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★愛里目覚める
しおりを挟む怖いお顔のお客さまとの再会は意外と近いものでした。
一週間後の木曜日。
いつものようにリビングで昆虫図鑑を見ていたら、
「兄さんたちはリビングで勉強会だから、今日こそは愛里は邪魔しちゃダメだよ。お部屋で待機だからね」
いきなりです。帰宅してきた兄さんがいきなりそう言ったのです。
「うそっ」
兄さんに駆け寄ってその後ろ、リビングの入り口から覗くと、玄関で靴を脱いでいる学生がひとりいました。
その姿は前回お越しになられた怖いお顔の方、ムカデみたいなお気の毒な方です。
兄さん兄さん、今からですか? 聞いてませんそんなのっ!
ちゃんと事前に言ってくれれば、おもてなしのお菓子を用意していたのに、兄さんってばっ!
さあ、さあ、とリビングから出るように急かされ、怖いお顔の方にご挨拶も出来ないままカルピスだけ持って、渋々自分のお部屋に入ることになりました。
兄さんはあたしがお客さまと知り合いになるのを嫌がっているようです。
何故かしら? さっぱり分かりませんけど。
もーっ、仕方ありません。
こんな時は大好きなドラゴングエストのプレイに限りますね。丁度Ⅰ、Ⅱ、Ⅲとクリアーしていて、今はⅢをととこん極めているところ。だからⅢでスイッチON。
今のところ全キャラ経験値MAXにしていて、現在カジノのメダルMAXを目指して頑張っております。
長い時間ご機嫌でカチカチしていたのですが、カルピスを飲みすぎたからでしょうか、急にオシッコがしたくなりました。
カジノのバニーちゃんの横にキャラ三人重ねて並べて、おトイレに向かいました。
おトイレのドアを開けて入り、冷たい便座に腰を下ろします。
お部屋は暖房が効いているので暖かいですが、おトイレは厳しいものがありますね。
寒さを我慢しながら、じっとしていると、ぱたぱたと廊下を叩くスリッパの音が段々と近付いてきました。
兄さんかな?
ノックされ『はーい。入ってますよー』とお返事しようと待っていたら、何事もなく静かに開いてゆくのですけど、嘘みたいにドアが。
あたしの前。開放された入り口に立つのは……。
「「 ! 」」
怒っているお気の毒なムカデさん!! いえいえ、お客さま……?!
どうしてここにっ!!
身体が硬直して身動きができません。声も出ません。
お客さまは黙ったまま前屈みでじっとヘビみたいに睨んでいます。ヘビが獲物を襲う時に攻撃態勢をとりますが、まさしくそれです。
だとしたら……。獲物ってあたし……?! うそ。
そんな考えをしていると、突然『ああ~っ!』と叫び、いきなりズボンをずり下ろしたのです。
――な、なんでっ?
息が止まるかと、いえ実際に止まっていました。だって、釘付けだからです。生まれて始めて見るおちんちんに。
想像よりずっと可愛いくてお菓子のよう……。それでいて秘めた悪をも感じます。
信頼ある友だちの話しでは、《伸縮自在で時には武器にもなる》との事。ですがどういった系統の武器でしょうか?
それにどうして男性にだけ、このようなアドバンテージがあるのか、あたしは常日ごろから不思議なおちんちんに関心がありました。
兄さんに言っても笑ってばかりで見せてはくれません。こっそり兄さんのお風呂を覗こうにも、脱衣場の入り口を施錠しているので手が出せず、諦めていたところにこんな機会が訪れようとは……。
――ラッキーとしかいいようがありません。
見せてくれるのでしょうか、武器として使用する『おちんちん』を。プレイ中だったドラクエの戦闘BGMが軽快に流れます。
あたしは獲物として刈られる可能性を感じつつも、未知な世界にわくわくしていたのでした。
するとお客さまはトイレのドアを閉めた後、ぶつぶつ呟きながら、前かがみでお尻をくねらせ近づいてきます。
いよいよです。
幻覚呪文でも唱えているのかしら?
そんな事を思っていたら、急に抱き起こされ。そして――あれ? ポジションチェンジ?
お客さまが便座であたしが立った状態。何が何だか、だけどよろめいてしまったあたしは、そのままストンと後ろ向きで彼に着地しました。
正確にはお客さまの膝の上にちょこんと座っただけ。膝の上は少し冷たく、お髭がチクチクしてくすぐったいのでした。
まさかこれが攻撃?
おちんちんの武器はどうされたのかしら?
お尻の下でぱたぱたしている可愛い武器に、ついモジモジしていたら、突然後ろから口を押さえられました。
「もぐもぐもももも」
声を出せなくしてからいよいよ、凄いことをされるのかしら?
さあ、きなさいっ!
身体がぞぞぞぞ~っ、と波打ちました。
武者震いではありません。苦しいような、気持ちいいような、ふわふわした感覚。上手く説明できませんが、あたしの内部で何かが弾けたのです。
そしてお客さまのたぶん攻撃。意味不明の排便が追加されました。
うーん……。どうなのでしょう、攻撃にしては余りにも貧弱。音だけはパワフルですが臭いだけです。
たしかにここはおトイレですから、用途は間違ってはいませんけど。
不満に感じていたら、なんだかあたしも吊られてしまって、お尻の前の方ががぷるぷるとむず痒くてなりません。
えっ、あっ、ちょ……、まって、まってっ……。
小股をすぼめてオシッコを我慢。まさかこの状態でするわけにはゆきません。お客さまのお膝にかかってしまいます。
立ち上がってなんとかしたいのですが、身体ごと口を覆われているのでそれも出来ません。我慢するしか道はなくて、でも下のほうはそうもゆかなくて。
限界、堪らず。
だめ。だめですっ! 止まってぇ!
心で叫んでも、下に力を込めても止まりません。
やってしまいました。
びちゃびちゃにした膝の上に座りながら、信じられないけれど、ぞぞぞぞぞ――っ! と二度目の震えを感じてしまい――つまりそれは、生まれてから一番気持ちの良いおしっこだったのです。
おちんちんの武器探求どころではありません。悲しいのです。ママや兄さんにもオシッコをかけたことはありません。なのに兄さんの親友に、お家にいらしているお客さまにオシッコをしてしまったのです。
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