一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)

文字の大きさ
8 / 221

☆一夜明けて

しおりを挟む

 次の日。
 僕はベッドから飛び起きそのままの形で凍りついた。

 ――愛里がトイレで起きたことを、家族の誰かに話していはいないだろうか。

 昨夜は興奮していて気づかなかったが、十分あり得ること……いや、もう……そのほうが自然といえる。
 ぽけ~っと愛里にのめり込んでいるどころじゃないぞ。僕は馬鹿かっ。
 下半身スッポンポンでバックから抱きついたのだ。
 岩田の耳にでも入ろうものなら、間違いなくあの日本刀で半殺しだっ! 
 愛里のママだって黙ってないだろう。警察に連絡され、僕は幼女をトイレで軟禁及びいたずらした犯罪者。少年院に入るのだろか。そしたら受験どころではない。僕の親父や母さんが知ったら、あぁ……。

 いや、いたずらは言い過ぎだ。たぶん。あれは事故ともいえやしないか。
 愛里だって僕に謝ってたじゃないか。
 もっとも愛里が昨日の心境のままであればの話しだが。相手は小学三年生。子供だ。一夜明けたら気持ちが変わっているかもしれない。

『あのね昨日ね。愛里がトイレに入ってたらね。お兄ちゃんの友だちが入ってきて、おちんちん見せられたの。それでね、後ろから抱きつかれてぇ~』

 もし愛里がこう言ったら……。
 
「ふはははははは……」

 反論できない、反論できないぞ。半裸でバックから抱きついたのは事実だ。
 気分が落ち着かず、部屋の中をぐるぐると歩き回った。答えがない試験問題を永遠に解き続けている気分だ。
 こうしている間にも、岩田家から電話が掛かってくるのではないか。昨夜とは違う激しい胸の鼓動。
 響く四回目の目覚まし時計に身体がビクンとした。もう朝食の時間なのだと気付き着替えを始めたが、指先が震えてシャツの前ボタンが上手く止められない。
 よろよろと階段を降りて恐る恐るキッチンに入る。

「おはよう。あら……どうかした?」

 朝食をテーブルに並べている母さんが不思議そうな顔を向ける。

「いや別に……」

「そう? ならいいけど」 

 この雰囲気からしてまだ連絡は届いていない。
 もし母さんが知ったなら直ぐに二階まで駆け上がり、寝ている僕を叩き起こすに決まっている。
 いまのところセーフだが、現在岩田家にて愛里の驚きの発言真っ最中とも限らない。
 どちらにせよ時間の問題。テーブルに座ってても、食パンは喉を通らなかった。
 映し出されているテレビの報道番組は、教師の顔写真入りで不祥事が流れており、数日後には僕の写真もモザイク入りで映るのだろうか、と泣きそうになった。
 突然廊下の電話が鳴り響き、僕は飲んでいた牛乳にむせてしまった。

 ――岩田家からの電話かっ!

 テッシュで濡れたテーブルを拭く。

「もう、しっかりしてよ! 母さん手が離せないから出て」

「えっ! ぼ……僕が?」

「他にだれがいるのよ」
 
 嫌がると逆に不審がられるので、仕方なく腰を上げ冷たい廊下を進む。
 鳴り続ける電話が鎮魂歌に聞こえる。震える手で受話器を耳にあてた。

『もしもし。岩田ですが、山柿聖さんお願いします』

「僕だけど……」

『なんだ、お前か。携帯通じないが。電源入れとけよ。それで、きのう俺のチャート本を間違って持って帰らなかったか? 英語だが』

 いつもと変わらない岩田の声だ。つまり愛里はまだ誰にも話していない。

「ああ……探してみるよ」

 それだけで受話器を降ろし、僕は胸をなでおろした。
 だけど、セットされた時刻がわからない時限爆弾と同じ、首の皮一枚でつながっただけだ。
 
 なんとか愛里と二人っきりで会えないだろうか。それも早くに、愛里が話しだす前に。会えれば頼むことが出来る。

『一生のお願いだから、トイレでの事は秘密にしてね。そしたらお兄ちゃんすっごく助かるんだ』

 とか言えば愛里は賢く優しい子だから、僕の言う通りにしてくれるだろう。愛里に何か買って行くのもいいかもしれない。
 だけど問題は二人っきでということだ。
 これが思いのほか難しい。
 愛里に連絡をとろうにも、携帯電話を持っていない小学生だ。直接岩田家に電話を掛けてもいいが、岩田や岩田ママが出たらどうする。『すいませんが愛里さんをお願いします』とか、言えるわけがない。
 愛里が通う小学校の校門で下校を待ち伏せする手もあるが、僕の怖顔からして不審者扱いされる危険性がある。
 運良く愛里と会えたとしても、あれだけ可愛いくて、怖顔の僕と親しくなるほどの良い性格をした子だ。きっと人気物だろうから友だち数人と一緒に下校している可能性が高い。それに昨今は小学生の登下校を狙う変質者がいるらしい事から集団下校が推進されている。
 となれば、愛里一人を連れ出すのはかなり難しい。
 やはり次ぎの岩田家での勉強会を期待して愛里にお願いするしかないのだろうか。
 でも勉強会は岩田本人の気まぐれで、いつやるかは未定だ。もうしないかもしれない。

 ――だめだ、だめだ!
 遅くなればなるほど、愛里がポロリと話してしまう可能性が高い。やはり今日の放課後に、『昨日、お前ん家で忘れ物をしたらしい』からとか、理由をつけてとにかく岩田家へ上がり込む必要がある。

 僕は一便早い電車に乗り、いつもより早く学校へ行った。岩田はやっていた剣道部の朝練の習慣で早く学校に行くのだ。
 教室に入るなり、少し離れた数名の女生徒から控えめな熱い視線を浴びているイケメン岩田を見つけた。一人で自分の席に座ってK大入試対策本に目を通している。
 女子の視線に気がつかないのか、知ってて無視しているのか、どっちにしてもモテやがる。
 最近も生徒会長の逢坂さんが岩田に告白したらしいが、即却下だったらしい。 
 なんとも羨まし限りで、僕だったら直ぐにOKするのに。
 もっとも逢坂さんが、僕に告白する事は天地が引っ繰り返っても無いのだが。

 まあそんな事はどうだっていい。まずは岩田に勉強会をさせるよう話しを持ってゆかねば。
 さっそく岩田に歩み寄って行ったのだが、近づくに連れて嫌~な気分になっていった。
 見られているのだ、じとーっと。注がれているのだ、女子たちの視線に。
 温度としては岩田と同じ熱さだけど方向が正反対。

『どうしてあんたみたいなブ男が、岩田くんみたいなイケメンと友人なのよっ?!』

 岩田ファンの声なき声が聞こえる。とことん軽蔑だ。

 ――知らないって。
 岩田は中学で僕と同じ剣道部に入るし、高校進学もその剣道の実力で学費免除の特待生扱いで有名私立校に入れたものを、わざわざ僕と同じ高校へ入った。
 そして大学入試すらも推薦で入れるT大学を蹴って僕と同じこのK大入試だ。このクラスでも僕個人としか話そうとしないし、岩田の考えている事はよくわからん。
 
「どうした、山柿?」

 僕が側にゆくと岩田が爽やかな顔をみせた。
 何も知らないで気楽なもんだよ、ほんと。
 でも岩田の様子からして、まだ愛理は喋ってなさそうだ。よしよし。

「えっ、ああ、いやなにね、今日さ~、お前んちで勉強会したいなぁ~と……」

「二日連続」

「ああ、まあ、そうなんだけど、ダメか?」

 不信に思われるかと思ったが、岩田の表情に変化はない。

「いいが、お前からとは珍しい。うむ。丁度良い。今日から俺一人しか家にいないから何時までだって良しだ。なんなら泊まる事も出来るが……」

「ひとり?」

 不思議な事を言う。

「愛里。あいつ、トキメキTVのオーデション三次まで受かって、明日の最終選考の為、今日から大阪に母さんと泊りがけで行くんだ。別に当日に行けば良いんだが、母さんが張り切ってるからな」

 岩田は綺麗な白い歯を見せて笑った。 
 トキメキTVといえば、小学生の女の子が一人で料理や歌やミニコントなどをする幼児向けの人気テレビ番組だ。過去に出た女の子はみな可愛くて国民的美少女と呼ばれている。実の所、僕も母さんに隠れてこっそり視聴していたお気にいりの番組だ。それに愛里が? 

「そ、そうなんだ。それは凄い、おめでとう」

 ふはははは……、はぁ……。
 どうすりゃいいんだよ、おい。

「だろ? 妹ながら愛里はかなり可愛いと思っている。もし最終選考に受かれば主役だそうだ。兄としても鼻が高い」

 それはそうだろう。全国から、応募総数何万人の中からたった一人だけ選ばれる。みんな成りたくともなれないのだから。
 なんか僕って、もの凄い子に、もの凄い事をしてしまっていたんだ。
 ゴクリと生唾を飲んだ。

「や、やっぱ。今日は勉強会いいや」

「どうした山柿? 声に元気がないが」

「ああ、大丈夫。なんでもないから」

 K大学を卒業して教師になる――それが僕の夢だった。
 こんな顔だから女子生徒あたりに絶叫されたり泣かれたり、もしかしたら気絶したり、酷いと生理不順になる子もいるかもしれない。
 全くもって教師には向かない僕だけど、それでも男子だと辛うじてこの顔でも授業をする事ができるだろう。女子も慣れればしだいに僕顔に耐性もつくはず。そうなってくれれば、授業を通じて、僕の考えも分かってくれるだろう。お互いが打ち解けて、お互いが成長してゆく。
 生徒が心身ともに成長してゆく手助けを、僕は一生をかけて努力したいのだ。
 こんな事でつまずいてしまうなんて……。 

 俯いて自分の席にとぼとぼと向かう僕の耳には、『岩田くんと何を話してたのかしら、あのブ男』そんな声が届いた。
 

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

処理中です...