あの夏の嘘つき

suezu

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第5章 鳥の巣のデザイン

ル・コルビュジエ風

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「ね、これ、俺に一回、持ち帰らせて。ちょっと時間かけて考えたい。」
「マジ?ありがとう。ほんと、うれしい。」
「千尋さんにそんな顔されちゃうと、俺のほうが何倍もうれしくなっちゃう。」
涼が千尋の腕をつかんで自分のほうに引き寄せる。
最初は心臓が跳ねるほど動揺した距離なのに、少しずつ慣れつつある自分がいる。
「ねっ、これで少しは俺のこと、好きになってくれる?」
口をとがらせて、ふざけたように涼が言う。
その息が耳にかかり、ぞくっと肩が震えた。
「…わかんね」
「わかってよ」
また、耳に涼の息が触れる。
やっばっ。
なんかドキドキする。
なんか、やばい。
焦って、両手で涼を押しのけた。
「恋人同士なのに…」

「どれがいい?」
数日ぶりに涼が、千尋の部屋へと入ってきたと思ったら、タブレットをテーブルの上に置いた。
「これ、巣の設計図?」
「いくつか考えてみました~」
指先でタブレットのページをめくっていくと、いくつかの違ったタイプのデザインが出てきた。指先でタブレットのページをめくっていくと、いくつかの違ったタイプのデザインが出てきた。
どの設計図も、淡い水彩で描かれた森のような背景が描かれ、さらに、平面図だけでなく、すべてのモデルが立体的にレンダリングされた3D図も添えられていて、完成後の姿がひと目でわかる。
画面の端には、小さな字で必要な材料の一覧も書き込まれており、板のサイズや釘の本数、塗料の色までもが細かく記されていた。
ただの設計図というより、ほとんど工作本の一ページのような丁寧さだ。

「こんなに考えてくれたんだ」
まさかこんなに真剣に取り組んでくれるとは思いもしなかった。
「えーと、まずはこれが『北欧ナチュラル調』。無垢材っぽい板貼りで、入り口は楕円。やさしさとぬくもり重視。これだと庭の木にあっても浮かないし自然志向なかんじ。次のこれは、三角を組み合わせていくデザインだけど、作るのに手間がかかる。で、俺の一番のおすすめは、これ、『ル・コルビュジエ風・空中ヴィラ』。現代建築っぽくて、いいでしょ」
「コ、コルビュジエ…?それって何?」
やたら難しそうな名前の割には、シンプルな箱の横に丸い出入り口、そしてそれとは別に横長の窓もある。
「コルビュジェ。現代建築の祖みたいな人だよ。シンプルに見えるけど、奥深いんだ。このデザインだと出入口とは別にこの窓を付けることによって、空気の流れがよく出来るはずなんだ。実は巣箱って湿気がこもるらしいから、換気は必要だと思って」
「へぇ、換気ねえ」
鳥の巣箱の換気がどの程度必要なのかはわからないが、一番作りやすそうで、一番シンプルな「コルビュジエ風」に決める。
「じゃ、さっそく、それ、作りましょう」

涼は、その場でタブレットを閉じると、持ってきた紙袋をテーブルに置いた。
中からはきちんとカットされた木材、釘、金具、ヤスリ、木工用ボンドまで、必要な道具一式が出てくる。どうやら、今から作り始める気らしい
「え、これ…もう全部揃ってるの?」
「この前、千尋さんが言ってたイメージだと、きっとこれに決まるだろうなと思って、材料もサイズも、昨日のうちにホームセンターで切ってもらってきました。」
そう言って、涼は「どうだ」とばかりに自信ありげな笑みを浮かべた。
「結局、普通な箱だよな。どこがその、コルビュジエ?的なとこ?」
千尋がそう呟くと、涼はヤスリを動かす手を止め、ちょっとムッとしたように顔を上げた。
「違うんです。ただの箱じゃない。シンプルだからこそ、バランスとか比率とか、そういうデザインが大事なんです。余計な飾りをそぎ落として、形そのものの美しさで勝負する。そういうのがコルビュジエ風!」
「へぇ~」
説明を聞いてもやっぱり、ただの上に蓋が付いた四角い箱にしか見えない。
けれど、涼の真剣な眼差しと、木の角をなぞる指先の丁寧さを見ていると、工作でつくる四角い箱以上の何か、かもしれないと思えてきた。
そのまま二人で、千尋の部屋の床に新聞紙を広げて作業開始を始める。
涼は見た目によらず、何か作るの作業が好きらしく、てきぱきと指示を出して、気づけば二人で夢中になっていて、あっという間に半日が過ぎていた。最後に小さな丸窓をくり抜き、塗装を乾かすために窓辺に置いた。
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