一目ぼれした小3美少女が、ゲテモノ好き変態思考者だと、僕はまだ知らない

草笛あたる(乱暴)

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★愛里ワールドその10(どっちの愛里)

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「取り込まれてやっから?」

 耳を疑いました。

「分んねーのかよセミ女。アイツに愛里を乗っ取られるくらいならあたしが犠牲になるってことだ」

「犠牲になる……」

 マークⅢちゃんが言うとは思わなかった。
 おっさん愛里を阻止したいのは分かるけど、自分が消えちゃうんだよ、それでもいいの?
 青の世界が無くなっても、マネマネを使った変わり身の術までして、あたしに取り込まれないよう工夫していたのに。

「ほんとうにマークⅢちゃんなの?」

 愛里城5階の壁、天井を見渡す。この女の子の声は何処から届いているのか。

「疑り深いなセミ女。んじゃ、見てろよ」

「うん」

 あたしから10歩離れた場所に、ぽっ、と青白く光る粒子が眼の前に浮かび、その数はみるみる増えてゆき、やがて岩田愛里そっくりの物体を形成しました。
 着ている服の質感とか黒髪のキューティクルはもちろん、マークⅢちゃんの表情は見た目普通にリアルなのです。
 立体映像っていうのがあるとしたら、こういう感じなんじゃないだろか。

「どうだ、これで信じたか?」

 あたしの右腕を掴んで、にぎにぎしました。
 触れることができる。立体映像なんかじゃない。

「瞳の色がブルーなんだね」

「そういうセミ女の目も桜色じゃねーか」

「そうだね」

「「あはははは」」

 あたしたちは合わせ鏡みたいに笑いました。

「さて……」

 マークⅢちゃんが指を伸ばすと、半透明ウインドウに《たたかう》《ぼうぎょ》《にげる》のコマンド入力画面が表示されました。

「さあ、一気にやってくれセミ女!」

 両手をクイクイして「かも~ん♪」と笑います。
 つまり《たたかう》をクリックして、マークⅢちゃんのHPをゼロにするってこと。

「う……うん」

 あたしはずっと、心世界の愛里ちゃんたちのHPをゼロにしてきた。
 それは攻撃って感じじゃなくて、ゲーム感覚でした。
 罪悪感も倒した後の後悔もなく、あたしはどんどん愛里ちゃんたちを倒してゆく。
 向かってくる愛里ちゃんたちもゲーム感覚だから、倒しても泣かないし「うーん、今度は負けないからねっ!」と笑って、消えていくことに絶望する子や怖がる子はいなかった。
 まるで後から復活するみたいに思えたけど、パパが取り込んだね、と言うし、倒した愛里ちゃんの能力や癖が、あたしに付加されているし、心世界の何処かに取り込んだ愛里ちゃんが復活したという情報は入ってこないので、やっぱり愛里ちゃんを倒す事は心世界から消すということになる。
 消えるということは、無くなるってこと。死ぬのと同じようなもの。
 消えた後にどうなるのかは分からないけど、消えるのは怖い。恐ろしい。
 いま思えば、愛里ちゃんたちは消えるということの意味が分かっていないんだと思う。
 でもマークⅢちゃんは他の愛里ちゃんたちとは全然違う。
 愛里が幼稚園の年長組まで愛里だったから、あたしと同じように消える意味をしっかり怖いって感じている。
 犠牲になるってハッキリ言っているので間違いない。
 あたしはそう思う。

「早くしろ! このままじゃ、どっちもヤラれる」

「うん……分かってるけど……」 

 気が進まない。

 ドーンと激しい爆音と共に城全体が大きく揺れました。
 ドーンドーンと振動は続き、厚さ30センチ以上もある、頑丈に作ってもらった愛里城5階指令室の壁が直径15メートルほどの大穴を開けて崩壊しました。
 巻き上がる粉塵で様子が分からない中、そこにいつも見ているセミ色の複眼が光っていました。

「パパだーっ!」

 よかった。生きている。

「待て! いくなセミ女」

「パパ、パパ、戻ってきたんだねー」

 灰色に煙っているから全長は見えないけど、あの複眼はパパのもの。 
 ダッシュで駆け寄ってジャンピング抱っこを決めようとしたら、粉塵の中から大蛇のような幅5メートルほどの頭部が、にゅ~っと突き出てきました。

 ヘビなのに複眼が付いている!
 パパじゃない!  
 部屋の高さ以上もある身体周りのソイツは、頭だけ突っ込んで唸り声を上げました。
 大きいから入ってこれないのです。全長はいったいどれくらいあるのだろう。
 あたしは急停止して一番遠い壁際までバックし、マークⅢちゃんは一瞬で青の粒子と化し、一本の線に集合して消えました。
 あたしもこの指令部屋から逃げたいけど、廊下に出る扉は天井が崩壊して落ちた瓦礫で埋まっていて無理。

「でも……たぶん大丈夫。ここまでは来れないから」

 自分に言い聞かせ、それでも様子を伺いながら『廊下と繋がっている窓から逃げようかな』とカニさん歩きで窓に寄ってゆきました。
 ソイツは10以上もある毛むくじゃらの脚(まるで蜘蛛)を交互に動かせ侵入しようともがいています。
 背中に10箇所、ついになっているセミ特有の羽根を微振動させたかと思ったら、ベキベキゴリバキッと壁や天井を壊しながら無理やり指令部屋に押し入ってきました。
 ズルズルとムカデのようにうねり、家財道具は踏み潰され、カーテンやソファーが火を上げています。

 なにこのモンスター、セミ、ヘビ、ムカデ、クモの特徴を併せ持っている……。 
 
 あたしの直ぐ側まで這って来て止まりました。距離にして約5メーターです。
 天井を半壊させて見下ろす複眼の下、開かれた大口から唾液が糸を引いて垂れました。

「やっと見つけたぜぇ……あいりぃ~ん。……げっげっへへへ」

 喋った!

 直感であたしのモンスターちゃんたちを取り込んで強くなったK―1さんだと思いました。

「アア……アイリさま―っ!」

 いつもモニターを監視しモンスターへの連絡をしてくれているキノコちゃんです。
 咄嗟に避難したのでしょう、天井に張り付いていました。
 サッカーボールほどのちっこいモンスターですがけっこう強い子です。
 真っ赤な傘を毒々しい色に変え、必殺技の毒ドリル胞子を振りまきました。
 付着したドリル状の胞子が回転し、敵の身体の深部で猛毒を注入するのです。
 だけど、K―1さんのムカデみたいな硬いキャタピラ外皮に阻まれ、ドリルが機能していません。
 仕方なくキノコちゃんは壁に避難しているあたしを追って、ぴょこぴょこ身体を弾ませてきましたが、びゅるるるぅ、とK―1さんの出糸突起から噴出した蜘蛛特有の粘っこい糸でキノコちゃんは真っ白い繭にされ、がぱーっと開いた大口に引き込まれました。
 
「キ、キノコちゃん……」

 一瞬の出来事でした。
 3度咀嚼し、ゴックン。

「モンスターを取り込むと、その能力と記憶も手に入れることができる。
 このキノコは、お前のことが好きだったみたいだなー。
 すげーな、小学生のくせにロウソク垂らしとかしてたのか? それでもお前を慕っているコイツもコイツだが。しかし、国民的美少女あいりんが変態とはなー」

 よくもよくも可愛いキノコちゃんを……。

「お前のモンスターを食って分かったぜ。この世界の仕組みを。坂本氷魔が異常に強くなった理由も」

 まさか、パパを……。パパを取り込んだってことなの……?

「今度は現実世界の綾小路さんを、俺が魔法で支援だ」

「止めてっ! 勇者さまを攻撃するのはっ!」

「現実世界のあいりんと声が違うじゃねーか。それに目も桃色だ。分裂した岩田愛里のひとつだな」

 あたしの詳しい事まで知っている。

「レベル上げは高レベルモンスターを取り込むのが手っ取り早い。さて……レベル800以上の大魔王アイリを食ったら、どんだけ強くなんだろーなー。げっげっへへへ」

 ルーラ、リレミト―――!!

 効果がない。
 初歩の移動魔法なのに使えなくなっている。
 窓までダッシュしましたが、キノコちゃんのときと同じ粘っこい白糸が飛んできて、あたしの身体はぐるぐるまきまきにされました。
 ダメッ! 引き寄せる力が強くてっ! 
 



 カチッ――――。

 意識はありません。
 気がついたら、灰色の大空に漂っていました。
 雲が流れ、その下に豆粒のような建物が見え、1キロほど南方には愛里城が燃え崩れ、周囲をあたしの配下だったモンスターちゃんが飛び交っています。 
 
「目が覚めたか?」

 マークⅢちゃんも漂っていました。

「間一髪、セミ女をマネマネにすり替えた。K―1が食らいついたのはマネマネだってーの」

 助けてくれたんだ。

「ありがとう」

 どうせならキノコちゃんも助けて欲しかった。

「気にすんな……自分の為だし」

 マークⅢちゃんは照れくさそうにする。
 お礼を言われるのが苦手なんだね。 
 
 でも、よく考えたらなんかおかしい。
 さっきあたしがあのままモンスターに食べられていたら、この心世界に残る愛里の人格はマークⅢちゃんだけになる。
 わざわざあたしがマークⅢちゃんを倒さなくても、心世界は消えて、残ったマークⅢちゃんが愛里になっていたんじゃないだろうか。

「さあ、遠慮無く倒しな。セミ愛里」

「……う、うん……」

「どうした?」

「えっとねマークⅢちゃん。よかったらあたしが倒されてもいいよ」

 言った自分が不思議でした。
 どうしてそんなこと言ったのか。

「バッカじゃねーの? 倒されたら消えて無くなるんだ。天然だから分かんねーのかセミ女」

「分かるよ」

 パパやマムちゃんたちがK―1さんの強化材料になったように、あたしもマークⅢちゃんの一部になる。

「マークⅢちゃんもあたしも同じ愛里だもん。どっちが残ってもどっちが消えても同じだもん」
 
 本当に何を言っているんだろうあたし。
 マークⅢちゃんを哀れだから? 可哀想だから? 

「同じじゃねーし!」

「え?」

「どっちの愛里が残ったほうが良いか……。どっちだったら……ロリコン野郎が喜ぶか……知ってるし」

 ロリコン野郎……。

「ダイコンの親戚?」

 勇者さまのことを指していると思ったけど、知らないふりをしました。

「いや、もう、いい。セミ女と話ししてるとこっちの頭がおかしくなる」

 以前マークⅢちゃんがどっちの愛里が好きなのか、勇者さまに訊ねていたのを思い出しました。


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