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えくすたしぃ

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 雑木林の中、キラキラと木漏れ日が注いでいる。
 地面すれすれの視界。
 そんな低い視点から見た周囲には、堆積した巨大な板?
  いや、落ち葉だ。
 ノブナガから見れば、途方もなく大きいが、これは紛れもなく枯て落ちた葉でしかなかった。

 俺ってやはりキノコ?
 キノコ神にマジでしてやられたわけか?

 くそっ!
 う、動く……。

 なんとかして動かそうとしたら、手足がない身体がひくひく動いた。
 埋まる足、いや根だろう、根だけがずりずり動いた。
 土の中をゆっくりかき混ぜているだけ。
 
 キノコに転生確定。
 お、終わったかもしれん。

 どうすんだよ!
 どうやって、この逆境で世界を救えってんだよ!
 救って欲しいのは俺のほうなんですけど!

 さんざん文句を言った(キノコには口がないので、実際は心で叫んだだけ)が、なんの返事もない。
 キノコ神は、最初っから放置プレイするつもりだったようだ。

 諦めたノブナガは、寝ることにした。
 キノコに睡眠があるのかわからないが、寝ようと決めたらノブナガの意識は簡単に落ちた。

 どれだけ寝ただろう、文字が浮かんでいた。
 ゲームのコマンド入力画面のように。
 
 
《成長》


 押してみる。
 指はないので、イメージしただけ。

 
《成長》カチッ!

《傘》
《柄》
《根》

 
 三つに分岐。
 取り合えず柄を押してみると、身体がムズムズと動いてキノコが伸びた。
 成長させるコマンドだ。

《根》カチッ!

 下がむずむずすした。
 少しだけ根が成長したみたい。

《傘》カチッ!

 上部がぐんぐん肥大してゆき、わずか十分で傘が開いた。
 ツバの広い帽子を被っているみたい。

 痛っ! 
 突然根に痛みが走った。
 視認するとカナブンの幼虫が俺の根をかじっていた。
 別の根を幼虫に巻きつけて引き離すと、何処かに行ってしまった。

「……は~あ」

 ゲーム好きだった俺を考慮しての仕様なんだろうが、だからどうした?
 所詮キノコだから。

 劣悪な環境職場に配置転換させられた会社員の気分なんだけど。
 とはいえ、自分の力ではどうする事もできない。
 どんなに悔やんでも、騒いでも(キノコだから音を出せない)何も変わらない。
 移動することすらできないのだから。

 諦めたノブナガは、改めて見える風景に意識を注いでみた。
 どん底状況を打破するヒントが見つかるかもしれない。

 落ち葉まみれの地面すれすれから、急な山の傾斜のずっと下に集落が見える。
 川が流れ、飛騨の合掌造りみたいなワラの民家が数軒あり、豆粒のような人が農作業をしていた。
 舗装道路も信号機も無い。小さな橋も丸太作りだ。 

 逆に登り傾斜は入り組んだ木々や雑草で見えない。 
 俺は山の斜面に生えている。

 しかし、なんで目がないのに、全方位が見えるのか。
 キノコの表面で視認しているようだ。
 根に意識を向けると、土の中は闇だった。


 ◆


 二時間後。

《成長》
《行動》
《確認》


 選択肢が増えた!! 
 行動を押してみる。
 

《胞子散布》
《変形》


 本能で悟った。
 コレだ《胞子散布》コレコレ!
 これの為に俺は生きている。
 なぜ自分が興奮しているのかも理解できず、ノブナガは衝動的に押した。
 
《胞子散布》カチッ!


 ばふっ――――。
 己の傘からむわっと広がってゆく白い粉。
 やがてその白い粉はゆっくりと地面に落ちてゆく。

 えくすたしぃぃ――――――っっ!!!!

 思わず絶叫してしまう。

 驚いた。
 胞子を出すと、すっげー気持ち良いっ!
 心の中で踊り狂いそうなんだけど。

 ぷるぷると傘の先端が震え、の産毛もひくひく痙攣。
 まるで女の子とエッチしちゃった感覚だ。
 特に粉を出すときの感じが、あの射精感とまったく同じ。
 こりゃ~病みつきになる。

 二度目の発射に挑戦したが出来ない。
《胞子散布》は大量のエネルギーを消費するからなのか?
 たった一発で打ち止めとは辛い。


《確認》を押すとステータスを見れた。


 ――――――――――――――

 レベル1
 
 KP 32

 獲得成分
 なし

 ――――――――――――――


 KPはキノコポイント(蓄えたエネルギーの数値)の略だろうね。
 光合成や、養分を得ることで蓄積されることが分かった。
 そして、このKPが100以上で《胞子散布》が楽しめることも。

 よーし! 
 KPを貯めるぞ。
 当面、することもないので、ノブナガはKP値を上げて、《胞子散布》で得る快感を満喫することに決めたのだった。
 


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