一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)

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☆AHHテレビ《ジャッジメント》の綾小路

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 東京のAHHテレビに到着した。
 ここの情報番組、《ジャッジメント》が岩田監督のドラマを取り上げるからだ。
 実はこれ異例の事態が起きている。《ジャッジメント》は岩田監督のドラマの裏番組。
 ライバル局がわざわざ他局の番組を応援することになるからだ。
 
 しかし、《ジャッジメント》からの出演依頼リストには主演の◯◯さんや、刑事役の◯◯さんといった主要キャストは記されてなかった。
 まずメガホンを握る岩田監督、マスコット的存在のあいりん、一話目で豊満な肉体美を披露した柏樹セナさん、H画像流出騒ぎから火が付いてしまった僕(坂本氷魔)、アップロードした犯人3女役の月光優花、そしてなぜか近所のコンビニの息子であり、愛里の同級生のブラック羽沢だ。
 作品の紹介といいながら、話題のメンバーを集めただけ(ブラックは例外だけど)。視聴率狙いが見え見えだった。

 だが、そんなことより、僕は《ジャッジメント》の仕事を最後に芸能活動最を終える事となっていた。
 監督の命令に背いたから。
 実のところ、最近は芝居にもスタッフにも慣れてきて、授業中でも無意識に台本のセリフが浮かぶときがあったりして、己の熱の上げように自分でも可笑しくなる。
 週2日演技のレッスン、ドラマの収録、そして大学の授業。確かに辛いけど楽しい。
 僕のライフサイクルの中に芝居というものがすっかり根付いているのだ。 
 それに初対面のK大女子の先輩が『ドラマ観てるわよ。がんばってね!』と気軽く声をかけてくれるのが嬉しかったし、K大寮の近所の小学生が『やーい! 坂本氷魔ーっ! 出てこい』と騒ぐので本当に外に出てやると『うっわ、マジでスゲー怖いぜ!』と茶化されるのもそれはそれで嬉しかった。
 それから、毎日寮に届く坂本氷魔宛てのファンレターを読むのも楽しみの一つになっていた。
 他にもこの仕事をやり始めて良かった、楽しい、嬉しい、そう感じることはたくさんあった。
 教師になるのが目標だけど、俳優も良いもんだな、としみじみ思っていた矢先、僕をこの世界に連れてきてくれた人からの『クビ』の宣告だったから、少し落ち込んでいる。
 だからと言って、監督とエッチしとけばよかったなんて思ってないぞ。 


 タクシーでAHHテレビ局に到着した僕と岩田監督、セナさん、愛里、月光優花ちゃん、羽沢くん、マネージャーのミッチェルさんは、AHHテレビの玄関をくぐった。
 僕はサングラスを取り出してかける。
 流石に知名度は上がってはいるが、やっぱり公共の場を悲鳴の嵐に、惨劇にしたくはない。
 もちろん新幹線の中でも、路中でも掛けっぱなしにしていたのは言うまでもない。
 入って直ぐに開放感あふれる広いロビーに出た。高い天井まで届く壁面の大判窓からは陽の光が注ぎ、観葉植物が柱やソファーに設置され、超大型モニターには外来者向けの案内が映されていた。
 ミッチェルさんが綺麗な受付嬢から話しを聞いている。

「ウチ初めて来たけど、日本一のテレビ局ーっ! って感じね。はいからじゃん」

 一般見学者がセナさんに注目していた。 
 そりゃそうだろう。着ている服が露出度高過ぎる。 

「あらなに? ウチのサインが欲しいの」

 たまたま色紙を持って近くにいた見学者の中学生男子は、まだあどけなさが残る顔でひとつ頷いた。

「嬉しいねーっ! ほらかしな」

「あ……」

 気の弱そうな男の子は、セナさんが大阪では有名なSM女王様だとも知らず色紙をひったくられた。
 スラスラ気持ちよく書き上げたセナさんから、大サービスだよ♪ と言ってキスマークまで付けて戻された色紙には《 強姦中出し最高! 》と書かれていた。

「いやー。こーんな可愛い中学生にもウチのファンがいるんだって知って元気出るー」

 違うと思うけど。

「キミ、彼女とかセフレとかいるん?」

「……いえ」

 訊ね方が変だろ。 

「もう、緊張しちゃって、かっわいい~♪ 筆おろししたくなるーっ!」

 なんとも微妙な笑みを浮かべているファンは、セナさんに握手と胸の谷間に顔を埋める《取り込みハグ》までしてもらっていた。
 その様子を愛里、月光優花、ブラックの小学生トリオはそれぞれ複雑な顔をしながら見ていた。

「セナお姉さまは、A∨のプロ。愛里ちゃんが言っていたあくしょんばいおれんすのプロ。おちんちんの不思議な生態も知っているんだわ~。筆おろしって何でしょう。素敵な言葉ね」

「ねーねー、中出しって、なんだろー。二人とも知っている?」
 
「なんて汚い。A∨なんて最低の仕事よ」

「あれ、愛里ちゃん? 前は尊敬しているって言ってたじゃない」

「前のあたし? あーあ、あれね。バカだったのよあたし。でも今は大丈夫。まともだから」

「ねー、僕の話し聞いてる? 中出しってあいりんが言っていたカルピスのことかな。僕も早く出るように修行しないと……」

「バカね羽沢くん。カルピスなんか出るわけないじゃん。あれはせーしよ、せーし」

「せーし?」

「中出しなんか最低。強姦も犯罪じゃない。最高って思っているあのセナって女。相当頭が悪いわ」

「「そーなんだ」」

 小学生トリオが離れた場所で会話しているおかげで、たぶんセナさんに聞こえていない。良かった。
 マークⅢはエッチ系の話題が大嫌いで(まあ、小学生だったらこれが当たり前だろう)、だからA∨女優のセナさんとも会話は少なく見下していた。マークⅢが僕を嫌いなのは理解できるとして、監督(自分の母親)が嫌いなのもそのせいだろうか。
 全く解らないのが岩田も嫌っていることだ。どうして自分を一番愛してくれている兄まで嫌うのか? 
 岩田が寝言で愛里に謝っていたが……、愛里に嫌われるような何かをしてしまったのか。まさか岩田が……。

「おまたせシマシタ」
 
 禁断の兄と妹。
 馬鹿なっ。クソ真面目な岩田に限って絶対にない。
 あり得ないアダルト妄想を振り払った僕は、受付が終わり控室に案内してくれるミッチェルさんの後に続いた。
 二部屋、それぞれ女性と男性に別れた。

 部屋に入り際、監督に耳打ちしているミッチェルさんの声が、それとなく届いた。
 
「綾小路の控室に来るよう、伝言がありました」

「なにっ!」

 立ち止まった監督。そしてミッチェルさんにセナさんまでもが、険しい表情になった。

 50歳男性、綾小路あやのこうじはジャッジメントのプロデューサーであり司会者だ。
 漫才でデビューしただけあってトークが面白く、主婦層を中心に大人気だ。
 10年前から映画監督や絵画も手がけ、多方面に才能を発揮しているマルチタレントだ。

「どうされます……行きますか」

「無論、そのつもりだ」

「ではウチたちも一緒に」

「いや、ここは私一人で行く」

「ダメです監督。一人は危険過ぎます」

「綾小路が事を起こすなら、番組の収録が終わってからだろう。ヤツの狙いはだいたい想像つくがな。それまでは手は出すまい」

「では何で、到着早々面会を希望してくるのでしょうか」

 どうしたっていうんだ? 楽天家のセナさんまで眉間にシワを寄せている。
 たかたが綾小路と面会するだけで、ここまで大げさに構える必要があるのか。
 
 女性たちが女子の控室に入っていく。
 ブラックに、一人で男子の控室にいるよう謝って、僕は廊下で待機していた。
 やがて女子部屋のドアが開き、監督、セナさん、ミッチェルさんが出てきた。
 子供たちだけ残して、女性3人で綾小路の控室に向かうようだ。
 僕と3人、眼が合う。

「聞いていたのか。坂本」

「監督。僕も同行します……」

 ミッチェルさんとセナさんが顔をほころばした。やはり、綾小路との間で重大な事があるんだ。
 
「断わる」

 監督が冷たく即答した。

「えっ? 坂本くんがいたら安心じゃないですか監督」

 セナさんにミッチェルさんが頷いている。

「坂本は無関係だ」

「……どうしてです? 坂本は信頼のおける男ですよ」

 セナさんからしてみれば、僕は岩田ファミリーの一人。監督が一番僕をひいきにしているわけで、腑に落ちないのだろう。

「セナは口を出すなっ!」

「あっ……はい……」

 監督に一喝されたセナさんは、首をひねりながら一歩下がった。
 セナさんは僕がクビになるのを知らない。

「いいから、坂本は控室にいろ。命令だ」

 命令に従わない男の手を借つもりはないわけだ。

「そうかもしれません。そうかもしれませんが、僕は勝手についていきますから」

 廊下に二人。身長2メートルほどもある大男の姿があった。
 一人は元相撲取り、今はAHHテレビのバラエティでよく見かけるタレントだ。
 もう一人は元K―1選手、今はやはり綾小路の番組でよく出るタレントだった。
 近寄ってきたガタイの良い有名人を見上げた。
 僕も比較的体格の良い身体をしてはいるが、この二人には敵わない。
 ちょっと嬉しくなった。

「岩田監督ですね。綾小路さんがお待ちです」

 これは驚いた。岩田監督に挨拶しに来たのではなく、わざわざ綾小路のお使いで来たのか。
 テレビを見ていて、綾小路は顔が広く親分的存在だと感じてはいたが、カメラがまわっていないこんな時でもなのか。
 
「お前が坂本氷魔か……」

「あ、はい」

 元K―1選手が、クックックと粘つく笑みを浮かべ、元相撲取りも続いた。
 僕を見下している。
 どうせA∨男優だろうが、場違いなんだよ、と言われているようだった。

「私とこの子たち3人だが、宜しいか?」

 男たちは嬉しそうにセナさんの全身に眼を這わしつつ。

「綾小路さんは、岩田監督一人で、とおっしゃってました」

「……そうか。わかった。私一人で行こう」

(ダメですよ、監督! 相手は綾小路ですよ。なにされるか分かったもんじゃない!)

 セナさんが監督に耳打ちしている。

(ここに来る前から、覚悟の上だ)

 岩田監督はセナさんたちを制止、2メーターの大男に挟まれながら廊下を進む。
 床を鳴らすローヒール音。漆黒のスーツを纏った監督が、処刑場に向かう囚人のように見えた。

 残された僕たち。
 心配そうに見やるセナさんに僕は訊ねた。

「綾小路って、何者なんだ?」

「坂本……。ウチから聞いたって監督には絶対に言っちゃダメだかんね」

「お、おお。分かった」

「綾小路(あやのこうじ)が、むかし監督をレイプした男なんだよ」

 レイプ――。
 当時二十歳の監督がトップモデルのまま電撃引退せざる負えなくなった原因。
 犯人があの綾小路(あやのこうじ)だったとは。

「――ヤツはクソ野郎だ!」

 セナさんは吐き捨てる。

 監督から聞いたけど、レイプ行為は6時間も続いたって。
 満足してヤツは監督にドラマの出演を仄めかして笑ったって。
 大げさに仰け反って高笑いしたそうよ。どうせお前も仕事目当てだったんだろって」

 綾小路が出るドラマやバラエティーはどれも高視聴率。彼は出来上がった脚本を書き直させたり、起用が決まっていた俳優すらも変更させるほどだと知っていたが、自分の権限を利用して私利私欲を満たしていたのか。

「当然監督は断った。犯罪者の犬になるつもりはないとな。ツバを飛ばしたそうよ」

 監督らしい。 

「でも運が悪くて妊娠しちゃった。綾小路は中絶費用を送金してきたそうだけど。でも監督は現役モデルのまま引退して建成を出産したのよ。監督の意地ね。ヤツは当然中絶すると思ってたろうし、さぞかし意外だったみたい」

 岩田建成。愛里の兄さん。
 人気司会者の綾小路が、岩田のお父さん……。

「だから監督は、A∨だろうがドラマだろうが映画だろうが、とにかく映像世界で綾小路より遥か上の人間になってやるって。世界レベルの監督になってやるって。昔レイプした小娘に追いぬかれて負けるザマを、たっぷり味あわせてやるって言ってたわ」

 監督がレイプされた時、通報して刑事事件で処罰する方法もあっただろうに、事情があって出来なかったのかもしれないが、とにかくそれはせずに復習の魂を20年近くも膨らませていたとは、なんて執念深いんだろうか。 
 
 しかし――。

「岩田は……、岩田はこの事実を知っているのか?」

「知らないわ。建成には父親は昔死んだって言ってあるそうよ」

 そうか。そうだろうな。
 綾小路へ見せしめのつもりで自分が産まれたなんて辛すぎる。
 悲しすぎる。岩田がここにいなくて本当に良かった。

「じゃ、今回のジャッジメントに出演依頼が来たのはなんなんだ?」

 綾小路だって監督と合うのは気まずいだろうに。

「そうね。今まで綾小路は監督に接触してこなかったわ。わざと避けていたのよ。
 監督がA∨を作っているとき、一度綾小路から電話があったそうよ。『アダルト監督に落ちぶれたか、作品は得意のレイプ物か?』と鼻で笑ったそうよ」

 なんてヤツだ。

「でもね、最近監督の娘がトキメキTVでブレイクするし、監督自身もゴールデンに進出したわけでしょ。しかもどちらも好視聴率なわけ。綾小路はね、芸能界にのし上がって来た監督を厄介に感じているからだと思う。力を付けてきた監督が気に入らないのは間違いないわ」

 岩田監督を中心にした岩田ファミリー。
 大阪TJスタジオのスタッフ、月刊SM恋コイの編集部員、岩田監督のAVスタッフに俳優さんたち。
 岩田監督の一声で動く人間は大勢いる。大阪のドンと言っても過言ではない。

「だから綾小路は、監督を利用するとか……、分からないけど、きっとなにか狙いがあるに違いない」

「綾小路が監督を一人で来させるようにしたのは、まさか……」

 セナさんとミッチェルさんが俯く。肩が震えている。

「まさか、昔みたいに監督を」

「そう……それが心配……」

 僕はミッチェルさんに綾小路の控室の場所を聞き出す。

「な、なにスルデスカー?」

「ありがとう」

 そう感謝しただけ。黙って踵を返した。

「ちょ、何処行くのよ!」

「トイレ」

 レイプ犯が今になって監督の作品を宣伝する? アシストする? 
 あり得ない。
 廊下を走って階段を駆け上がる。8階の廊下で大男を見つけた。
 綾小路と記された部屋に入っていく。
 床を鳴らし激走した僕は、閉まろうとしていたドアを片手で止め、すぐさま片足をドアの堺に押し込んだ。

「何かようか……A∨男優」

 もう引いても閉まらないドア。ノブを持ったまま不満気にK―1ファイターが威圧してきた。

「もちろん」

 僕はサングラスを外し見上げる。
 元K―1ファイターが僅かに驚いて半身下がった。

「失礼しますね」

 僕は自分の怖顔に満足しながら部屋に入った。
 呆気にとられている監督と大男2人。中央のソファーにはテレビでお馴染みの綾小路が座っている。
 右側には畳部屋だ。敷かれた布団に枕が見える。仮眠できる設備と言えば、それまでだが……。
 徐々に険しくなっていく監督の表情。
 もう綾小路が何を狙っているのか、僕には見え見えだった。

「やあ、坂本氷魔くんだね。いらっしゃい」

 綾小路が50歳にしては老けている顔のシワを寄せ、にこやかに微笑んだ。

「僕はキミの巨大おちんちんに憧れているよ!」
 
「そうですか……。早速ですが、僕もこの場に立ち会わせてもらいます」 

 綾小路がニヤリとした。


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