子の成長した姿だと気づくのにしばらく時間が必要だった。

「長い間苦しい生活をさせてしまいましたが安心してください。竜は私たちが封じました。二度とお姉さんの前に姿を現すことはないでしょう。」

誠意に溢れた美しい笑顔に私の目から静かに涙が溢れ出た。

「あぁ、お姉さん。辛かったですね。知らなかったとはいえ私の身代わりにさせてしまい本当に申し訳ありませんでした。」

彼女はパッと私を抱きしめ、トントンと背中を撫でた。

彼女の…いや、今この場にいる私以外の全ての人間が自分たちの良き行いを疑わず、生き残っていた哀れな生け贄を助け出したと思っているのだろう。

私は余計なことをしたこの女の細く白い首に両手をかけて何でこんなことを!
っと喚きたい気持ちが溢れかえりそうだというのに。

「封じたというのは…」

消え入りそうな声で何とかそう囁く。

「言葉通りです。あの竜には眠りについてもらい異空間に封じました。」

「彼…竜は苦しんだりは…」

彼女は不思議そうに私を抱きしめていた腕をほどいた。

「苦しんではいません。今はただ深い眠りについています。」

彼女の言葉を聞きながら私はふらふらと湖の側、彼がいつも横たわっていた地面に触れた。
そこはまだほのかに暖かくくぼんでいた。

「お姉さん…」

戸惑った表情で私を見下ろしてくる彼女の後ろから白いマントの集団が鋭い眼差しを向けてくる。

疑われてる。

もうどうでもいいという気持ちでうつむいた私の頭に最後まで私の心配をしてくれていた彼の声が蘇る。
彼は…私が疑われたり、どこかへ閉じ込められたりすることを望みはしないだろう。

私はゆっくりと立ち上がり彼らに向かって深々と頭を下げた。

「助けに来ていただき本当にありがとうございます。」

心にもない言葉だった。

そして私は集団に囲まれるようにして洞窟をかなり長い時間歩き、木々の間から光が差し込む洞窟の入り口へと戻ってきた。

洞窟の前にはたくさんの人が待ち構えていて、その中には歳を重ねてはいるが見覚えのある人物も何人かいて青ざめた顔で一緒に現れた私を見ている。

「皆さん。」

桜色の髪を陽の光に煌めかせながら彼女が声を張り上げた。

「皆さんを悩ませていた竜は無事に封じることができました。」

ワァァっと歓声があがる。聖女様~という掛け声も聞こえた。

聖女?彼女が?

「竜なき今、この森には平和が戻りました。しかし荒れてしまったこの森の復活にはまだまだ時間がかかるでしょう。
そしてこの森の復活に欠かせないのがヴェルフィアウルフたちの力です。
彼らにこの森でのびのびと暮らしてもらうために今後も私たち人間がこの森に立ち入ることは禁じたいと思います。」

人々は当てが外れたと言わんばかりに困惑した表情を浮かべている。

「ヴェルフィアウルフは希少な生き物です。彼らが暮らす場所を提供するのはとても名誉あることで国からの助成も厚くなり、皆さんの生活もより良いものになるでしょう。」

人々の表情は再び明るくなり、大きな拍手や歓声が湧き上がる。

「そして、喜ばしいことがもう一つ。私の身代わりに生け贄として竜の元に捧げられた方が無事に生きていました。」

後ろから押し出されるようにして私は彼女の隣に並ばされた。

私の姿を見て笑顔で拍手している人もいれば眉をひそめたり目が合わないように慌てて顔を下げたりしている人もいる。

私はどんな顔をすればいいか分からず恥じらっているフリをして顔をうつむかせた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

【完結】私ですか?ただの令嬢です。

凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!? バッドエンドだらけの悪役令嬢。 しかし、 「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」 そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。 運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語! ※完結済です。 ※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///) ※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。 《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

悪役令嬢のビフォーアフター

すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。 ※他サイト様にも掲載中です

処理中です...