あの夏の嘘つき

suezu

文字の大きさ
6 / 48
第2章 出会う

大学生の遊びとは?

しおりを挟む
千尋は心の中で毒気ついていると、ふと涼の視線がすっと横から差し込んできた。
「千尋さんはバーとか行きますか?どのあたりで遊んでるんですか?」
「俺?」
今ここで俺にふるか?ってか、遊ぶって何?大学生が遊ぶってなんだ?
「えーと、俺は…」

バーなんて行ったことないし、どう答えたらいい?
 正解がわからない。遊ぶと言えば家でオンラインゲームかな、なんて正直には言えない。
「遊びでやることなんて、一つにしかないだろ。」
自分でも白々しいと鳥肌が立ちそうなくらいに思わせぶりに「フフっ」と笑ってみせる。思わせぶりすぎる返答だと思ったが、嘘はついていない。自分の頭の中では、大きなモンスターを狩るゲームのイメージが繰り広げられているが、どう考えるかは受け取る人次第だ。
ナンパかセックスか飲みか、ってきっと想像してるのだろうか。正解はゲームだけどね。

案の定、隣の啓介が盛大に吹き出した。
「お前、その言い方、それじゃ本当にただのチャラ男だって。」
「うっせーよ。俺はなんも言ってないだろ。」
言葉の裏を考えない素直な啓介にはいつも感謝だが、啓介が頑張らないから、このイケメンやろうの独壇場になってんだぞ、ととりあえず、啓介を横にらみする。
「そうかなぁ。俺には、千尋さんってチャラいっていうよりも、しっとりした静かな雰囲気に思えるから、一人でバーで飲んでるのも似合いそうです。すぐに誰かに口説かれそうだけど」
「へっ?」
せっかく、啓介がありがたい方向へと会話を流してくれたのに、こいつがまた余計なことを言う。

バーなんて行ったこともないし、何なら、人生で今までアルコールも飲んだことがないのに、バーが似合うわけないだろ。それに口説かれるって何だ?
「そういえば、千尋もバーでバイトしてるんだったよな。」
啓介が千尋の背中をトンと叩く。
「バー?俺が?」
あれ、そんなことを言ったことあるっけ?いろんな誤魔化し方をしてるけど、あとで収拾がつかなくなるから、基本的に嘘はつかないようにしているが。
「違ったっけ?ああ、そうだ。千尋のバイト先はカフェだった。でもお酒も出すって言ってたじゃん。」
そうだ、確か、前にバイトの話になった時に、「カフェでバイト」とはぐらかしたことを思いだした。
バイトっていうか、たまに、自分の家で父親の手伝いをしてるってだけだが。
「バーじゃなくて、本来はカフェっていうのか…まあ、そんなかんじ」

千尋の自宅の一階で父親がカフェをやっている。カフェっていう言葉から連想されるような店じゃないが、経営者の父親本人がカフェだと言い張るので、一応、そういうことにしている。まあ、下町にありそうな「喫茶店」だ。
千尋の病気が完治するものではなく、生涯付き合っていくものだと病院で告げられてすぐに、父は会社を辞めて家の1階を改装してカフェを始めた。いつでも千尋のそばにいられるようにしたのだろう。
もともとはおしゃれなカフェを目指したらしいが、下町の商店街の真ん中という場所柄、商店街のおじさん連中が入り浸るようになり、そのうちに誰かが焼酎のボトルを置いておくようになって、カフェというコンセプトからかなり離れた店になってしまった。メニューには堂々と「焼きそば」と「チャーハン」と書かれているし、時折、商店街の貸し切りでカラオケ大会も開かれている。
「千尋さんがカフェでバイトしてるって、なんかすごいわかる!」
「うん、クールに見えるし。女子高生に人気のイケメン店員って感じ」
女の子たちの話が今度はいきなり千尋の話題になってきた。
きっと、頭の中ではオシャレなカフェで爽やかに働く“理想のバリスタ”が展開されているんだろう。――現実は全然違うけど。

女の子たちの話が涼から離れると、すかさず、啓介が女の子たちの話の輪に、割り込んでくる。
「いやいや、それが、違うんだって。千尋はクールキャラじゃないんだよ。今は黒髪で黒づくめの服でシックにまとめてるけどさ、1年の頃は金髪で派手な格好してて、めっちゃチャラかったんだよ。リアルでやばい人にしか見えなかったから」
……そうだった。

1年の時に思いきって金髪にしたことがある。チャラい路線で行こうと決意した時に、簡単にチャラく見える方法と思って金髪にしたんだっけ。
その威力は想像以上で、地味な男子が多い理工学部の中で、またたくまに「イカレてる」「危ないヤツだチ」と思った以上の反響だった。
「千尋さんの金髪、見たかったな。もうやらないんですか?」
そう言いながら、涼がメニューを差し出してきた。
次のドリンクを選べってことだろう。さりげなく気がきく。
「金髪はもう二度とやらない。ブリーチが痛すぎて、俺には無理。」
「確かに。地肌、死ぬほど痛いですよね」
涼のハイトーンの髪も当然ブリーチしてるはずだ。でも傷んでる様子はない。
自分が金髪にした時は、髪が痛んで爆発するかというくらいにまとまらなかったのに、こいつのは逆にしっとりしてる。努力してるんだな、イケメンを保つのを大変だな、と涼の横顔を盗み見ると涼が気づいて視線があった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】君に届かない声

未希かずは(Miki)
BL
 内気で友達の少ない高校生・花森眞琴は、優しくて完璧な幼なじみの長谷川匠海に密かな恋心を抱いていた。  ある日、匠海が誰かを「そばで守りたい」と話すのを耳にした眞琴。匠海の幸せのために身を引こうと、クラスの人気者・和馬に偽の恋人役を頼むが…。 すれ違う高校生二人の不器用な恋のお話です。 執着囲い込み☓健気。ハピエンです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

BL短編

水無月
BL
兄弟や幼馴染物に偏りがちです。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...