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第2章 出会う
ロングアイランドアイスティー
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「次、何にしますか?」
涼が左右対称のお手本のような笑顔を向けた。
「あ、…えーと…」
薬を飲んでいる関係でアルコールを禁止されているから、いつもはウーロン茶で乗り切っているが、今まで大学の仲間の付き合いで行った居酒屋とは違い、ソフトドリンクのメニューも多い。たまには別のものにしてみたいと飲めそうなものを探した。
「これにしようかな。ロングアイランドアイスティー」
名前に“アイスティー”とついているだけで、ノンアルコールだと疑わなかった。
透明なロンググラスの中に入った紅茶に見えたし、グラスの中にはレモンとミント。氷がカランと鳴って、キンキンに冷えて美味しそうで、ひと口飲んでみる。
思ったよりも苦みがあるけど、すっきりとして美味しい。
最初っからこれにしておけばよかった。
「それ、けっこう強いですよ。見た目に騙されないように」
涼がそう言う前に、ぐっと飲んでしまった。
「……え?」
ってことは、アルコール?アイスティーなのに?
そう思ったからか、体が妙に熱くなってきた。
喉が渇く。
心臓が、さっきまでの倍の速さで鼓動している気がする。視界の端がぼやけて、周りの笑い声が少し遠く感じた。
……ヤバいかも
椅子から立ち上がると、ふらりと足元がよろけた。
千尋は、ごまかすように「ちょっとトイレ」と言い残し、足早に席を離れた。
なんとか店の入り口までたどり着いたところで、膝が抜けた。しゃがみこむと、冷たい空気が肺に入り、くらくらする。
ダメだ。これは、薬飲んでんのにアルコール飲んだから?……
アルコールととても相性が悪い薬があるからアルコールは控えるように言われていた。でも、あれだけしか飲んでないのに…
ヒューヒューと、呼吸が浅くなる。
胃の奥がひっくり返るような吐き気と、じわじわと額に滲む汗。どうしよう。席まで戻って啓介に「帰る」って言わなくては。でも、もう立ち上がれる気もしない。
「……千尋さん?」
真上から声が降ってきた。顔を上げると、涼が心配そうな顔をしながら千尋をみている。
「気分悪いんですか?顔色がやばいです。」
「ちょっと気分が悪くて…ごめん。ほっといて」
しかし、涼は千尋の隣にしゃがみこみ、さりげなく背中に手を添えた。
「これってアルコールとの相互作用ですよね。何か薬を飲んでますか?」
「……なんでわかる?」
「前に、同じような人を見たことがあるんです。風邪薬を飲んだ後でアルコールを飲んじゃった人をバーで見たことあってその時と同じなんで。千尋さん、すぐ病院行きましょう。無理させたくないです。」
囁くような優しい声だった。一人では歩ける気がしなかった。頼るしかなかった。
「助かる。じゃあ、俺のバッグ持ってきてくれる。それから啓介に…」
「大丈夫です。啓介さんには俺からうまい理由付けて言っておきます。知られたくないんですよね?少し待っててください」
なんでわかるんだよ。少し悔しい気がするが、それに反論できる体調ではない。
とにかく一秒でも早く横になりたいし、楽になりたい。
そのまま入口の脇に座っているとすぐに涼が戻ってきた。
「病院はどこですか?すぐにタクシー呼びます。」
「A大学病院。俺の財布の中に診察券が入ってるから。」
「わかりました」
涼はすぐに財布を開いて診察券を確認し、スマホでタクシーを呼ぶ。
段取りがスムーズで、まったく慌てた様子がないし、すごく気が利く。
タクシーの中でも後部座席で千尋の頭を自分の膝の上に乗せ、千尋を横に楽な体勢にさせてくれた。
客商売のバイトをしてるからなのだろうか?
年下とは思えない頼りがいに、気持ちが少し楽になった。
大学病院の夜間受付もすんなりと通り、すぐにベッドに通されて点滴がはじまったのは、涼があらかじめ病院に連絡して状態を説明してくれていたからだ。
「点滴したら楽になるよ」
夜間でもイヤな顔をせずにそう言ってくれた主治医の言うとおり、2時間後、点滴が終わるころにはだいぶ楽になっていた。
頭の重さも、吐き気も治まり、身体の中のざわざわした感覚が落ち着いている。
さすがにもう帰ったかと思っていたら、
「千尋さん。よかった。」
診察室のドアの外で待っていた涼が、笑顔で立ち上がった。
「先生が『もう帰っていいって』言ってました。大事にならなくて、本当によかった。」
「……ありがと。本当に助かった。」
入院をしなくて済んでほっとした。
千尋は大きく涼に頭を下げた。
「いえいえ。もう夜遅いから、俺がタクシーで送りますよ。家はどこですか?」
「そこまでしてくれなくても大丈夫だよ。なんなら父さんに連絡すれば迎えに来てくれると思うし。ここまで迷惑かけちゃって悪かったな。」
病院で世話になっただけでも十分なのに、もう深夜だ。コイツも帰るのが大変だろう。
「病院まで付き添って、ここで“じゃあお疲れさまでした”って帰るほど、俺、ドライな人間じゃないんで。家まで送ります。そのほうが俺も安心なんで。」
結局、涼にタクシーで家まで送ってもらってしまった。
涼が左右対称のお手本のような笑顔を向けた。
「あ、…えーと…」
薬を飲んでいる関係でアルコールを禁止されているから、いつもはウーロン茶で乗り切っているが、今まで大学の仲間の付き合いで行った居酒屋とは違い、ソフトドリンクのメニューも多い。たまには別のものにしてみたいと飲めそうなものを探した。
「これにしようかな。ロングアイランドアイスティー」
名前に“アイスティー”とついているだけで、ノンアルコールだと疑わなかった。
透明なロンググラスの中に入った紅茶に見えたし、グラスの中にはレモンとミント。氷がカランと鳴って、キンキンに冷えて美味しそうで、ひと口飲んでみる。
思ったよりも苦みがあるけど、すっきりとして美味しい。
最初っからこれにしておけばよかった。
「それ、けっこう強いですよ。見た目に騙されないように」
涼がそう言う前に、ぐっと飲んでしまった。
「……え?」
ってことは、アルコール?アイスティーなのに?
そう思ったからか、体が妙に熱くなってきた。
喉が渇く。
心臓が、さっきまでの倍の速さで鼓動している気がする。視界の端がぼやけて、周りの笑い声が少し遠く感じた。
……ヤバいかも
椅子から立ち上がると、ふらりと足元がよろけた。
千尋は、ごまかすように「ちょっとトイレ」と言い残し、足早に席を離れた。
なんとか店の入り口までたどり着いたところで、膝が抜けた。しゃがみこむと、冷たい空気が肺に入り、くらくらする。
ダメだ。これは、薬飲んでんのにアルコール飲んだから?……
アルコールととても相性が悪い薬があるからアルコールは控えるように言われていた。でも、あれだけしか飲んでないのに…
ヒューヒューと、呼吸が浅くなる。
胃の奥がひっくり返るような吐き気と、じわじわと額に滲む汗。どうしよう。席まで戻って啓介に「帰る」って言わなくては。でも、もう立ち上がれる気もしない。
「……千尋さん?」
真上から声が降ってきた。顔を上げると、涼が心配そうな顔をしながら千尋をみている。
「気分悪いんですか?顔色がやばいです。」
「ちょっと気分が悪くて…ごめん。ほっといて」
しかし、涼は千尋の隣にしゃがみこみ、さりげなく背中に手を添えた。
「これってアルコールとの相互作用ですよね。何か薬を飲んでますか?」
「……なんでわかる?」
「前に、同じような人を見たことがあるんです。風邪薬を飲んだ後でアルコールを飲んじゃった人をバーで見たことあってその時と同じなんで。千尋さん、すぐ病院行きましょう。無理させたくないです。」
囁くような優しい声だった。一人では歩ける気がしなかった。頼るしかなかった。
「助かる。じゃあ、俺のバッグ持ってきてくれる。それから啓介に…」
「大丈夫です。啓介さんには俺からうまい理由付けて言っておきます。知られたくないんですよね?少し待っててください」
なんでわかるんだよ。少し悔しい気がするが、それに反論できる体調ではない。
とにかく一秒でも早く横になりたいし、楽になりたい。
そのまま入口の脇に座っているとすぐに涼が戻ってきた。
「病院はどこですか?すぐにタクシー呼びます。」
「A大学病院。俺の財布の中に診察券が入ってるから。」
「わかりました」
涼はすぐに財布を開いて診察券を確認し、スマホでタクシーを呼ぶ。
段取りがスムーズで、まったく慌てた様子がないし、すごく気が利く。
タクシーの中でも後部座席で千尋の頭を自分の膝の上に乗せ、千尋を横に楽な体勢にさせてくれた。
客商売のバイトをしてるからなのだろうか?
年下とは思えない頼りがいに、気持ちが少し楽になった。
大学病院の夜間受付もすんなりと通り、すぐにベッドに通されて点滴がはじまったのは、涼があらかじめ病院に連絡して状態を説明してくれていたからだ。
「点滴したら楽になるよ」
夜間でもイヤな顔をせずにそう言ってくれた主治医の言うとおり、2時間後、点滴が終わるころにはだいぶ楽になっていた。
頭の重さも、吐き気も治まり、身体の中のざわざわした感覚が落ち着いている。
さすがにもう帰ったかと思っていたら、
「千尋さん。よかった。」
診察室のドアの外で待っていた涼が、笑顔で立ち上がった。
「先生が『もう帰っていいって』言ってました。大事にならなくて、本当によかった。」
「……ありがと。本当に助かった。」
入院をしなくて済んでほっとした。
千尋は大きく涼に頭を下げた。
「いえいえ。もう夜遅いから、俺がタクシーで送りますよ。家はどこですか?」
「そこまでしてくれなくても大丈夫だよ。なんなら父さんに連絡すれば迎えに来てくれると思うし。ここまで迷惑かけちゃって悪かったな。」
病院で世話になっただけでも十分なのに、もう深夜だ。コイツも帰るのが大変だろう。
「病院まで付き添って、ここで“じゃあお疲れさまでした”って帰るほど、俺、ドライな人間じゃないんで。家まで送ります。そのほうが俺も安心なんで。」
結局、涼にタクシーで家まで送ってもらってしまった。
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