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第1章 はじまりの村
第45話 見たのか
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何か少女が言いかけていたのを無視して、俺はばたりと浴室の扉を閉じた。
──落ち着け、とりあえずパンツをはこう。パンツだけははいておこう。
服は浴室の外に置いてきてしまっている。
俺の手持ちにある装備はパンツとタオル一枚ずつだけだった。
俺は今できるベストを尽くして装備を整えた後、覚悟を決める。
扉を開けるとネグリジェ姿の少女の姿がやはりあった。
「……こんばんは」
とりあえず声をかけてみる。目の前の少女──アイネに。
髪型がいつものおさげじゃなく、ストレートにおろされており印象が違ったので一瞬気づかなかったが、どこからどうみてもアイネだった。
俺が幻覚を見ているわけでないのであればアイネが俺の部屋の玄関で立っている。
「……その、ウチ、見てないっす」
アイネが震えた声でそう問いかけてくる。
とてつもなく動揺しているようで体を小刻みに震わせている。
表情はひきついっていてひどく怯えた表情に見えた。
それも仕方ないかもしれない。上半身裸でパンツ一枚、腰にバスタオルを巻いた男を目の前にして冷静でいられるほどアイネが男に慣れているようには見えなかった。
俺も逆の立場だったら今のアイネみたいになっていただろう。
「ほんとっす。新入りさん髪ぐしゃぐしゃしてたじゃないっすか。だからそっちに気をとられてて、ほんとに見てないんす。それにここ、結構暗いしっ!」
「そうか。わかった」
アイネがあわただしく腕を振り回しながら、早口でそう言ってくる。
それはさておき、とりあえず服を着なければならない。
そう考え俺は服をかけた場所にまで移動しようとする。
「ほ、ほんとだって! 信じてっ!」
別にアイネを無視した訳ではなく冷たくした訳でもなく、ただただ恥ずかしかったから服をとりにいっただけなのだが。
アイネはそうは受け取らなかったらしく、悲痛な声色を出しながら俺の腕をつかんできた。
とりあえず服を着たいので、俺はアイネの方に振り返り、なるべく落ち着いた声色で彼女に話しかける。
「……いや、やめよう。とりあえず服着させてくれ」
「あ、そっすね……ウチ、後ろ向いてるから……」
言うや否や、アイネは扉の方に振りかえる。
俺の部屋は玄関から全体が見渡せる程に小さい。
女の子と同じ空間で着替えるというのはかなり恥ずかしいので正直、一度部屋から出てほしかったのが……まぁそこまで言うのはかわいそうだろう。
俺は部屋の明かりをつけることもなく、急いでシャツとズボンを身に着ける。
「もう大丈夫だよ」
そう俺が言うと、アイネはおそるおそる俺の方に振り替える。
すると、少し怪訝な顔をして首をかしげてきた。
「ん……新入りさん、パジャマないんすか?」
部屋の明かりをつけていないせいで俺の恰好が良く見えないのだろう。
アイネは玄関からぐーっと上半身を前に傾けながらそう言った。
対して、出口付近の浴室からは光が漏れているため俺の方からはアイネの表情が良く見えていた。不思議そうに俺のことを見つめているアイネの顔が良くわかる。
……俺からすればネグリジェ姿で俺の部屋に来ているアイネの方が不思議なのだが。
「あぁ。いつもこの恰好で寝てるけど」
「そうなんすか。寝にくくないんすか?」
「ちょっと寝にくいかな。でもこれしか服ないし」
寝巻の類はギルドから支給されていない。
そのため、俺はこの服をずっと着用している。
最初は生活しにくいと感じたこともあったが慣れてしまえば全く気にならなかった。
「あはは……オートウォッシュやオートメンテに頼りすぎじゃないっすか? 替えの服ぐらい用意したほうがいいっす」
「オートウォッシュ?」
聞きなれない単語に、今度は俺が首をかしげる。
「あー、新入りさんはそういうの、よく分からないんだっけ……」
そんな俺に苦笑いを浮かべながらそう返すアイネ。
「戦闘用の服にかけられている魔法のことっす。一日に一回、魔法による洗浄や修復が行われるんすよ。服を脱がないと発動しないけど……」
「あー、なるほど……」
風呂に入る前に抱いていた疑問が解決してしまった。
──それでアイネの血がついていなかったということか。
他の魔法と違って何か特殊なエフェクトが出るわけではないようだが……
と、自分の服をまじまじと見つめる俺がおかしかったのか、アイネがくすりと笑う。
「今度、服でも買いに行くッすか? ウチ、選んであげるっす。先輩には変なセンスって言われるんすけど、ウチ結構ファッションには自信あるんで。まぁ、トーラじゃジジくさいものしかないかもしれないっすけど……」
「そ、そうか……ありがとう……」
気遣いは嬉しいが女の子に服を選んでもらえるなんてリア充イベントをすんなりこなせるほど俺は自分の甲斐性に自信が無い。
思わず言葉が濁ってしまった。
「……それで、その……すんませんっした」
そう言いながらアイネは深々と頭を下げた。
このまま土下座でもしそうな程の勢いで。
「さ、最初はノックしたんですけど反応なくて……でも、なんか音がしたから部屋の中にいるとは思って気になって覗いてみたら、お風呂に入ってるってわかって……それで、待ってたんすけど……」
まさか裸のまま出てくるとは思わなかったということか。
しかし風呂上りにいきなり自分の部屋で人を……それも異性の姿を見たら誰だって腰を抜かす程驚くのではないだろうか。
「いや、いい。……見てないんだろ?」
「いっ!?」
若干の抗議の意味も含めてアイネに意地悪をしてみる。
するとアイネは一気に顔を赤くしてその場で固まってしまった。
「……見たのか」
「見てないっ! 本当に見てないっす! いきなり聞かれたからびっくりしただけだってば!」
地団駄をふみながら必死に反論してくるアイネ。
見ていて少し面白いのだが、このままでは周囲の部屋の人にも迷惑になるかもしれない。
俺はとりあえず話題を変えることにした。
「わ、分かったよ。でもどうした、なんか用でも?」
──落ち着け、とりあえずパンツをはこう。パンツだけははいておこう。
服は浴室の外に置いてきてしまっている。
俺の手持ちにある装備はパンツとタオル一枚ずつだけだった。
俺は今できるベストを尽くして装備を整えた後、覚悟を決める。
扉を開けるとネグリジェ姿の少女の姿がやはりあった。
「……こんばんは」
とりあえず声をかけてみる。目の前の少女──アイネに。
髪型がいつものおさげじゃなく、ストレートにおろされており印象が違ったので一瞬気づかなかったが、どこからどうみてもアイネだった。
俺が幻覚を見ているわけでないのであればアイネが俺の部屋の玄関で立っている。
「……その、ウチ、見てないっす」
アイネが震えた声でそう問いかけてくる。
とてつもなく動揺しているようで体を小刻みに震わせている。
表情はひきついっていてひどく怯えた表情に見えた。
それも仕方ないかもしれない。上半身裸でパンツ一枚、腰にバスタオルを巻いた男を目の前にして冷静でいられるほどアイネが男に慣れているようには見えなかった。
俺も逆の立場だったら今のアイネみたいになっていただろう。
「ほんとっす。新入りさん髪ぐしゃぐしゃしてたじゃないっすか。だからそっちに気をとられてて、ほんとに見てないんす。それにここ、結構暗いしっ!」
「そうか。わかった」
アイネがあわただしく腕を振り回しながら、早口でそう言ってくる。
それはさておき、とりあえず服を着なければならない。
そう考え俺は服をかけた場所にまで移動しようとする。
「ほ、ほんとだって! 信じてっ!」
別にアイネを無視した訳ではなく冷たくした訳でもなく、ただただ恥ずかしかったから服をとりにいっただけなのだが。
アイネはそうは受け取らなかったらしく、悲痛な声色を出しながら俺の腕をつかんできた。
とりあえず服を着たいので、俺はアイネの方に振り返り、なるべく落ち着いた声色で彼女に話しかける。
「……いや、やめよう。とりあえず服着させてくれ」
「あ、そっすね……ウチ、後ろ向いてるから……」
言うや否や、アイネは扉の方に振りかえる。
俺の部屋は玄関から全体が見渡せる程に小さい。
女の子と同じ空間で着替えるというのはかなり恥ずかしいので正直、一度部屋から出てほしかったのが……まぁそこまで言うのはかわいそうだろう。
俺は部屋の明かりをつけることもなく、急いでシャツとズボンを身に着ける。
「もう大丈夫だよ」
そう俺が言うと、アイネはおそるおそる俺の方に振り替える。
すると、少し怪訝な顔をして首をかしげてきた。
「ん……新入りさん、パジャマないんすか?」
部屋の明かりをつけていないせいで俺の恰好が良く見えないのだろう。
アイネは玄関からぐーっと上半身を前に傾けながらそう言った。
対して、出口付近の浴室からは光が漏れているため俺の方からはアイネの表情が良く見えていた。不思議そうに俺のことを見つめているアイネの顔が良くわかる。
……俺からすればネグリジェ姿で俺の部屋に来ているアイネの方が不思議なのだが。
「あぁ。いつもこの恰好で寝てるけど」
「そうなんすか。寝にくくないんすか?」
「ちょっと寝にくいかな。でもこれしか服ないし」
寝巻の類はギルドから支給されていない。
そのため、俺はこの服をずっと着用している。
最初は生活しにくいと感じたこともあったが慣れてしまえば全く気にならなかった。
「あはは……オートウォッシュやオートメンテに頼りすぎじゃないっすか? 替えの服ぐらい用意したほうがいいっす」
「オートウォッシュ?」
聞きなれない単語に、今度は俺が首をかしげる。
「あー、新入りさんはそういうの、よく分からないんだっけ……」
そんな俺に苦笑いを浮かべながらそう返すアイネ。
「戦闘用の服にかけられている魔法のことっす。一日に一回、魔法による洗浄や修復が行われるんすよ。服を脱がないと発動しないけど……」
「あー、なるほど……」
風呂に入る前に抱いていた疑問が解決してしまった。
──それでアイネの血がついていなかったということか。
他の魔法と違って何か特殊なエフェクトが出るわけではないようだが……
と、自分の服をまじまじと見つめる俺がおかしかったのか、アイネがくすりと笑う。
「今度、服でも買いに行くッすか? ウチ、選んであげるっす。先輩には変なセンスって言われるんすけど、ウチ結構ファッションには自信あるんで。まぁ、トーラじゃジジくさいものしかないかもしれないっすけど……」
「そ、そうか……ありがとう……」
気遣いは嬉しいが女の子に服を選んでもらえるなんてリア充イベントをすんなりこなせるほど俺は自分の甲斐性に自信が無い。
思わず言葉が濁ってしまった。
「……それで、その……すんませんっした」
そう言いながらアイネは深々と頭を下げた。
このまま土下座でもしそうな程の勢いで。
「さ、最初はノックしたんですけど反応なくて……でも、なんか音がしたから部屋の中にいるとは思って気になって覗いてみたら、お風呂に入ってるってわかって……それで、待ってたんすけど……」
まさか裸のまま出てくるとは思わなかったということか。
しかし風呂上りにいきなり自分の部屋で人を……それも異性の姿を見たら誰だって腰を抜かす程驚くのではないだろうか。
「いや、いい。……見てないんだろ?」
「いっ!?」
若干の抗議の意味も含めてアイネに意地悪をしてみる。
するとアイネは一気に顔を赤くしてその場で固まってしまった。
「……見たのか」
「見てないっ! 本当に見てないっす! いきなり聞かれたからびっくりしただけだってば!」
地団駄をふみながら必死に反論してくるアイネ。
見ていて少し面白いのだが、このままでは周囲の部屋の人にも迷惑になるかもしれない。
俺はとりあえず話題を変えることにした。
「わ、分かったよ。でもどうした、なんか用でも?」
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