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☆謝罪に行かねば その2
しおりを挟む「ああ、まあ」
『だけどいろんな意味で、綾部とは関わらないほうがいい』
ほうほう。岩田も綾部さんの性格に詳しいようだ。
「うん。僕も同感だ。いくら美人でも彼女は無理そうだ」
『そうだ。そこまで分かったということは、今日相当やられたみたいだな』
岩田も綾部さんにやられた被害者?
ぷぷぷ。想像しただけでも可笑しくなる。
「ああ」
『じゃ。また明日』
「あっ! あの……」
『どうした?』
「いや別に……」
『そうか、では』
そう言って岩田からの電話は切れた。
僕は自分の携帯電話をじっと見る。
ぎゅっと唇を噛み締めて長いため息を吐いた。
謝罪――――できなかった。
自分のした罪を告白する。
結局できてない。進展ゼロ。
愛里が傷ついてないから、感謝しているからって、もうOKってわけにはゆかないだろう、
罪は罪なんだから。
愛里はまだ性の知識もない小学生なのだから、喜んでいたといっても、事の重要度も理解できないわけだから、僕が勝手にうやむやにできるものじゃない。ちゃんと責任をとらないと。
じじじじ。じじじじ。じじじじ。
携帯の振動音?
僕の携帯ではない。何処からだ。
音の響く方――――赤いマフラーからだ。
持ち上げるとそこには着信の振動をしていた携帯電話。
なんと。マフラーに携帯電話まで忘れるとは、綾部さんってドジっ子なのか?
震え続ける携帯に出ようかとも思ったが、他人のプライバシーを無断で覗くほど、僕は無神経じゃない。
そのままにしておくと、やがて振動は止まった。
「そろそろ。ご飯よ~っ!」
母さんの声にキッチンまで下りた。
テーブルの上には湯気を立てているオデン鍋。そしてサラダ。
「あら? ちょっと顔が赤いわよ。熱があるんじゃないの?」
そう心配されて額に手をおいてみると、確かに熱っぽいし身体もだるい。
「風邪かなぁ~」
生まれてこの方、僕は丈夫な身体を授かったお陰て風邪を引いたことが殆ど無い。
そういう意味では有り難い遺伝ではある。
「ちょっと止めてよ。インフルエンザだったらどうしょうかしら」
インフルの予防接種は受けてはいるが、それはあくまで今年流行るであろう型を予測したもの。
違う型だと無意味に近い。
「大丈夫だって。ただの風邪だよ」
「今日は岩田くんの家に行くのは止めておいたほうがいいんじゃない?」
「ああ。そのつもりだよっ」
心配そうな顔をする母さんに、笑顔で元気ぶってみせた僕は、夕食のオデンをいつもより多めにパクついた。
決めた事が出来ないのが僕の悪いクセだ。
でも今日はもう謝罪に行くのは止めておこう。
珍しく風邪を引いたみたいだし、受験生の岩田にうつすわけにはゆかない。
愛里にうつしでもしたら大変だ。
明日、病院で注射を打ってもらえば直ぐ治りそうだが、それだと学校を休む事となる。
綾部さんの忘れ物は昼からでも届けに学校へ行くか。
そしていよいよ夜は岩田家に謝罪しに――――――。
愛里のトイレに侵入してからもう五日は経過している。
遅けば遅いほど、どうしてもっと早くに白状しなかったんだ、と言われそうだ。
再び部屋に戻ると、またしても綾部さんの携帯が振動していた。
もしかしたら綾部さん本人からかも。
失くしたのに気づいて自分の携帯へ電話しているとか。
僕は携帯を手に取り、気が引けるが確認した。
着信相手には綾部宅と表示されている。
更に抵抗はあるものの着信履歴も見させてもらうと、綾部宅が連続で表示された。
ありゃりゃ……。
僕の携帯番号を知らない綾部さんとしては、自宅から自分の携帯へ連絡するくらいしか手段がなかったのだろうな。
もっと早くに出てあげればよかった。
「もしもし」
僕は躊躇う事なく携帯を耳にあてて一言。
『ああぁ~っ!?』
だがしかし、帰ってきたのは、図太い男性のしゃくりあげる声だった。
面食らう僕。
恐る恐る……。
「あの……」
『お前誰なあ……。何処のどいつならあっ!!』
ドスの利いた広島弁だ。
忘れていた。
僕という人間は、悪いのは顔だけでなく、運も悪く、しかもバカだったという事を……。
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