クレーンゲームの達人

タキテル

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「はい! カミタツです☆」
「スートンです」
「今回も始まりました。今回、挑戦していく台はこちら……」
 クレーンゲームの大会が終わってからも僕たちの日常は相変わらず動画撮影をしてYouTubeにアップさせることだった。何も変わらない日常。でもこの日常はつい最近からのものであるが、僕からしたらずっと昔からやっていたような感覚がする。前までは神谷に付き合わされて無理矢理やっていた感じはしていたが今は自分から率先的にやろうという気持ちが上回っていた。いつの間にこのような感覚になったのか自分でもわからない。
 神谷がクレーンゲームのチャンピオンになってからというもの、視聴者はうなぎ登りに上がっていった。そのおかげで名前も結構売れ始めているのだ。相変わらず僕は顔出しをしていないので誰がわかってもらっていない。むしろその方が好都合である。僕は目立つことは好まない。影として活動する方が落ち着くのだ。
しかし、最近ふと、不満になることがあるのだ。それはこのままでいいのかというものである。今が楽しければいいという子供の考えではいつまで経っても前に進めない。
 元々神谷組んだのは無職で時間があり、就職するまでの間だけという条件であった。なのに、最近では就職活動すらせず動画撮影にのめり込む自分がいてちょっと引いてしまっているのだ。

「牛丼大盛、おしんこセットで」
「……牛丼並盛」
 動画撮影の後、僕たちは昼食の為、牛丼店に訪れていた。毎回昼食は牛丼というのは定番の話である。
「鈴木! いつも大盛なのに今日はどうした? 食欲ないのか?」
 神谷は僕が並盛を注文したことにより不信を抱いたようだ。神谷は調子に乗っておしんこセットにしているから気分が良い様子である。
「いや、ちょっと食欲なくてさ」
「悩みか。ワイに話してみ」
 ちょうどその時、注文した牛丼がテーブルの前に並べられた。
「いただきます!」
 神谷は掃除機のように牛丼を掻き込む。
「最近、このままでいいのかなって思えてきてさ」
 僕は濁すようなことを言って様子を見る。
「……ゆうちゃんに言われたことか?」
 神谷は察してくれたように触れた。
「うん。今が楽しければいいっていうのはちょっと違うような気がしてきた。でもどうしたらいいのかわからない」
「ワイのようにはいかないということか。元々ワイが引き込んだ道や。鈴木のやりたいことがあればそっちに行けばいい。初めからそういう条件で手を組んだんやろ?」
「僕と解散するようなことがあってもいいの?」
「それはそれで構わん。ワイが止めるギリはないからな。ただ、一つ言いたいのは行った先で後悔しないことや。なんの為に解散したのかわからなくなるからな」
「じゃ、そういうこともあるかもしれないって視野に入れといてよ」
「おう。ただ、突然明日辞めるとか言うのは無しやで? 一週間前? いや、二週間前? 一ヶ月前?」
「ははは。わかったよ。事前に言うから」
 場の雰囲気はいつの間にか和やかになっていた。神谷は咎めるようなことはしないが後悔しないことという条件を出してくれた。僕は少し気持ちが楽になった。そんな気がした。

自宅で一人、自室にいた時だった。いつもならゲームをして適当に過ごすのだけれど今は何も手がつかずにいた。神谷にも背中を押された気がしてこれからが僕の答えを見つけることになる。
 小さい頃には大きな夢を簡単に出していた。しかし、二十歳を超えた成人がその時と同じように大きな夢を言うには少し違う。現実を理解しているからだ。小さい頃はそのような現実はしらない。パイロットになりたいとか宇宙飛行士になりたいとか子供の頃には簡単に言えたが、今の自分が言ったら馬鹿にされる。
 言えたとしても現実に沿った夢が限界である。いつから夢を語るのが恥ずかしくなったのだろうか。
「裕斗、ちょっといいか?」
 扉をノックすると同時に父の声が聞こえた。
「なに?」
 返事をしたらドアが開いた。
「最近、仕事はどうだ?」
「うん。普通だけど?」
 僕は親には最初の就職先は辞めてフリーターとして働いていると伝えている。しかし、実際には職として付いている訳ではなくYouTuberとしての動画撮影をメインとしてやっている。家で編集作業をすると親に嘘をついていることがばれる為、毎回編集作業は神谷の家でやっているという訳だ。
「そうか……ならこれはどういうことかな?」
 父はスマホを取り出してある動画を僕に見せつけた。
「はい! どうも! カミタツと」
「スートンの」
「クレーンゲーム実況を始めます。今回挑戦していくのは……」
 僕は絶望的な顔で父を見た。そう、父が見せたのは紛れもなく僕たちが投稿した動画だったのだ。
「これ、お前だろ? 仕事もせずにこんなふざけたことをしていたのか? どうなんだ、裕斗!」
 父は脅すように僕に迫ってくる。しかし、一体なぜ父にばれてしまったのだろうか。父も母もYouTubeみたいな動画は一切見ない人だ。仮に見たとしても僕は顔出しもしておらず偽名を使っているのでばれるようなことはないはずだ。それなのに父は確信したように言い寄ってきたのだ。
「な、何を言っているの? 父さん。それがどうして僕だって言えるのさ」
 僕はシラを切るように否定してみせた。証拠がない限り決め付けるのはまだ早い気がしたのだ。
「どうしたも、こうしたも近所の人達が皆言っていたぞ。ゲームセンターで動画撮影しているって。おまけにネットでは騒がれているようだから試しに見ていたらこれは間違いなく裕斗だ。顔は出ていないが、この服装、体型、喋り方、声……まるでお前じゃないか。他の人はわからなくても親からしたら一発でわかるに決まっている」
「……それはその……」
 的確に僕を当てはめてくることに対し、言い逃れができない状態になっていた。
「次の就職の為にあえてフリーターを許したがそのようなものの為に許した訳じゃない。就活しないならウチには不要だ。出て行ってもらうぞ」
「ちょっと待ってよ。僕だって色々考えがあってやっている訳であって何も急に出てけって言われても困るよ」
「困るのはこっちだ。色々考えがあるとはどういったことか言ってみろ」
「それはその……」
 僕は言葉を詰まらせた。
「ほら、何も考えていないじゃないか。いいな、YouTuberとかふざけたものを続けるようであれば出て行ってもらうからな! 分かったか?」
 強い発言の後、父は乱暴に部屋の扉を閉めた。僕はその反動にビクついた。
「言われなくてもわかっているよ。それくらい」
 僕は立ち去った父の背中に独り言のように呟いた。
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