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第3章 夏がはじまる
つきあう
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「でもさ、それって涼に何の得があるわけ?」
「俺の得?」
「せっかくの夏休みなら、健康なヤツと一緒に過ごすほうが楽しいだろ。その方が思う存分に遊べる。」
「…千尋さんがそんなバカなこと言うとは思わなかったな。」
いきなり涼が、声のトーンを下げた。
「オマエ、さっき、頭良さそうって言ってただろ。」
「でも、そんなわかりきったことを言うとは思わなかったから。つきあうってそういうことじゃないですよね。都合のいい相手と一緒にいたい相手は違うでしょ。千尋さんだってそう思いますよね?」
いや。わかんないよ。一緒にいたい相手なんていなかった。というか、誰かと一緒にいるなんて望み自体、考えたこともなかった。
「俺さ、圧倒的にそういうことがわかんないんだ。基本、一人でいいって思ってるし。それにさ、俺、陰キャだからさ、オマエみたいなキラキラしたヤツとは、どう考えても、合う気がしねーし。」
隣で涼が、小さく笑う。
「……ふふっ、やっぱり、かわいい」
「…へっ?」
不意を突かれて、ついそんな声が出た。
「そうやって、ちょっと拗ねたみたいに喋るの、意外で。かわいいなと思って」
「オマエ、話の流れを勝手に変えるなよ。」
「俺、千尋さんって、なんでもクールに受け流すタイプなのかなって思ってたけど、でも、そうやって拗ねるの、かわいいですね。」
口調は軽いが、からかってるわけではなさそうだ。
「……かわいくなんかないし。それに俺、大学4年だよ。それなのに就職の内定もとれてない切羽詰まった状況なわけ。だからさ、あんまり余裕ないわけ。」
あんまりどころか、かなり余裕がない。エントリーシートはことごとく通らないから、選考が進んでいる企業は一つもない情けない状況だ。
「でも、24時間就職活動をしてるわけじゃないですよね。」
「そりゃ、そうだけど。時間じゃなくて精神的な余裕がないんだよ。」
「じゃ、なおさら、俺が必要ですよ。精神的にリラックスして楽しまないと、うまくいくものもいかないでしょ。」
「…でもさ。なんで、俺?」
「俺にはすごくかわいくって。最初に見た時から、かわいいなって思ってました。顔も声も言うことも、すごくタイプです。だから絶対につきあってください。」
なんだか、ネットの恋愛リアリティ番組みたいだと思った。用意されてたセリフみたいなのに、どことなくぎこちなくて、でも、ちょっと言い慣れてる感じもして。
「…それじゃさ、…」
「友だちでもよくね?」と言いかけた時に、椅子に座ったままで涼が千尋に勢いよく抱き着いてくる。ゲーミングチェアのキャスターが滑りすぎて、まるで懐いた大型犬みたいな勢いだ。
「おっ、なんなんだよ。急に。」
涼の腕を振りほどこうとカラダをひねってみたりするが、そのたびに涼がもっと強く抱きしめてくる。
「難しいことは考えないで、恋人になってください。さっき、俺にお礼するって言ってましたよね。そのお礼っていうことでお願いします。」
「お礼?」
確かに言った。俺、確かに言ってた。
「…たっ、確かに言ったけど。でもさ、お礼とかって、そんな安易なノリで恋人ってなってもいいわけ?」
「いいですよ。恋愛なんてノリがすべてでしょ。スタートがどうであっても、あとで、大好きな恋人同士になればいいだけの話だし。」
「…でもさ、やっぱり、そういうことはさ、手順っていうか…、」
「大丈夫。手順をふみましょう。千尋さん、すぐに俺のこと、好きになりますよ。」
「…いや、そんなことは……」
考えたことも、想像したこともまるでない。
「絶対に、俺のことを好きにさせてみせますから。よろしくお願いしますね。千尋さん。」
「……よろしく。」
こうして、千尋に人生初、恋人と過ごす夏が訪れた。
「俺の得?」
「せっかくの夏休みなら、健康なヤツと一緒に過ごすほうが楽しいだろ。その方が思う存分に遊べる。」
「…千尋さんがそんなバカなこと言うとは思わなかったな。」
いきなり涼が、声のトーンを下げた。
「オマエ、さっき、頭良さそうって言ってただろ。」
「でも、そんなわかりきったことを言うとは思わなかったから。つきあうってそういうことじゃないですよね。都合のいい相手と一緒にいたい相手は違うでしょ。千尋さんだってそう思いますよね?」
いや。わかんないよ。一緒にいたい相手なんていなかった。というか、誰かと一緒にいるなんて望み自体、考えたこともなかった。
「俺さ、圧倒的にそういうことがわかんないんだ。基本、一人でいいって思ってるし。それにさ、俺、陰キャだからさ、オマエみたいなキラキラしたヤツとは、どう考えても、合う気がしねーし。」
隣で涼が、小さく笑う。
「……ふふっ、やっぱり、かわいい」
「…へっ?」
不意を突かれて、ついそんな声が出た。
「そうやって、ちょっと拗ねたみたいに喋るの、意外で。かわいいなと思って」
「オマエ、話の流れを勝手に変えるなよ。」
「俺、千尋さんって、なんでもクールに受け流すタイプなのかなって思ってたけど、でも、そうやって拗ねるの、かわいいですね。」
口調は軽いが、からかってるわけではなさそうだ。
「……かわいくなんかないし。それに俺、大学4年だよ。それなのに就職の内定もとれてない切羽詰まった状況なわけ。だからさ、あんまり余裕ないわけ。」
あんまりどころか、かなり余裕がない。エントリーシートはことごとく通らないから、選考が進んでいる企業は一つもない情けない状況だ。
「でも、24時間就職活動をしてるわけじゃないですよね。」
「そりゃ、そうだけど。時間じゃなくて精神的な余裕がないんだよ。」
「じゃ、なおさら、俺が必要ですよ。精神的にリラックスして楽しまないと、うまくいくものもいかないでしょ。」
「…でもさ。なんで、俺?」
「俺にはすごくかわいくって。最初に見た時から、かわいいなって思ってました。顔も声も言うことも、すごくタイプです。だから絶対につきあってください。」
なんだか、ネットの恋愛リアリティ番組みたいだと思った。用意されてたセリフみたいなのに、どことなくぎこちなくて、でも、ちょっと言い慣れてる感じもして。
「…それじゃさ、…」
「友だちでもよくね?」と言いかけた時に、椅子に座ったままで涼が千尋に勢いよく抱き着いてくる。ゲーミングチェアのキャスターが滑りすぎて、まるで懐いた大型犬みたいな勢いだ。
「おっ、なんなんだよ。急に。」
涼の腕を振りほどこうとカラダをひねってみたりするが、そのたびに涼がもっと強く抱きしめてくる。
「難しいことは考えないで、恋人になってください。さっき、俺にお礼するって言ってましたよね。そのお礼っていうことでお願いします。」
「お礼?」
確かに言った。俺、確かに言ってた。
「…たっ、確かに言ったけど。でもさ、お礼とかって、そんな安易なノリで恋人ってなってもいいわけ?」
「いいですよ。恋愛なんてノリがすべてでしょ。スタートがどうであっても、あとで、大好きな恋人同士になればいいだけの話だし。」
「…でもさ、やっぱり、そういうことはさ、手順っていうか…、」
「大丈夫。手順をふみましょう。千尋さん、すぐに俺のこと、好きになりますよ。」
「…いや、そんなことは……」
考えたことも、想像したこともまるでない。
「絶対に、俺のことを好きにさせてみせますから。よろしくお願いしますね。千尋さん。」
「……よろしく。」
こうして、千尋に人生初、恋人と過ごす夏が訪れた。
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