一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)

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★愛里ワールドその6(変なのコイコイしちゃった!)

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 一日中セミ色だったお空が、他の愛里を倒すにつれ何時間か違う色を見せ始めています。今はちょうど桜色。
 愛里を倒すといっても、ドラクエ(ゲーム中)のモンスターを倒したみたいにHPをゼロにしただけ。
 そしたらボスキャラを討伐したみたいに、倒した愛里の世界のモンスターがあたしの部下になり、あたしの心に少しだけ倒した愛里の心が混ざったのです。

 考えていた事や、忘れていた記憶も。水で溶いた水彩絵の具に、別の色を何滴か落した時のように、すーっと広がって混ざり、今のお空は桜色です。
 そのお空に浮かぶ、大きな2つ目のスクリーンに映しだされている映像は、『コーラを飲みなさい。美味しいんだからね』としつこく勧めてくる綾小路さんです。
 あたしに見えないよう、こっそりコーラーのコップに白い粉を入れていたから、あれは睡眠薬かな。
 あたしを眠らせて、アクションバイオレンスするつもりでしょうけど、でもムチで叩くにしても、ロウソクを垂らすにしても、ぞぞぞぞ~って折角いい気持ちになれるのに、寝ていたらなーんにも感じないじゃない。そこらへんを分かってて薬を使用するつもり?
(もっとも起きてても、初めてのアクションバイオレンスの相手がおじさんは嫌だけどね。A∨は勇者さまとだけと決めているもの)
 それにしても50歳にもなって勉強不足にはがっかりします。 
 マークⅢちゃんが断って後ずさりしても、おじさんはニヤニヤしてまだコーラの入ったコップを飲まそうとするし。
 あーもう、バカなんじゃないかしら。
 せめて、ここはコーラじゃなく、カルピスでしょう濃い目の。

『あいりん、僕のハニー。おとなしく飲むのだよ』

「いっヤ――ッ!!!!」
 
 綾小路さんと二人っきりだから、マークⅢちゃんは必死に逃げ回っていてピンチです。 
 流石にいよいよあたしの出番かな。もう交代する人格が誰もいないからね。
 マークⅡちゃんを取り込んでるから、あたしも必殺ヘッドバットができるのです。
 試してみたいな。早く交代してっ!
 なんてワクワクしながら1ヶ月ぶりの復帰を期待していたけど、マークⅢちゃんはぜんぜん交代してくれない。
 お空に浮かぶ愛里の感情――怖、嫌、陰、悪、逃、汚など嫌なイメージを表現した風船が、どんどん膨張してゆきます。
 愛里のピンチが最大級になった証拠。
 
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ、と大きな地震がして愛里世界のお家の外壁の一部が崩れました。
 ふと、城の側まで来ていたはずの勇者さまの姿が見当たりません。
 落ちた外壁の辺り『勇者さまが潰れたぞ』とマムちゃんから報告が入り、《勇者やまがき 現実世界に帰還》とウインドウに表示されました。

「どうされましたっ。アイリさまっ!!」
「おおっ! 顔が真っ青だ」
「誰か急いで世界樹の葉をっ!」
 
 仲間モンスターが騒ぐのをそのままにして、あたしは長椅子にゆっくりと腰掛け、長いため息を吐きました。
 
 勇者さまと触れ合うことができなくなって、もう一ヶ月以上。偶然召喚魔法『コイコイ』を習得し、勇者さまコイコイ成功。
 ああ、これで……、この世界で、あたしと勇者さまの邪魔する者は誰もいないっ!
 勇者さまが研究されているでしょうおトイレ系アクションバイオレンス最新版で、たっぷり調教してもらう。
 たぶん好き同士のあたしたちが、もっとラブラブになる。
 あたしも、あたしなりにモンスターを相手に、死なない程度までA∨実験を試みたのですが、ああ、でもダメ。結局あたしは凡人だから……普通の人だから、勇者さまみたいな斬新なプレイが思いつきません。(まあでも、仲間のレベル上がって、そのぶんには良かったけど)
 そんな思惑があったのですが、勇者さまが呆気なく瓦礫の下敷きになってしまって、《勇者やまがき 現実世界に帰還》で終わりました。

 ガ――――ン!
 
 結局、あたしが魔法でアシストした勇者さまが、綾小路とその下僕たちを倒し、マークⅢちゃんを助けました。
 勇者さまは心の世界のあたしと会うより、現実世界の愛里を助けるほうを選んだのです。
 しょぼーん。
 あたしの身体が安全になったんだから、文句言っちゃダメだけどね。
 
「そんなに落ち込まないセミ。もう一度召喚すれば良いセミ?」

「あ――――っ、そうか!」

 流石はミンミンだ。早速――。
  
「コイコ――――イ!!」 

「あっ、でもまだ早いですセミ」

「そなの?」

 でももう、あたしの頭上に出来た光る黄色いリングが天井を透過しました。
 表示されるウインドウ。

 
 スライム系
 ドラゴン系
 魔獣系
 物質系
 悪魔系
 ゾンビ系
 植物系
 昆虫系
 その他

 
 その他 ← ピコッ




 司会者
 格闘家
 


 勇者の欄がないけど。

「眠ってないと召喚できないみたいセミ」

「そうか」
 
 まあ、いいや。ついでだ。



 司会者 ← ピコッ
 格闘家 ← ピコッ




《司会者・あやのこうじの召喚に成功した!》

《格闘家・いちろうの召喚に成功した!》


 
「なんか変なのコイコイしたみたい」

「そういえば、この二人は気絶してましたねセミ……」


 ◆

 ◆

 
 それから青世界のアイリ討伐の指揮をマムちゃんに任せ、あたしは目蓋型のスクリーン映像を観ていました。
 なんだか、戦う気分になれない。あんなに好きだったドラクエも、もうそれほどじゃない。
 それよかマークⅢちゃんが、どんどん勇者さまを好きになっていくのが気になる。放っとけない。
 お空も《恋》《愛》《好》と記されたピンク色の風船がどしどし出現して膨らんで、お空も桜色だから春みたい。

「始めはキモいとか怖いとか、外見だけで判断していたのに、どうこの変わり様。ちょっとムカつくな」
 
「強い男は例外なくモテますセミ」

「言ってやりたいな。やっぱり勇者さまは凄いでしょうって。いままで意地悪してきたの、ちゃんと謝ってねって」

「そうですね。でもこの子なりに勇者さまを助けようとしているみたいですセミ」

「むむむむ……。勇者さまの気を引こうとしている……」
 
 あーでもこの子も愛里か……勇者さまから見れば同じあたしなんだった。
 別のあたしが愛里でがんばる。喜んでいいのか悔しむべきなのか、なんか複雑です。

「警察署でさんざん勇者さまの潔白を力説していますが、受付の人に言っても無駄ですセミ」

 あんまり考えないで、勢いで行動しちゃうとこなんかあたしと似ている。
 この子もやっぱり、あたしなんだとしみじみ思う。

「アイリさまがこの子に近づいているように、この子も以前に比べて、アイリさまに近づいていると思いますセミ」

「そうなのか……」

 さっきの綾小路さんの控室で、一瞬だけどあたしは勇者さまと直接話せたような気がしていた。
 気のせいだと思っていたけど、あれは本当だったのかも。
 あたしの心が、意識が、あの子の中に入っている。だからこの世界にいるのに、外の世界にいるような感覚になったんだと思う。
 青の世界のアイリを倒したら、この世界を統一したら、絶対にあたしは外の世界に行ける。そう確信しました。



 ブブブブッ!! と連絡のブザーが響きました。

『こちらトンボムカデ243号。灰色世界の出現を確認! 小規模ですが、範囲を広げています』

「なにそれ!」

 送信された映像には、あたしが無造作に召喚魔法コイコイした綾小路さんとK―1選手が、あたしの世界のモンスターさんたちを倒し、仲間にして、集団でサクサク経験値を稼いでいる様子が映し出されていました。 
 広がる桜色の上空に、一箇所だけぽっかり灰色の雲が穿うがっています。

「どうやら、彼らもドラクエをやり込んでいますね。成長が早いですセミ」

「あたしの世界を侵略するつもりかな」

「逆立ちしても無理でしょうセミ」

「ここは勇者さまに助けて貰わなきゃダメかもっ!」

「え……そうですか? わざわざ勇者さまのお手をわずらわせずとも、マム殿一匹で倒せそうですけど……」

「悪を倒すのは伝説の勇者さまと決まってるんです」

「単に勇者さまを召喚したいだけでは?」

「ち、違うわよミンミン。もしマムちゃんが返り討ちにあって、仲間にされたら大変なことになるのよ」

「はあ、まあそうですけど、レベル420のマム殿が駆け出しの冒険者に倒されるとはちょっと考えられないセミ」

「あたしも勇者さまに守ってもらわないと!」

「守って貰いたいだけセミ」

「マークⅢちゃんだけズルイ!」

「本音がでちゃってるセミ」

「早く逢いたいもん」

「結局はソコですセミ」

「ぐちゃぐちゃウルサイよミンミン」

「ですが、気絶していない勇者さまをどうやって召喚するつもりですか? 意識があるうちは不可能ですが」

「そんなの簡単だもん」

 
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