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★召し上がれ
しおりを挟むやっぱり、熱いうちに召し上がって欲しいものですが、あたしのお家から山柿さまのお家までは全速力で走っても五分はかかる道のり。
せめて温かいうちにと頑張ったあたしは、はあはあ息を切らしながらヘロヘロで山柿さまの玄関に到着しました。
「……、……」
ブザー、届かないんでした。
踏み台にしそうな手頃な物はなくて、仕方なく引き戸を揺すりました。
「すいませーん……」
縦格子のガラス戸が、がちゃがちゃ鳴るだけで返事がありません。
二階のお部屋の照明が灯っているので、勇者さまはいらしてでしょうが、受験勉強で気づかないのでしょう。
「すいませーん!!」
今度は戸を引いてみると、カラカラカラと開いて行きました。
鍵がかかってないとは……。
廊下の奥は暗くてシーンと静かです。
「すいませーん……」
おばさまはまだ帰ってないのかしら?
「お邪魔しますよぉ……」
気は引けましたが玄関に入ってから靴を脱いで上がり「山柿お兄ちゃーん。来たよー」と明るく努めました。
『おーう! よく来たなっ』と、明るい山柿さまであって欲しいのですけど。
この階段を上がれば直ぐに勇者さまのお部屋。
声が聞こえないのかなぁ……。
それとも寝てるのかなぁ……。
どうしょう。折角ここまで来たのに、唐揚げまだ暖かいのに。
もじもじしても仕方ない。思い切ってトコトコ靴下のまま階段を上ったドアの前。タッパとその上に置いた封筒をぎゅっと握ってからノックしました。
すると、
「母さん?」
勇者さまの声です。
「いいえ……」
「えっ。えっ。えっ??」
響くドタンバタンと室内の音。
あら、一言でバレちゃったみたいです。
直ぐにドアが開き、
「愛里ちゃんじゃないか。どうしたのっ?!」
そびえ立つ大きな男性――――、勇者さまです。ですがそのお顔が、
「えっ、あの……いえ。その……」
明るい照明を背景にしているのでシルエットになっていてよく見えません。ただでさえいつも怒って見えるのに、どんなお気持ちなのかわかりません。
唐揚げを持ったまま、説明できないどころか、普通に声が出ません。
『全然なんとも思ってないんですからっ! 勘違いしないでくれないっ!! もう近寄らないでっ!!』
ここにきて、自分の言ったことが浮かんでしまって……。
「それ……唐揚げ?」
「え? ……あっ、ハイ!」
「どうしたのそれ」
勇者さまの明るい声のトーンからして、それほど気に病んでなさそうです。もしかしたら事情を理解してくださっているのかもしれません。
「あっ、いえ、実は、夕飯にって作ったんですけど、作り過ぎちゃって……」
あ……なんかあたし話せてる。いい感じかも。
「あの……だから、昨日ごちそうしてもらったし、その……」
うんうん、って勇者さまも頷いてくれてる。嬉しい。
「わざわざ、悪いね」
「いえいえ」
そうですよね。だって昨日あれだけ半ラブラブをしたあたしたちなのですから、あたしが勇者さまに言うわけないって信じてくださっていたのです、きっと。
わあぁ、良かったーっ。
この後お部屋に入って、一緒に唐揚げ食べるのです。
デートみたいで幸せ。そして、この封筒に気づいた勇者さまが……。
『どうしたのこれ?』
『あっそれ』
『折り紙……。おぉお! セミじゃないか。凄いね。これを僕に?』
『はい……。心を込めて折りました』
『ありがとう。大切にするよ』
『でも、一つお願いが』
『何だい?』
『どうやって折ったか疑問に思っても、決してその折り紙を元の紙にしないでくださいね』
『そうか。わかった』
『はい。是非に』
『でもな、そう言われると余計に……』
『あぁあぁ……だめだめっ……約束なのにっ! しかも激しっ……もっと優しくっ、破けちゃう』
『これはっ!!』
そして読まれてしまうのです。折り紙の裏面に書かれてある文面をっ!
――――『大好きです。死ぬまで付き合ってください』――――。
『隠し通すつもりだったのに。彼女さんがいる勇者さまを愛してしまったあたしの心っ!』
『そうだったのか。気にするな。勇者はどんな時も勇気ある物』
『あ――れ――っ! す、凄過ぎぃ、ライディーン!!!』
うっわ~っ……。
何か想像し過ぎて逆にドッと疲れてきました。
分からないように深呼吸します。はふーっ、はふーっ!
すると聞こえてきたのです、あれが。
「あぁ……。お返しってわけね、愛里ちゃん」
――――女の人の声?
山柿さまの後ろです。
「凄いじゃない、自分で作ったの?」
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