悪役令嬢とヒロインはハッピーエンドを目指したい

ゆりまき

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番外編

帝国の異端児  ソーマ皇子 視点

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危なかった。いや、今も危ない状況は続いているだろうけど。

やっぱりあの神獣と一緒に居る所を見られたのはまずかった。

神官たちはまだしも皇帝陛下まで俺を後継ぎに指名するとは。

どう考えても正妃の息子、第一皇子であるアルバ皇子が皇帝になるのが一番穏便に済むはずなのに。

アルバ皇子に何か問題があるわけではない。
何事もそつなくこなす彼なら良き皇帝になるだろう。
だが、陛下からしてみたら彼は穏やかで優等生すぎるのかもしれない。

狡猾さや手段を選ばず欲しいものを手にしようという気概であればフェイ皇子の方が…というかフェイ皇子の母親の方が持っていた。彼ならより好戦的な皇帝になっただろう。

では俺は?

俺は皇帝なんて面倒な座に着くのはごめんだ。

アルバ皇子やフェイ皇子より抜きん出ているわけでもなさそうだし。

妃たちや貴族、神官たちに気に入られてもいない。

各地のちょっとした揉め事の鎮圧に向かわされたことは何度かあるが、功績というほどのものでもないし。

武力は確かに他の二人より高いかもしれないがそれだけで皇帝に選ばれるわけもない。

やれやれと思いながら仮の私室のソファーで首を回していたらノックの音がした。

「陛下がお呼びです。」

扉の外から声がかかる。

少しは休ませて欲しいもんだ。

首を押さえ、先ほどのひんやりとした剣の感触を思い出す。

いよいよ今日が人生最後の日になるかもしれない。

もしそうなれば母は母国に留まるだろうしルルは婚約者が守ってくれることを願う。
あいつはなかなかのブラコンだからな。なるべく悲しませるようなことはしたくないが…

ブラコンじゃないと騒ぐルルの姿が思い浮かびニヤつきながら扉を開けると待ち構えていた侍従が一瞬ビクッと驚いた様子を見せた。

気でも狂ったと思われたか?まぁいい。
実際住み慣れた塔を焼かれ、慣れ親しんだ使用人たちから離され、皇帝陛下と正妃、アルバ皇子が住むこの東の宮殿に住まわされているんだ。
気が狂ったって仕方がない状況といえるだろう。

ぷらぷらと侍従の後に続く俺に憐れむような目を向ける使用人たちの前を通り過ぎ連れて行かれたのは王族たちが使う私的な応接間だ。

まぁ、自分もその王族なわけだけど初めて来た。今まで寄りつこうとも思わなかったしな。

少し待たされてから部屋に入る。

想像と違ってあまり煌びやかな部屋ではない。

ソファーに長椅子、テーブルに暖炉。
壁には絵が数枚。

くつろげる雰囲気を優先したようなその部屋を皇帝が作らせたのかと思うと少し意外だ。

部屋の中心にある巨大なソファーに葉巻を燻らせる皇帝が。向かい合う席に本を読む正妃。そして窓辺にたたずみ手を後ろに組んで外を眺めているアルバ皇子。

総出で待ち構えてるとはね、何を始める気なんだか…

「ソーマ・フォン・ランタナお呼びと聞き急ぎ参上いたしました。」

ペコリと頭を下げるが誰も何も言わないどころか身動きひとつとらない。

しばらく突っ立っていたけどまるで存在を認識されていないようで面倒になり勝手に部屋を見回し壁にかけられた絵を眺めたりしてからアルバ皇子の隣に立って外を眺めた。
外はもう真っ暗だが、庭園に灯された灯りが幻想的な美しい景色を作り出している。

「何を考えている?」

アルバ皇子は視線をまっすぐ外に向けたまま問いかけてきた。

「妹のことを思い出していました。」

俺の答えに彼は軽く首をかしげた。

「この闇夜に浮かぶ景色と彼女が似ているなと思いまして。」

俺の答えにアルバ皇子はフッと声を出して笑った。

「そなたは存外ロマンチストなのだな。まぁ、思い浮かべる相手が想い人ではなく妹というのがそなたらしいが。」

俺は小さく肩をすくめる。

「想い人といえるような相手がおりませんので。」

「それはそれは、残念なことだ。」

クックと笑う皇子を冷めた目で眺めていると、

「アルバの側に行ったか。」

皇帝が独り言にしては大きすぎる声で呟いた。

急いで振り返ると煙を吐き出しながらこちらをつまらなそうに眺めている。

「お前が誰に近づくかと考えていた。何故アルバにした?」

ポリポリと頬をかきながら考えて答える。

「アルバ皇子を選んだというよりこの窓からの景色に興味があったんで…」

正直に言ったのに皇帝の眉間には更に深い皺が刻まれる。

「おかしな奴だ。景色など見て何になる。」

「今日が人生最後の日になるなら少しでも楽しんでおこうかと思いまして。」

アルバ皇子がヒュッと息を呑んだ。

「そなたはおかしな奴だがなかなか頭が回る。自分の価値をもう少し知った方がよいだろう。
余は本心でお前を次期皇帝に選んでもよいと思っていたのだぞ。」

「アルバ皇子がいらっしゃるのにですか?」

「こやつは少し面白みに欠ける。」

チラッとアルバ皇子の様子を伺うが相変わらずこちらに背を向け外を眺めている。

「皇帝に面白みは必要ですか?」

「あぁ。誰もが予想するような国づくりはしないだろうからな。
例えば他国へ留学させた妹が闇の魔力を持つ稀有な高位貴族を婚約者として土産に連れて帰るというような。」

「妹の婚約をまとめられたのは陛下ではないですか。」

「余は婚約を認めただけだ。そなたが全てを整えた書類に判を押しただけにすぎん。」

アロイスに協力してもらいあちらからの申し出という形にしてもらったはずなのに…やはり皇帝は騙されないか。

「何か企みがあるのかとも疑ったが、そなたを調べれば調べるほど権力には無欲なように思え不思議でたまらぬ。」

黙り込んでいる俺を皇帝はじっと眺めてくる。

「そなたをどうすべきか考えあぐねておる。そなたがアルバに忠実に仕えるならば生かしておくのも良いだろう。」

「私が忠誠を誓うと申し上げるのは簡単ですが、アルバ皇子がそれを信用してくださるでしょうか?」

俺の言葉にようやく皇子が振り返る。じっと見つめてくる表情は皇帝とよく似ている。

「私は、いや私たちは疑われたり蔑まれたり命を狙われたりはもうこりごりです。
光闇教を重んじる者たちは闇の魔力を持つカストル殿とその妻であるルルシアに敬意を払い敬うでしょう。彼女がいなければ彼がこの国に留まる理由などない。
簡単に命を脅かそうとする者はいなくなるだろうと、それが妹を守る最善と思い画策しただけのこと。それ以上の他意はございません。

アルバ皇子が望むなら共に国のために尽力いたしますが皇子が私を側に置きたいと、信用したいと思わず常に疑いの目を向けるおつもりならいっそこの場で首を刎ねていただいたほうが良いです。
息苦しい中で生き永らえても虚しいだけですから。」

今までじっとしていた正妃が思わずというようにパタンと本を閉じた。
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