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☆謝罪に行かねば
しおりを挟む震える身体で自宅に戻った僕は、玄関には入らず庭に行き、スチール物置に親父のランディングネットを戻しておいた。
そのまま裏口に行って、そこから風呂の脱衣所に入った。
母さんに見つからないように、風呂のスイッチをONにして衣服を脱ぐ。
このまま玄関から入ろうものなら、汚れた川の匂いを吸い込んだ服と、全身ずぶぬれの様相から母さんに問い詰められそうだ。
それよりなにより、この凍えた身体を早く温めたい。
まだ湯船が溜まってないので、シャワーの温水を浴びて暖を取りつつ、やがて沸き上がった湯船で全身を温めた。
「ふう~」
首までつかって目を閉じた。
背筋が痺れるような感覚。
ガチガチと寒さが続く。
30分は浸かっただろうか、やっと温まってきた。
だが右手の親指の付け根はじくじくと痛む。
傷はそれほど目立たないのに、続く痛みがたまらない。
ムカデに噛まれるとこんなに痛いのか?
風呂から出でから部屋着を着て、救急箱にあった効きそうな薬で処置をしてから母さんのいるキッチンへ。
「あら。帰ってたの?」
母さんは晩御飯を作っていた。
「ああ、うん。さっき戻ってきたところ」
「綾部さんを送ってったのね」
「ああ、まあ」
「よかったじゃない。良い子と仲良くなれて」
「ありがとう」
何も知らないで喜んでいる母さんを、わざわざがっかりさせる必要はない。
僕は一つ笑って、キッチンを出た。
「あっそうそう。これから岩田ん家に行くから」
僕はいよいよ処刑台にゆくのだ。
「あらそう? 晩御飯はどうするの?」
「あ……」
そうだな。岩田家も夕食の時間かもしれない。
腹を空かせた相手に謝罪するのと、腹が満腹の相手とじゃ、やっぱり後者のほうが穏やかに違いない。
「食べてから行くよ」
「そう。じゃ大急ぎで作るからね」
それまで僕は二階の自分の部屋に上がった。
ドアを開けて室内の電気を灯すとすぐに異変に気づいた。
赤いマフラーだ。ベッドの下に落ちている。
あれはさっき綾部さんが首に巻いていたヤツじゃないか。
もう……どうして忘れるかなあ……。
なるだけ関わり合いになりたくないのだが仕方ない。
明日にでも学校へ持って行って渡そう。
そう決めて携帯を取り出し、少ないアドレス帳から岩田家を表示させ、ひとつ深呼吸する。
天井を仰ぎ思い切ってプッシュした。
軽快なデジタル音、液晶画面にダイヤル待ちの表示、少しして通信中に変わる。
『もしもし?』
「あ。もしもし。私は山柿と申します。あの――」
『なんだお前か。どうしでこの電話だ? 俺の携帯電源落ちてたか』
「いや、そうじゃないんだ。……話があって……」
よし。ひとつ深呼吸。ぎゅっと目を閉じた。
「実はな……、お前の妹の愛里ちゃんの事なんだけどな……以前『おおーっ! 愛里がな。そうそう。今日お前の家で寝かせてもらって、すまなかったな。
愛里が商店街で偶然お前たちを見つけて追跡したら、お前の家の庭で眠くなったそうだ』
そうだったのか。
なんで庭で愛里がいるのかと――――いや、待てよ。
どうして愛里が僕と綾部さんを追跡するんだ。
愛里は綾部さんを知らない。
つまり僕を尾行した事になるが、それはいったい……。
いやいやいや、そんなのどうだっていい。
所詮は小学生、何でもかんでも遊びにしてしまうもんだ。それより。
「いや、そうじゃなく『それに失くした財布も一緒になって探してくれたんだってな。愛里がとても感謝していた』
愛里が感謝!?
トイレ事件を重く受け止めてなかっただけでも安心していたのに感謝って……マジで?
愛里っ…………。
――――愛里ありがとうーっ!!
僕は携帯を耳に当てたまま床に沈んだ。
救われた……。胸のもやもやが晴れて、肩の荷が下りたみたいだ。
これほど嬉しい事はない。
『おい、おい! 聞いているのか?』
「えっ! ああ、ごめんごめん……」
『愛里の事、色々すまなかった。兄として礼を言わせてもらう。
愛里には勝手に他人の庭に入ってはイカンと叱っておいたから、勘弁してやってくれ』
「いやまあ。そんなたいした事じゃないんだけど」
『それで、どうだった綾部とは?』
「えっ?」
急に話題を変えられて面食らう僕。
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そうか、岩田は愛里から聞いて知っているわけだ。
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