一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)

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☆監視

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 ざわめく呉地駅のホーム。
 脳内で愛里とクソガキが手を繋ぐシーンがリロードされていた。
 クソガキにあっさり愛里がなびく腹立たしさと、小学生相手にマジで嫉妬している自己嫌悪と、やっぱり同じ年令がくっつくんだよな~という虚しさで、僕の精神はズタズタだった。 
 
「おはよう」

 肩をぽんぽんと叩かれた。綾部さんが微笑み、ぱっつん前髪を揺らし隣に立った。

「おはよ……」

 小声で返し、距離をとってよそを向く。
 何か言いたそうだったが無視した。
 それがまた自己嫌悪を増幅させてしまう。

「どうしちゃったの。心配ごと?」

 綾部さんが僕を覗いた。近い。大丈夫だろうか。
 この子も僕顔耐性が身についたか。

「よく分かったな」

「いつもの貴方の顔と違じゃない」

 僕顔の判別が出来るのか。流石だ。

「違うかな。ふふふ」

「……、……」

 いきなり綾部さんにがっしと腕を絡められ、ボヨンと膨らんだ胸が腕にあたった。

「何の真似だ……」
 
 公衆の面前で、いや、そもそも密着スキンシップする子じゃない。
 僕の慌てぶりを観察して楽しむ気か? 
 何食わぬ顔が気に入らない。
 リアル版美女と野獣に驚いたか、男子学生がどよめいた。
 腕を抜こうとするが離れない。

「このままで……お願い」

 僕にしか聞こえないくらい弱々しく囁く。笑顔だけど緊張している。
 
「どうした?」 

 調子がいつもと違う。

「監視されているのよ」

「監視……?」

 綾部さんの視線の先には『美人があんなブ男と……』不満気な男子学生に混り、一昨日のチンピラヤクザがひとり鋭い視線を放っていた。 
「あれか」

「そう」

 チンピラは綾部さんを『トモコさま』と呼んでいた。

「あのチンピラは綾部さんの何だ」

「チンピラって……。パパの部下よ。貴方は人の事言えないと思う」

 ズキリと胸に刺さる。ああ、そうかい。

「パパって、その……アチラ系?」

「失礼ね。パパは刑事よ。高野さんはパパが育てた直属の部下。歴(れっき)とした刑事」

「あれが刑事さん?」

 チンピラヤクザじゃないのか?

「声大きいっ!」

 腕を締め上げられ、胸がムニーっと僕の二の腕を圧迫。
 暖かく柔らかく。
 えっ……ちょ……良いんかな。

「来たわよ、電車」

 トリップした意識を引き戻され電車に連れ込まれた。
 遅れて高野さんも乗り込み、僕たちから離れつり革につかまる。

「いい? 私たちは付き合ってる男女の設定。意識して行動」

「……あのなあ、一つ質問。監視って何の?」

「貴方の」

「へ?」

「だから彼氏らしく堂々とパリッとして。パパに言われるの私だから」

「いやいや、聞いてない聞いてない」

「あら。いまさら嫌だと?
 か弱い私をもてあそび、あっさり捨てるの?」

 綾部さんは聞こえない声で言ってるつもりが、近くの乗客は微妙な顔している。

「ちょっとちょっと、変なこと言わないでくれ」

「酷いわ。ベッドで約束したのに」

「おいおい」

「貴方が私に相応しいかチェックよ」

「真剣(マジ)かっ」
 
 綾部さんはご令嬢か?

「高野さんが、綾部さんのお父さんに報告する」

「そう。だからちゃんとして」

「……、……」

 乗車中、綾部さんからラブラブ演技で話しかけられ、調子を合わせていたら、常連客から『ついに彼女が出来たかっ!』と激励の拍手が湧いた。
 監視人がキョロキョロして滑稽だ。これも報告されるのか。ヤダな。

 腕を組まれたまま広水ひろみず駅で下車すると、同級生がぶったまげた顔をして付いてきた。
 怖顔の僕は広水町でも有名で、興味本位で僕たちの後をつける人は高校に近づくにつれ増した。

「何かのデモですか?」
「いやいや映画か何かの宣伝だろう」
「バラエティー番組のドッキリじゃねーの」

 見知らぬOL、開店準備をする店員、通学中の小学生が不思議がる。
 綾部さんは普段通り、見られよーが騒がれよーが、むちーっと胸を僕の腕に押し付けたまま、「おはよう」と爽やかに挨拶をする。
 行列の後ろから高野さんが尾行していた。
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