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☆三度目の岩田家訪問 その1
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豪華な岩田家の玄関前。
僕が岩田家を訪れるのは今日で三度目となる。
高級住宅街に住む岩田はママと妹の三人家族。父親を早くに亡くしたそうで、岩田ママが昔のモデル時代の経歴を生かし芸能関係の仕事をしているそうだ。どうしても家を空ける事が多くなる岩田ママに代わり、岩田が小さい頃から妹愛里の世話をしているのだ。
岩田はもう兄というより、ほとんど父親の気持。妹が可愛いくて仕方がないのだ。愛里も岩田に父親の面影を見ているのかもしれないな。
だから岩田が愛里の事となると、あそこまで豹変してしまうのは分からなくもない。
さて。
家に愛里ママはいるだろうか。いなくても勉強会が終わった頃に帰宅してくれれば良いのだけど。
まさか帰ってこないなんて事はないだろうな……。
詫びる文句は何度も脳内シュミレーションしてあるのだ。
玄関の横に設置されてあるチャイムのボタンを押そうと手を伸ばしたら、情けないことに指が震た。
「はははははは……」
大丈夫か僕?
手を脇腹でこすってから、改めてチャイムを鳴らす。一歩下がり、開くドアをじっと待った。
「おう」
少しして出てきた岩田が一言。
相変わらずのポーカーフェイスだ。
「お邪魔します……」
入った玄関には、岩田のローファーの横に女の子の小さな靴が揃えられている。
ゴクリと息を飲んでしまった。
家に上がり、岩田について廊下を進む。その先にはリビングに入る大きなドアがあった。
あそこに愛里がいる……。
僕が酷い事をしてしまった犠牲者がいるのだ。
勉強会で僕がやって来ると知って、どんな気持で待っているだろうか。
トイレの時は愛里もパニックになっていただろう。だから泣いたり嫌がったりする余裕もなかっただろうが、数日経った今では、冷静に自分を見つめられるようになっているはず。
僕に会って……。僕の顔を見てどうだろうか。
泣いたりして。僕は性器まで見せた変態男なのだから……。あぁ……。
この後に及んで、会うのが怖い。愛里に会うのが怖い。
俯いてぎゅっと両手の拳に力を入れた。
「来たぞ」
そう言って岩田がリビングに入り、遅れて僕も敷居をまたぐ。高級ペルシャ絨毯を二歩ほど進み、ゆっくりと持ち上げた顔で辺りを見回したが誰も居なかった。
キッチンと合わせて三十畳はあるだろう広いリビング。隅っこにいるかもと、もう一度愛里の姿を探したが見当たらなかった。
おい岩田よ。さっき「来たぞ」と愛里に言ったんじゃなかったのか?
岩田はすたすたと歩いて行き、さっきまで座っていたと思われるソファーに腰を下ろす。
ソファーの前の豪華クリスタルテーブルには、勉強道具が広げられていて、受験対策の途中だったことが伺え知れた。
自分の部屋にでもいるのか?
いや、別に。居なけりゃ居ないで良いんだけど。
羞恥心でいっぱいな愛里の顔を見るのは心苦しいものだ。
そう思っていた時。背後から『とととと――』とフローリングを叩く小さな音が近づいてきて――――、瞬間消えた。
と同時に、トンと背中に軽い重みがして、首に両腕が回され、脇も小さな脚がふたつ挟んで。
「いらっしゃい。山柿お兄ちゃん」
可愛らしい声。
――愛里だ。
愛里が僕の背中に飛び乗ったのだった。
ええっ! なんで?
愛里は僕を軽蔑しているんじゃ……?
いやいや、そんな事より。背中全体に感じる愛里の温もりが、耳元付近から漂ってくるミルクみたいな甘い香りが。
嘘ではない夢でもない。
本当に愛里が僕の背におぶさっているんだ。
嬉しくてニヤケそうになる口元を、慌てて引き締めた。
さらに追加として、愛里に毅然とした口調で「こんにちは」と返事をする。
岩田にニヤケ顔を見られたりしたら本気でヤバイ。そうでなくともこの状況――愛里がガシッと僕の背中に密着しているあり得ない状況――危険なのだ。
岩田は見ていたはず、愛里から飛び乗って来たのを、僕が全く関知しないで起きた現象なのを。
だが――、
岩田は右目の上をぴくぴくさせながら平べったい声で発した。
「こら。愛里。お行儀悪い」
「ごめんなさい……」
愛里がストンと背から降りると、感じていた温もりと重みが消えた。
ゆっくりと岩田の顔が穏やかになってゆく。
やれやれ……。
僕の直ぐ真横、改めて見下ろした愛里は、純白のワンピースで背中には奇麗な羽根を付けていて、とても可憐だ。
なにもかも始めて会った時と同じ。艷やかな黒髪も、輝く大きな瞳も、じっと見上げる笑顔も、そして、
「愛里。お兄ちゃんに会いたかったかも……」
愛里がそんな事を言ったのだった。
どどどどどどどどどど、どっきゅ――――ん!!
鬱積されていた思考は爆散して、数日ぶりに心臓を鷲掴みされてしまった。
僕の目にはもう愛里しか見えない。
僕が岩田家を訪れるのは今日で三度目となる。
高級住宅街に住む岩田はママと妹の三人家族。父親を早くに亡くしたそうで、岩田ママが昔のモデル時代の経歴を生かし芸能関係の仕事をしているそうだ。どうしても家を空ける事が多くなる岩田ママに代わり、岩田が小さい頃から妹愛里の世話をしているのだ。
岩田はもう兄というより、ほとんど父親の気持。妹が可愛いくて仕方がないのだ。愛里も岩田に父親の面影を見ているのかもしれないな。
だから岩田が愛里の事となると、あそこまで豹変してしまうのは分からなくもない。
さて。
家に愛里ママはいるだろうか。いなくても勉強会が終わった頃に帰宅してくれれば良いのだけど。
まさか帰ってこないなんて事はないだろうな……。
詫びる文句は何度も脳内シュミレーションしてあるのだ。
玄関の横に設置されてあるチャイムのボタンを押そうと手を伸ばしたら、情けないことに指が震た。
「はははははは……」
大丈夫か僕?
手を脇腹でこすってから、改めてチャイムを鳴らす。一歩下がり、開くドアをじっと待った。
「おう」
少しして出てきた岩田が一言。
相変わらずのポーカーフェイスだ。
「お邪魔します……」
入った玄関には、岩田のローファーの横に女の子の小さな靴が揃えられている。
ゴクリと息を飲んでしまった。
家に上がり、岩田について廊下を進む。その先にはリビングに入る大きなドアがあった。
あそこに愛里がいる……。
僕が酷い事をしてしまった犠牲者がいるのだ。
勉強会で僕がやって来ると知って、どんな気持で待っているだろうか。
トイレの時は愛里もパニックになっていただろう。だから泣いたり嫌がったりする余裕もなかっただろうが、数日経った今では、冷静に自分を見つめられるようになっているはず。
僕に会って……。僕の顔を見てどうだろうか。
泣いたりして。僕は性器まで見せた変態男なのだから……。あぁ……。
この後に及んで、会うのが怖い。愛里に会うのが怖い。
俯いてぎゅっと両手の拳に力を入れた。
「来たぞ」
そう言って岩田がリビングに入り、遅れて僕も敷居をまたぐ。高級ペルシャ絨毯を二歩ほど進み、ゆっくりと持ち上げた顔で辺りを見回したが誰も居なかった。
キッチンと合わせて三十畳はあるだろう広いリビング。隅っこにいるかもと、もう一度愛里の姿を探したが見当たらなかった。
おい岩田よ。さっき「来たぞ」と愛里に言ったんじゃなかったのか?
岩田はすたすたと歩いて行き、さっきまで座っていたと思われるソファーに腰を下ろす。
ソファーの前の豪華クリスタルテーブルには、勉強道具が広げられていて、受験対策の途中だったことが伺え知れた。
自分の部屋にでもいるのか?
いや、別に。居なけりゃ居ないで良いんだけど。
羞恥心でいっぱいな愛里の顔を見るのは心苦しいものだ。
そう思っていた時。背後から『とととと――』とフローリングを叩く小さな音が近づいてきて――――、瞬間消えた。
と同時に、トンと背中に軽い重みがして、首に両腕が回され、脇も小さな脚がふたつ挟んで。
「いらっしゃい。山柿お兄ちゃん」
可愛らしい声。
――愛里だ。
愛里が僕の背中に飛び乗ったのだった。
ええっ! なんで?
愛里は僕を軽蔑しているんじゃ……?
いやいや、そんな事より。背中全体に感じる愛里の温もりが、耳元付近から漂ってくるミルクみたいな甘い香りが。
嘘ではない夢でもない。
本当に愛里が僕の背におぶさっているんだ。
嬉しくてニヤケそうになる口元を、慌てて引き締めた。
さらに追加として、愛里に毅然とした口調で「こんにちは」と返事をする。
岩田にニヤケ顔を見られたりしたら本気でヤバイ。そうでなくともこの状況――愛里がガシッと僕の背中に密着しているあり得ない状況――危険なのだ。
岩田は見ていたはず、愛里から飛び乗って来たのを、僕が全く関知しないで起きた現象なのを。
だが――、
岩田は右目の上をぴくぴくさせながら平べったい声で発した。
「こら。愛里。お行儀悪い」
「ごめんなさい……」
愛里がストンと背から降りると、感じていた温もりと重みが消えた。
ゆっくりと岩田の顔が穏やかになってゆく。
やれやれ……。
僕の直ぐ真横、改めて見下ろした愛里は、純白のワンピースで背中には奇麗な羽根を付けていて、とても可憐だ。
なにもかも始めて会った時と同じ。艷やかな黒髪も、輝く大きな瞳も、じっと見上げる笑顔も、そして、
「愛里。お兄ちゃんに会いたかったかも……」
愛里がそんな事を言ったのだった。
どどどどどどどどどど、どっきゅ――――ん!!
鬱積されていた思考は爆散して、数日ぶりに心臓を鷲掴みされてしまった。
僕の目にはもう愛里しか見えない。
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