クレーンゲームの達人

タキテル

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「鈴木! そういえば賞金の半分は鈴木に渡るようになっていたんだったな。仕方がないから恵んでやるよ」
 神谷は王様にでもなったかのように鼻を伸ばしながら現金が入った封筒を僕にチラつかせた。こいつ一発殴ってやろうかと思うほど顔がやらしいがそのような思いを押し殺して封筒に手を伸ばす。
「頂き!」
 僕が封筒に手を伸ばしたその時だった。横から封筒を奪われたのだ。その賞金が入った封筒を手にしたのは柊祐奈だった。
「え? なに?」
 僕は状況が掴めず、柊祐奈を見て一時停止した。
「これは私にくれるって約束だったわよね? 有り難く貰っていくわ」
「ちょっと待ってよ。三位の賞金は貰ったはずでしょ? てっきり僕は何も貰えないと思ったからあげるって言った訳であって貰えたのなら話は別というか……」
「何よ! 男に二言があるっていうの?」
 僕は彼女のセリフに言い返せずにいた。これは男を黙らせる最も卑劣な下り文句みたいなもので言葉に迷う。
「それとこれとは話が別だよ」
 なんとか僕が捻り出した言葉である。だが、そんな発言にもすぐに彼女には打ち砕かれてしまう。
「私、毎日辛いの。これも人助けの一貫だと思ってくれたら嬉しいな。スートン」
 柊祐奈は上目遣いをしながら甘えるように言ってくる。おまけにYouTubeの僕の芸名をやらしく言ってくるのだ。僕は女の武器を目の当たりにした瞬間であった。
「ど、どうぞ。受け取ってください」
 いつの間にか彼女に乗せられ、僕が受け取るはずであった賞金を見送ってしまったのだ。
「あーあ」
 近くで見ていた神谷は馬鹿だなといったように声を漏らした。それは自分でもわかっていることだ。それ以上は何も言わないでもらいたい。
「神谷! 鈴木!」
 取るものを取った柊祐奈ははっきりと僕たちの名前を呼んだ。
「僅かな時間だったけど、あなたたちと共に大会に出られて少しだけ楽しかったわ。クレーンゲームの腕は認めざるを得ないほどに。これからは私なりに生きていくから多分、もう会うことはないわ」
 彼女なりに感謝の言葉なのだろうか。それとも投げやりの言葉なのだろうか。どちらにせよ、嫌には聞こえない。
「また、キャバクラに走るのか?」
 神谷の一言が柊祐奈に重くのしかかった。
「……悪い?」
 柊祐奈は逆ギレのように鋭い目線で神谷を睨みつけた。僕は見ていられなくなるほどソワソワしながら見ていた。
「悪くはない。ただそれは自分で楽しくてやっているのであれば何も言わない。でも、嫌々でやっているならそういうことになる」
「……ふーん。あなたが私に説教するなんていい度胸しているじゃない。でもね、これは仕方がないことなの。生きていく為にはお金がいる。自分のしたいことだけをして生きていく人間なんてまれよ。誰だって嫌なことをしてお金を稼ぐの。私もその一人よ」
 坦々と言う柊祐奈に対し、神谷は噛み付く。
「確かに自分のやりたいことだけをして生きていく人間は多くない。むしろひと握りかもしれない。でも、ゆうちゃんは他の道に進むことも大切だ。キャバクラよりも他のジャンルで才能を発揮できる場所があるはずだ。そんなところで働いていても幸せになれないよ」
「私の才能? あなたに私の何がわかるっていうのよ。それになんであんたにとやかく言われなきゃいけないの? 私の勝手よ」
 柊祐奈は興奮気味であった。神谷は地雷を踏んでしまったと気が気でなかった。
「ごめん。ゆうちゃんの人生だ。ワイがあぁだ、こうだ言うギリはないのは事実。でも、今回を気に仲間として一緒にいたいと思っているんだけど、どうだろうか? 友達になってほしい」
 神谷の正直な気持ちだった。それは僕も同じで柊祐奈とはこれからも良き仲間として有り続けたいと心のどこかで思っている。
「仲間って何よ。ゲーム仲間? そんなのお断りよ。知り合いに見られたらとんだ恥よ。私は仲間を必要としない。一人の方が気楽だしね。まぁ、せめてものギリとしてあなたたちの動画くらいは拝借してあげてもいいわよ?」
 これが柊祐奈という女であった。可愛い顔をしながら口を開くと毒を吐く残念な女。でも、それは彼女の素質であっていいところでもある。自分らしさをしっかり持っている。
「ありがたきお言葉頂きました」
 神谷は忠誠を誓うように言った。
 柊祐奈は自由気ままな猫だ。誰にも彼女を止めることはできない。そう、僕らは悟った。
「鈴木、最後にもう一度聞くけど、あんたの夢は何?」
 不意に僕は柊祐奈に質問された。
「僕は……」
 言葉が止まってしまった。本当は何がやりたいのか答えが出なかった。もちろん答えはプログラマーなのだが、今はYouTuberとして行きたいのか、それとも別のことをしたいのか混乱したのだ。
「夢はしっかりと持ちなさい。私みたいにならないように」
 柊祐奈は僕に完璧な答えを求めていなかった。今は考えろということなのだろうか。
「僕の夢は変わらない。ゲームを開発するプログラマーだ」
「果たしてそうかしら。私はYouTuberの方がお似合いに見えるわ」
「え? どうして?」
「さぁ、どうしてかしら。そんな気がしただけ」
 柊祐奈はいつものように貶すような言い方ではなく、笑みを浮かべながらそう言った。今の僕はその言葉の意味を知る術はなかった。
「じゃ、またね」
 柊祐奈は言った。
「また会えたら連絡先教えてよ」
 神谷が言った。
「いつか会える時を楽しみにしているよ」
 僕が言った。

 僕たち三人は短いような長いような、でも短かった時間を噛み締めて、チームは解散した。
 それから柊祐奈の素性はわからなくなった。
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