一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)

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☆監視 その2

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 やがて僕と綾部さんを筆頭にした行進が校門をくぐると、監視人も一般人も入って来ない。
 
 綾部さんは腕を開放した。
 金魚のフンも散り散りで、教室の前になると目で追う生徒が数名いるだけ、
 女子がニヤニヤしたが、大集団に注目されていたから何も思わなかった。

「お疲れさま。ありがとう」

 綾部さんが疲れた顔で微笑む。太い神経でも気苦労するのだ。

「大した事ないよ。でも、必要あったのか?」

「そう……あるの」

 意味深に眉をひそめた。

「変人と婚約したくないの」 

 変人……?
 一瞬僕を意味するのかと思ったが、クローゼットは愛里しか知らない。と気持を落ち着かせる。
 秘密がバレたら僕も変人呼ばわりされるのか……。

「変人って、誰のことだ?」

 訊ねると「あら、知りたい?」と笑みをつくった。

「婚約相手がいるのか?」

「そうよ。頭いいわね」

「……、……」

 思ったことをずけずけ言う。
 婚約者を『変人』呼ばわり。
 相手傷つくぞ。

 経緯は知らないが、父親が娘の将来を考えての婚約を、破断に持ち込む娘ってどうよ。
 僕が首を突っ込むことじゃないけど。

「いつまで恋人ごっこをする気だ?
 嘘を続けるのは気が引ける」

「分かるわ。だけど、アイツが婚約破棄を飲むまで続けるわ」

 綾部さんの怒った顔は初めてだ。

「相当嫌いなんだな」

 相手はかなり綾部さんを好きだ、お気の毒に……。

「そうよ。貴方のほうが百倍素敵よ」

「え――っ!!」

 怖顔の僕がマシってどんなヤツだ。興味がある。

「差支え無ければ教えてくれ、どんなヤツだ?」

「いいわ……。聞かないほうが良いと思うけど」

 僕の知人か?

「それって……」

「ほら、あそこよ」

 うそぉ――っ!

「あいつが婚約相手?」

「変人と婚約できないわ」

 綾部さんは噛みしめる。
 どろどろのオーラを瞳に宿し、剣道部のヒーロー、親友の岩田建成を睨んでいた。

「変人は岩田? 言い過ぎじゃないか」

 中学一年から六年間岩田を見たが、変人どころか、爽やスポーツマンのイメージ。
 無口な岩田が剣道大会だと大活躍するので、ギャップ萌えする女子にモテモテだった。

 岩田の何処が変人?
 仮に変人でも嫌う理由が分からない。
 綾部さんがわざわざ岩田(大嫌いなヤツ)に僕宛の手紙を託そうとしたことになる。おかしい。

「あの……訊いてる?」

「なにっ!」

 岩田を烈火で睨む綾部さんが、大昔のホラー映画みたいに、ぎぎっぎぎぎ……と首だけ曲げた。

 激怖! 
 す、す、すいません。話しかけて。

「要件ならさっさと言いなさい!」
 
「……はい……。綾部さんって、以前、岩田に手紙を渡してたよね。あれは僕に――」

「婚約破棄の話しよっ!!」

「そ、そうだったんだ――っ。ふはははは」

 勘違い凄すぎ。
 綾部さんが僕と付き合う為、岩田を断ろうとした。
 そのとき僕あてのラブレターで婚約破棄が見事に決まるはずだった。

「それをアイツ……断るなんて……腹の立つ」
 
 握った拳がぷるぷる震え、こめかみに青白い血管が浮かぶ。男子の憧れ綾部さんがホラーだ。

「ぎぎっぎぎぎ……」

「歯ぎしりですかっ! 落ち着いて綾部さん。
 まずは深呼吸。はい息を吸ってー、吐いてぇー、あの……聞いてます?
 聞こえてます、僕の声?」

 ファンの男子たちが『うっそだろぉ……』て目で見てますよ。ボー然と口開けてますよっ。
 その顔止めたほうが良い、イメージ崩れるって。

「人の困る事をする男だわ」

 いやいや……言えないでしょ綾部さん。
 岩田が廊下の僕たちを見つけ、珍しく笑顔で手を上げたら、綾部さんがカッと僕を睨んだ。

「ふんっ!」

 綾部さんは鼻息を飛ばし、黙って隣の教室に入っていった。

「はあ……」

 そうとう岩田を嫌っている。僕まで怒りが飛び火した。
 何も知らない岩田が手で来い来いするので近寄ると、

「大変そうだな。山柿よ」

 大変なのはお前だ……。

「見てたのか」

「ああ」

 コイツ嫌われているのにダメージ受けないのか。超鈍感?
 いや、気付いてないはずない。
 綾部さんが露骨に変人呼ばわりしているはず。
 それでも岩田は綾部さんが好き?
 綾部さんが婚約を取り消したいのを断るわけだから、そうだろうけど、惚れる理由はなんだ?
 綾部さんは美人だけど、外見ならモテモテの岩田は不自由してない。うーむ。

 しかし、岩田がねぇ……。
 岩田は綾部さんを悪く言うが、じゃー僕に対する嫉妬? 
 綾部さんを取り戻すべく、僕に悪い印象を植え付けたかった……。

 竹を割った性格の岩田が、姑息なマネをするとは思えないが。
 

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