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★レディの資格
しおりを挟む「わわあああああああああぁぁ――――――っっ!!」
お部屋に戻って来られた山柿さまの大声に、あたしは飛び上がって驚き、へたり込みました。
山柿さまはクローゼットの扉を両手で閉じ、じっと動きません。
どうしたの……。
訊ねるのもいけない気がして、大きな背中が震えているのを黙って見ました。
お友だちの噂が、真実と思えないけど……勇者さまは慌てている。
クローゼットに危ない物が入っていたとは思えませんが、誰でも秘密にしたいものはあります。
「……、……」
勇者さまは依然クローゼットの扉を押さえて固まり、見られたショックの大きさがわかります。
何気ない好奇心が大変な事に。
お見舞いなのに、困らせに来たみたい。
「ごめんなさい……」
勇者さまの背中にお辞儀しました。
反応無し。
お漏らしをした時、優しくあたしの汚れた部分をフキフキした勇者さまが、ピクリとも動かず、無言なんて信じられません。
怒っているの?
絶対無いけど、そう思うほど空気が重いのです。
どうしょう。
嫌われたかも……。
無神経なあたしがバカです。
項垂れていたら、ぽつりと死んだような声で「変な男だろ……」と振り返らずクローゼットにすがるよう、ずるずるしゃがみ込み、背中を丸くされました。
「そんな……そんな事ぜんぜん。良いと思います。綺麗ですし、アニメみたいで素敵」
クリスタルケースには華やかなお人形さんが、カッコイイポーズで立ち、知っているアニメキャラもいますが、ほとんど知らないお人形ばかりコレクションされています。
恥ずかしがる必要あるかしら?
あたしなら、クローゼットに収めずお部屋に飾ります。
「……本当に……?」
勇者さまは後ろを見せたまま言いました。
「はい。本当です。本当ですから」
颯爽とした人が子供のようにめそめそして、思わず頭をなでなでしたら、嫌がらずじっとしました。
やがて向いた山柿さまのお顔は、恐ろしいのに悲しそう。目じりに雫が見えました。
こんなお顔もするんだ……。
あたしにだけ弱さを見せていると思ったら、むぎゅ~ってしたくなります。
「お兄ちゃんは怖い顔だろう。だから女の子に嫌われる。避けられるんだよね。
ヘビは嫌いでしょ、お兄ちゃんと同じなんだよ」
体育座りの勇者さまは、薄く微笑みました。
「可哀想……」
兄さんも言っていました、山柿さまは男子に人気があるのに、怖いお顔だから女子に避けられるって。
怖い物を嫌うのがレディらしさですから、勇者さまを好きでも怖がるフリをします。
知らないのでしょう、レディらしく振る舞う女の子の本心を。
「ありがとう……。こんな顔のお兄ちゃんだけど、女の子に嫌われ避けられると心が痛いんだ。気持が暗くなって何もできない。分かるかな。学校で友だちから嫌われた感じだけど」
「分かります。でも違う。あたしは嫌ったりしません。避けたりしないもん」
悲しませるなら、悩ませるなら、レディに成りたくない。
「本当にありがとう……。そう言ってくれるのは愛里ちゃんだけかな。
それで、三年前、偶然お店でフィギュアを見たんだ。
なんとなく手に取ったら気持が楽になった。嫌みが薄らいで消えて、心が落ち着き軽くなった。
それから少しづつフィギュアを買ったらこう」
山柿さまは申し訳なさそうにあたしを伺いました。
「……そうだったんですか」
「驚いた? ……変態みたいだろ……お兄ちゃん……」
小さな目が不安に揺れています。
「ううん」
顔を左右に振りましたが、勇者さまは悲しく微笑んだだけで信用してません。
「いいんだよ。ありがとう」
「そんなんじゃありません。
中のお人形さんは素敵です。あたしはたくさん持ってないし、羨ましくなります。
嘘じゃないです。あたしはお人形さんが大好きです」
「……」
反応ない。
なんとも勇者さまは、用心深いです。
応援ありがとうございます!
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