一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)

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☆綾部さんと家へ

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「悪いわね。送ってくれるなんて。ここまでしてくれなくても良いのに」

「……。まあ、試験も終わって、どうせ帰るだけだったし」

 僕の真横にはいけしゃあしゃあとほざく綾部さんがいたのだった。
 学校帰りの中学生に二度見されながら、まだ行ったことのない綾部宅に向かう。
 以前入った喫茶店のある商店街の抜け、そのまま真っ直ぐ五分ほど歩いた場所で、綾部さんが笑顔で両手を横にスライドさせた。

「さあ、到着したわ!」

「……おい」

「なあに? 山柿くん」

 意地悪っぽく微笑む美少女の奥には、見覚えのある豪邸、岩田の表札、裏庭に通じる道があった。

「……おい」

「だから、なーに?」

「岩田ん家に来てどうすんだよ!」

「あらヤダ……何処へ送るつもりだったの? えっと……もしかしてだけど……私の自宅?
 そんな……そんなの無いわよねぇ普通。付き合っているといっても、私たちまだキスもしていないのに、私の家に上がり込んで何をするつもりだったのかしら?
 ……まさか! 私が処女だって聞いて……ヤダ、そうなんだ。
 山柿くんて、そんな人だったんだ」

 ネチネチと嬉しそうに言ってくる。相変わらず意地が悪い。    
 ふふっと笑って岩田家のチャイムを鳴らした。

「ちょ、なにやってるんです!」

「見ての通りだけど」

「岩田は家に来るなって言ったんだぞ! まずいだろ!」

「それは貴方に言った言葉であって私じゃないわ。それに山柿くん?
 貴方は道を歩いている途中、たまたまこの場所に停止しているだけ。
 貴方の立っている場所は公共の歩道じゃないの? 岩田家の敷地内じゃないわ。全然まずくないじゃない」

「それはそうだけど……」

 いやもう、綾部節というか、理屈凄すぎだ。
 やがて玄関が開くと、岩田がヌッと顔を出した。
 視線を綾部さんから僕に向けて眉間にシワを寄せた。

「……何の用だ?」

 低音ボイスですごんだ岩田の胸板を、綾部さんがグイと押しのけてドアを開ける。

「用があるのは愛里ちゃんによ! さあ、どいてどいて」

 綾部さんは不満そうな岩田を気にもせずスタスタ玄関に入って、叫んだ。

「愛里ちゃーん! 来たわよーっ! 愛里ちゃーん!」

 流石の岩田もなんだコイツって顔をしている。
 僕は道路に突っ立ったまま、開いたドアから見える廊下に注目していた。
 すると奥から部屋着姿の愛里が、とことこスリッパを鳴らしてやって来るではないか!
 何ごとかと綾部さんを見上げて言った。

「なんでしょう。あたしにご用ですか……?」

 大きな瞳をぱちぱちさせている。可愛い……。
 
「あら、愛里ちゃん、お久しぶりね。元気してた?」

「あっ、はい」

 綾部さんは愛里の頭をくりくり撫でた後、「少し待っててね」と言って踵を返し、僕の側までダッシュでかけてきた。
 愛里はその動きを追っていたが、僕と目が合うなり驚いたのか、突然顔を曇らせて身を一歩下引き、口に小さな手を添えた。

「さあ、出しなさい! 山柿くん」

 綾部さんが手を突き出した。

「は?」

「は、じゃないでしょ。お土産よ! お み や げ」

 代わりに渡してくれるってことだろう、開いた手の平を上下に振る。
 そのずけずけした態度に、今更カチンとくる僕ではないが、ちょっとばかし気に入らない。
 僕が直接愛里に渡し『ありがとう、山柿お兄ちゃん♪』と愛里スマイルのご加護と、得点稼ぎを狙ってないといえば嘘になる。
 だが現実に渡すとなれば、K大合格より難しいとされる岩田の壁を抜けなければならないわけで、言われた通りにバッグからヘビのぬいぐるみを取り出した。
 速攻で綾部さんがふんだくり、玄関で何ごとかと微笑みながらも困惑した愛里の両手にそっと乗せた。
 じっとぬいぐるみを見ていた愛里は、やがて不思議そうな顔で綾部さんを見上げ、それから岩田と綾部さんの身体の隙間から僕を覗き「ありがとう……」と言った。心なしか微笑んでいるみたい。
 
 久しぶりだ。
 こうやって愛里と面と向かって顔を見合わせるのは……。
 こんな感慨深い僕の気持ちを愛里は知るはずもないだろう。
 愛里は純粋に嬉しいようで、手を振ってくれた。
 だけど、綾部さんが言った。
 
「これ、お姉ちゃんたちからのお土産だから!」

「……、……」

 まあ、細かいことは言うまい。ちゃんと渡せるものは渡せたのだから。
 すると突然突風が吹き、バッグに入っていた紙が舞い上がった。たいした物じゃない、通りで貰ったチラシだ。ふわふわと裏庭に飛んでゆくので僕は追いかけた。

 チャンスじゃないだろうか。幸運の風じゃないだろうか。
 これに乗じて、岩田家の裏庭にあるプールに、この右ポケットにあるパンツを置いてくる。
 今はみんな玄関に集合していて、僕の行為は分からない。
 いけるぞ、いける。
 何をやってもツイていない僕だけど、たまには良いことが起きるもんだ。
 玄関を横切ってそのまま敷地内を走り、裏庭に出た。
 落ちている紙は直ぐに見つかったが拾わず、早速ポケットから取り出したパンツをプールぎわまで持っていき、投入しようと屈みこんだその時――。

 ふと視線を感じ、顔を捻ると――。

「あ……」
 
 リビングのソファーの側から顔だけ出している美少女――、玄関にいたはずの愛里がこっちを見ていた。
 見ているのはパンツを持ったまま、プールの水面ぎりぎりで止まった状態で硬直している僕。

「いや、あの、その……」

 愛里は目を丸くし、小さな口を開けている。
 それって、あぁ、それって、明らかに疑惑……。

 どうして山柿お兄ちゃんがおパンツ持っているんだろう、さっき風に飛んだ紙を追いかけていたはずなのに、おパンツ持っている。あれ、なんかあたしのおパンツと凄く似てる。あれって洗濯したあたしのおパンツじゃーないの?
  どうして持っているの? どうしてじっと、あたしを見ているの?

 そんな事を考えているに違いない……。

 どうする……。
 このままパンツをプールに投入する……。いやいや、そんなことは出来ない。
 ほぼ証拠隠滅行為……犯罪隠しじゃないか。
 と残るは……、このマヌケ男に残された道は……。

「い、いやーっ。こんなところにパンツがあるぞ。どうしたんだろーか、ふむふむ」

 ざーとらしいが、愛里に聞こえるように言った。
 パンツを持ったままだが、凛と身体を起こし、キリキリと顔を引き締める。

「やあ、愛里ちゃん、丁度いいところへ。これを見てくれないか? 心当たりはないかね?」

 女性物の下着になんぞ全く興味などない、たまたま見つけた拾得物を持ち主に届けたいと願っている親切な紳士として、堂々とそれでいて優雅にリビングの大窓まで歩み寄った。
 リビングの大窓を挟んで、愛里は不安そうに、窓のカギを外して開けてくれた。
 僕はゆっくり頷いて片膝を落とし、土産のヘビをぎゅっと右手で握り締めている愛里を見つめた。
 そっとパンツを差し出すと、愛里が小さな左手で受け取り、じっと視線をパンツに落とした。

「あのぉ……これ……。家の……です……」

 消え入るような小さな声で呟いて、持ち上がったその白かった顔は真っ赤だった。

「あっ、そっ、それは、よかった。よかった」

 驚いて、テンパッてしまって、もう何が愛里にとって良かったのか分からない。
 もちろん自分にとっては、パンツをあるべき場所に返却できたわけだから良いに決まっている。
 でも愛里は、耳まで赤くして俯き、困ったように僕をちらちら見ているじゃないか。
 やっぱりこのパンツは愛里ので、それを僕が発見してしまったからじゃ……。
 恥ずかしくて仕方がない、とか。可愛い。でも悪いことをしてしまった。

「……ごめんね」

 僕が謝ると、「ううん……」と黒髪と一緒に頭をふりふりした。

「山柿お兄ちゃん……あ、あり、ありがとうございます」

 そう言って小さな顔を上げた。大きな瞳をうるうるさせて僕を見ている。
 右手のヘビを僕に見せるように、薄い胸に抱きかかえたので、パンツと一緒に土産のお礼を言いたかったようだ。

「愛里ちゃんの好みが分かっていたら、もっと良いのをブレゼントできたんだけどね」

「ううん……、これがいい。これがいちばん、……すき」

「そ、そ、そう……。よ、良かった……僕もね、そのヘビ……すきだ」

 ……すき。

 僕はしびれてしまっていた。
 勝手に虫のいい解釈をしてしまって、どっきゅん胸に成ってしまっている僕を、愛里は「うふふ」と笑ってくれた。可愛い……。
 そんなほんわか幸せムードを、大声が一瞬にしてかき消した。

「おい! 何をしているっ!!」

「兄さんっ!!」

「げっ! 岩田っ!」

 突然部屋の入り口から岩田が突進してきた。
 
「お前あれほど愛里に近寄るなと言ったはずっ! いい根性しているっ!」

 壁にかけてある日本刀を持ち出し、鞘から刀を抜いた。

「ちょっと岩田くん。頭冷やしてっ!」

「うるさい!」

 遅れて入ってきた綾部さんの言葉も耳にしない。僕に向かって一直線に走ってきた。
 僕と岩田の距離がなくなる寸前、愛里が身体ごと割って入った。

「止めて――っ、兄さん!!」

 右手にヘビのぬいぐるみ、左手にパンツを持ったまま、両腕を広げている。




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