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第三章 魔法学園

賢者の命を脅かす者

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(のんちゃんを助けなきゃ、のんちゃんを助けなきゃ、のんちゃんを助けなきゃ…)

ギュッと目をつぶって両手を握り合わせ頭にはそれしか浮かばなかった。

「…リー、…リー、マリー!!」

どこからか声がする、声だけじゃなく身体もガクガク揺さぶられる。

もう!邪魔しないで今集中してるんだから!


無視しようと更に両手に力を込める

「もういい、もう十分だから!」

「マリーそれ以上魔力を注いだらアロイスが壊れる!」

「マリー落ち着いて。目を開けて」

「マリーお聞きなさいったらアロイスはもう大丈夫ですわ。」

次々と聞こえてくる声、その言葉の意味を悟った瞬間に私はパッと目を開いた。

最初に目に入ったのは半透明の黒いガラスのようなものに囲われ横たわるアロイスの姿だ。

すぐそばにひざまずき額に汗を滲ませていたカストルが崩れるように地面に倒れこむと同時にそのガラスも砕け散るように消えていく。

「カストル!」

ルルが珍しく慌てた様子でカストルの側に駆け寄る。

「マリーアロイス様はもう大丈夫。じきに目を覚ますよ。」

振り返るとディルが私の肩に手を置いて優しくうなずいた。

「ってかお前暴走しすぎ。アロイスが心配してた通りだよ。
いい加減自分の尋常じゃない魔力量に気づけよな。
カストルがいなかったらあいつ光魔法の浴びすぎでおかしくなっちまう所だった…

って痛ってぇなんだよ本当のことだろ?」

リークが掴んでいた私の腕を離しながら言いイライザに小突かれている。
さてはガクガク揺さぶってたのはリークか。

「リーク殿下、公共の場であることをお忘れですか?少々言葉が乱れているのでは?」

イライザは涼しい顔でそう言うと私の側に来て手を握ってくれた。

「マリー体調は大丈夫?貴女混乱して光魔法を暴走させてたの。ディルや、私たちのシールドで会場中の人には被害は無さそうですわ。シールドを抜けたものは全てアレに吸い込まれましたし。」

イライザが目を向けた方を見ると先程より確実に巨大化した光の渦が燦然と輝きを放っている。

「のんちゃん…のんちゃんは…」

呆然と光の渦を見上げてから私はハッとして床に視線を戻す。

のんちゃんは相変わらず床に横たわっているけれど血色が良くスヤスヤと眠っているように見える。

「アロイス様が受けた矢はご自分の力で無効化したようで、どちらかと言うと今眠っているのはマリーの癒しの力の効果のようなの。」

セーラが言いにくそうに教えてくれた。

自分では何をどうやったのか全く覚えていないけど倒れたのんちゃんを見てパニックになった私が光魔法を暴走させてしまったらしい。

でも皆んなの話によるとそれがのんちゃんの狙いだったようだ。

私の力の暴走が異形の主を目覚めさせる鍵だとか。私が計画を知ってはいけなかったのはそういうわけだったんだ…

のんちゃんを助けようと暴走したわけだから力の多くがのんちゃんに集中する。光魔法に対抗できる闇魔法のシールドでなんとか緩和してくれていたのがカストルだったらしい。

カストルに弾かれた力で被害が起きないように他のみんなも全力で頑張ってくれていたみたいだ。

「ごめんね、ありがとうみんな…」

知らなかったとはいえ、そして狙い通りの行動を取ったとはいえ恥ずかしい!

壇上にいた治療士たちがいつの間にか降りてきてアロイスとカストルの様子を調べてくれている。

「まぁ、どんまい。俺も昔散々やらかしたからなぁ。
アロイスの奴、危険すぎるから他の方法を探そうって言う俺たちに聞く耳持たなくってさ。
この暴走で例え命を落としたとしても本望だ。とか言ってよ~
そうなった場合マリーには真実を絶対に知らせるなとか、そのあとのマリーのケア方法は~とか巻物みたいなメモを3巻も渡してきやがってさ。」






「リーク、ストップそれ以上しゃべるとイライザと引き離すよ。」






ハッと振り返るとのんちゃんがゆっくり床から起き上がったところだった。

治療士たちと小声でいくつか言葉を交わした後、少しフラつきながら立ち上がり私の前に立つ。

「のんちゃん…良かった、びっくりしたよ、のんちゃん痛くない?苦しくない?私、ごめんね。」

アワアワと思いつく言葉を並べる私にのんちゃんはフッと笑みを浮かべる。

「大丈夫。良かったこうしてマリーの姿を見られて。驚かせてごめんね。」

笑って立っている姿はいつもより更にキラキラ輝いてみえる。

「なんか眩しいな、マリーの浄化のおかげか?ついでに腹ん中も浄化してもらえば良かったのに。」

「リーク、よっぽどイライザと引き離されたいみたいだね?」

「いやいやいや、無事で良かったよアロイス。んで、目的は達成されたのか?」

のんちゃんはリークに厳しい眼差しを送りつつ光の渦を見上げる。

巨大化したその渦から距離を取るように会場にいる人たちはいつの間にか私たちから大分離れたところに集まっていた。
みんなこちらの騒ぎを多少気にしつつも視線は渦とその目の前で大きく羽を広げたホープに向けられている。
渦から発生する光を全身に浴びながら首を伸ばしジッと渦を見上げるホープの姿は神聖でいつもの可愛く甘えてくるホープと同じ生き物と思えない。近寄り難い気品に満ちていた。


「主よ。」

どこからともなくリーダーが現れてひょいっとのんちゃんの肩に飛び乗る。

「ようやく目を覚ました。こちらに向かってくる。」

「やった、命をかけたかいがあったね。」

のんちゃんは嬉しそうだけど私は申し訳ないよ~
賢者アロイスの命を脅かしたのが異形の主でも偽ニリーナでもなく私だなんて!

そんな私の心中を知ってから知らずかのんちゃんがポンっと背中をたたく。

「体調は大丈夫?まだ力は使えそう?ここからの展開は予想通りに行くとは限らないからマリーの力もまだまだ借りたいんだけど。」

「もちろん!まだ半分以上残ってると思うから大丈夫!ちゃんと役に立つよ。」

強くこぶしを握る私にのんちゃんはウンっと優しくうなずいてくれた。

「で、異形の主の登場ってわけか。年老いた竜なんだろ?初めて見るぜ楽しみだな。」

「カストルだいぶ調子戻った。でもあまり無理させたくない。私、頼りないけど頑張る。」

ルルが立ち上がったカストルの背中に手を置いたまま宣言すると、ディルやイライザ、セーラ、エドワード殿下、シールドを外してアンディーブ様とカミル先生もこちらに近づいてきた。


「来るよ!」

ホープの真剣な声に私たちは覚悟を決めそれぞれの武器を握りしめて光の渦を見上げた。

奥に集まった人たちもホープの声に驚きながらもサッと臨戦態勢をとっている。

偽ニリーナだけが、騎士たちに取り囲まれながらも緊迫した様子はなく真剣な眼差しでその瞬間を待ち望んでいるように瞬きもせずに食い入るように渦を見上げていた。
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