あの夏の嘘つき

suezu

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第4章 夏休みは何をするもの?

初めてばかりの夏休み

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どうにか体調を崩すこともなく、夏休み前の大学の試験期間を乗り切って、本格的に夏休みに突入すると、涼は毎日のように、千尋の家にやってきている。

どうやら本当に、恋人になったらしい。
一番最初に手懐けられたのは、千尋よりも父親だろう。
いつの間にか、涼は父の店でバイトをしていた。それまでは、体調がいい時は千尋が店を手伝っていたが、就職活動もある今年は、なかなか手伝えそうにない、と思っていたので、涼が少しでも手伝ってくれるのは、千尋にとってもありがたい。
「涼くんが手伝ってくれて、ほんと助かってるんだよ。あの子が店にいると、華やかさが違うんだよね」
うれしそうに父が報告をしてくる。
「ふぅーん。」
まあ、そうだろう。この下町には、あんなモデルのようなヤツはいない。
「涼くん目当てのお客さん、増えてるんだよね。」
女子高生に商店街のマダムたちといった、今までの客層ではなかった人たちが、入れ代わり立ち代わりやってきているらしい。涼をみて、キャーキャー言ったり、話しかけたり、誘ったりとしていたが、涼はその持ち前の愛想とコミュ力で、誰に対してもソツなく応じているようだ。
「この前は、芸能事務所の人が涼くんをスカウトに来てたよ。涼くん、即座に断ってたけど、断り慣れしてる感じだったから、スカウトなんて日常なんだろうね。」
「断り慣れ…」
 涼は一般人のカテゴリからはみ出してると思う。まずは服のセンスが違う。柄や色の組み合わせなんかが難しそうなものを違和感なく着こなす。その抜け感とシックさ、微妙な丈感やルーズさも素人では手出しできない領域だ。少し気だるそうな立ち方も、たたずまいも、手の動かし方もそうだ。モデルとか俳優とか。周囲の空気を全部まとってドラマの中から出てきましたと言われても、「そうだろうな」と納得すると思う。
「でね、涼くんのすごいところは、女性客だけじゃなくて、男性にも人気なところだよね。明るいし、人なつこいから、常連のおじさんたちにも大人気でね。そういえば、地元の消防団にもスカウトされてたな。ははっ。いや、すごいよ」
父が笑いながらそう教えてくれた。

 でも、涼のことを考えると、こんな下町のパッとしない店でバイトさせてしまって、申し訳なくなってくる。掃きだめに鶴っていうか、安いカップラーメンに高級白トリュフを入れてるみたいな気分になってしまう。
「涼はもともと自分のバイト先があるんだから、無理してうちの店を手伝わなくてもいいからな。」
 そう涼に言っても、
「全然、無理なんかしてないですよ。バーのバイトはもともと知り合いから頼まれた時だけだし、正直、こっちの店のほうが気楽で楽しいし。」
と言って取り合わない。
 涼は、バイト終わりで千尋の部屋へきては話をして、そのまま夕飯までも一緒に食べることも多い。いつの間にか、なかば家族のように、店にも家の中にも涼がいることが自然となっていった。
「楽しい夏休みを過ごしましょう」と最初に言っていただけあって、涼はいろいろなことを計画してくれ、そして、過保護なほど千尋には気を配ってくれた。

「今から、バーベキュー行きます。」
 隣の駅の近くに、バーベキューの施設が出来たのは知っていたが、自分には縁のない場所だと思っていた千尋は、思わず返事に詰まった。
「いやあ、俺は、そういうところは…」
「大丈夫。大きなクッションをもってきたから、千尋さんはゆっくりと座っててくれればいいだけだし。」
千尋の返事を聞く前から、すでにいろいろと準備が終わっていた。きっと、千尋に負担がかからないように、千尋の家の近くで楽しめそうなところをピックアップしてくれていたのだろう。
海風のバーベキューガーデンでも、涼は器用に炭を熾して、肉や野菜を焼きながらも、「水分の補給は大事」と、千尋の飲み物が空になっていないかと、すぐにチェックをして、そのたびに「熱が出てたらいけないから」と千尋の額や首筋に触れて体温をチェックする。
映画館では、ふと千尋の腕に触れて、「冷えてない?」と確認して、ショッピングモールでは人混みに疲れていないかと立ち止まり「少し休憩したいな」とさりげなくカフェへと誘導してくれる。
どれもこれも涼のおかげで経験できたことばかり。今のところ、初めて尽くしの夏休みだった。

楽しい。純粋に楽しい。
つきあう、とか恋人とかの言葉から、かなりハードル高い関係を考えてしまっていたが、まるで違った。ポンポンと会話が弾まなくても、涼のふんわりした雰囲気で間が持つし、千尋のオタクなゲームの話も、愛想笑いではなく、楽しそうに笑ってくれる。
千尋が体調がよくない日は、涼は本を読んだり、タブレットで映画を流したりしながら、ベッドにもたれて座りながら、千尋の近くにいてくれる。
「俺は今日、寝てるだけだから、涼はどっか行ってくればいいよ。楽しいことして来いよ。せっかくの涼の夏休みだからもったいないよ。」
 
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