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第4章 魔の力

192話 遺跡の中

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「──ハッ!?」

 ふらり、と倒れそうな自身の体に気づいたスイはすぐに足を一歩踏み出した。
 素早く剣を抜き、くるりと体を一回転させる。それだけで彼女は周囲の状況を確認することができた。
 ひび割れた石の壁と、ところどころにあるランプ。正方形に近いかくばった部屋。

「ここは……遺跡の中……?」

 一瞬の出来事に混乱はある。
 だが流石にそこで取り乱す程、彼女は愚かな冒険者ではない。
 すーっと深呼吸をしながら周囲に魔物の気配が無い事を確認する。どうやら一応の安全は確保されているらしい。

「リーダー、アイネッ! みんなっ、きこえますか!」

 そう声を上げた直後、スイはビクリと身を震えた。
 周囲の石の壁が、彼女が思っている以上にその声を反響させたのだ。
 ……少し迂闊だったかもしれない。そんな後悔の色がじわりと顔に浮かぶ。

 ──敵に場所を知らせてしまうだけだったかな……

「先輩っ! いるんすか!!」
「アイネッ!?」

 だがそれも一瞬の事だった。
 耳に飛び込んできたアイネの声はスイの表情を明るくさせる。

「私がそっちにいく。アイネは動かないで」
「オッケーっす! 場所は分かるっすか?」
「大丈夫。察しはつくよ」

 石の壁で囲まれたこの場所は彼女達の声を立体的に響かせている。 
 それでも聞こえてくる方向が全く分からない程ではなかった。
 スイは剣を構えながら足を進めていく。扉も無く同じような四角い部屋が続いている。
 同じような光景を二、三度見ながらスイが進んでいくと──

「あ、先輩っ!」

 ピクッと耳を立てて大きく手を振るアイネの姿があった。
 それを見て、スイが安堵したように微笑む。

「良かった。アイネは無事みたいだね……」

 そう言いながらも周囲への警戒を怠らずスイは辺りを見渡す。
 部屋の中には障害物も無く視界は良好だ。だが周囲は薄暗く他の部屋に続く場所の辺りには死角があるのも事実。それに気づいたのかアイネも慌ててスイと同じ仕草をする。
 そのまま声を殺すようにアイネはスイに話しかけた。

「他の皆は──って、きくまでもないっすよね」
「うん。はぐれちゃったみたい」
「どういうことっすか? あの光ってトワちゃんの転移魔法で見たやつっすよね」
「やっぱ見間違いじゃないよね……でも、あれはトワの仕業じゃないよ」
「それは分かってるっすよ」

 苦笑するスイとアイネ。
 だがすぐに顔を強張らせ周囲に警戒を払いはじめる。

「アイネ。地図は持ってる?」
「一応携帯はしてるっすけど。ここどこなんすかね?」
「遺跡の中に転移されたとは思うんだけど。地図を見れば現在地が分かるかも。アイネ、確認してくれる? 私は周りを警戒してるから」
「あ、了解っす」

 スイの言葉に少し急いだ様子でアイネは自分のポケットに手を入れた。
 取り出されたのはカーデリーギルドで渡された遺跡の地図。
 周囲を警戒する姿勢を維持しながらも、スイはそれを確認するとアイネに話しかける。

「四角い部屋がいくつも連なっているところ、無い?」
「探してみるっす。えーっと……あー……多分ここっすかね?」
「見せて」

 スイに地図を手渡すと代わりにアイネが周囲を警戒する。
 アイネが指さした場所を数秒程、見つめるとスイは確信したように頷いた。

「そうだね。ここっぽい感じはするかな。……でも、ってことは地下三階ってことだよね……」
「トワちゃん以外に転移魔法を使える人がいるってことっすか?」
「人、なのかな……扉を開けたことに反応したようにみえたからトラップだと思うんだけど」
「でも、そんな魔道具きいたことないっすよ」
「だよね……」

 はぁ、と一息ため息をつくとスイはアイネに地図を返した。

「とにかくまずは入口に戻ろう。皆も多分そこを──」


「もおおおおっ! なんでわたしがこんな目にあわなくちゃいけないのぉ~っ!」


 と、スイの声は遠くから聞こえてきた女の声によって遮られた。
 僅かの時間、呆気にとられる二人。だがすぐに我に返って視線を交わす。

「今の声って……エイミーさんっすか?」
「よかった。近くに居るみたい。行こうっ」
「了解っすっ!」

 言うや否や、スイは声の方向に走り始めた。やや慌てたようにアイネがその後を追う。

「エイミーさん! きこえるっすかー!」
「あれ? その声は……え、誰ですかぁ?」
「アイネっすよ! ウチ、せんぱ──スイさんと一緒にいるんで、今からそっちいくっす」
「ああんっ。よかったぁ~! 一人は心細かったんですぅ~」

 異常事態のはずなのに、その声はどこか気の抜けるようなものだった。
 それに若干呆れたように苦笑しながらもアイネはスイに続いて走り続ける。
 四角い部屋を五つ程抜けただろうか。スイとアイネは今までとは異なる景色の場所に出る。
 そこは廊下のように細長い空間になっていた。今まで二人が居たような何もない場所とは異なり、くどい程に並べられたアーチ柱が天井を低く感じさせている。

「あっ、よかったぁ~。アイネに……スイだっけ? キマイラとサラマンダーを倒した凄腕の剣士さん」

 と、周囲をきょろきょろと見渡す二人の前にエイミーが姿を見せてきた。
 それを確認すると二人はほっと安堵のため息をつく。

「よかった。無事みたいですね」
「すぐに合流できてラッキーっす」
「ほんとですよぉ。いきなり一人にされるなんてびっくりしましたぁ~」

 そう言い終わるとエイミーは手に持った弓を背中に掲げ直し、きょろきょろと視線を泳がせ始めた。

「あれ? リーダーさんはぁ?」
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