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プロローグ

また逢う日まで

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テオドールの手がゆっくりと緩む。

悲しみを圧し殺し、力強く笑ってくれる父の顔に、エメラルデラが僅かに微笑んで応える。
今度こそ身体を離すと、足元に置いていた弓矢を担ぎ、使い込まれ飴色に照る革の弓筒を背に掛けた。

そうやって準備を進めるエメラルデラの元へと、荷物を咥えたヒポグリフが一匹、歩み寄ってくる。
目の前に立ち止まった勇ましい姿を見上げると、エメラルデラは困惑しながら嘴を撫でた。

「お前…本当に付いてくるつもりか、オダライア」

黒く艶やかな体躯たいくを持つヒポグリフは、当たり前だと告げるように嘶いた。

上半身がわし、下半身が馬の嵌合体かんごうたいであるヒポグリフは、時折人間に我が子を預けていくことがある。
血族を安全に、多くのこすための手段としての託し子であるが、人間にとっても利点が多い。
そのため迎え入れ、大切に育み、家族の一員として共に過ごすのだ。
このヒポグリフも同じように託され、幼いエメラルデラが懸命に卵から孵し、オダライアと名付けて育ててきた。

わば弟のような存在であるオダライアは、瑞雲が現れた時から、エメラルデラの側を離れなくなっていた。
そして、嘴に荷物を咥えては自分も旅に出るのだと、主張して止まないのだ。
意思を曲げないオダライアに、エメラルデラは溜息を漏らす。

「本当に、困った奴だよ…分かった、一緒に行こう」

エメラルデラが折れると、オダライアはようやく咥えていた荷物を手放した。
必要な物がすべて整ってしまえば、後は出立するだけだ。エメラルデラは改めて家族に向き直り、頭を僅かに下げた。
そして、再び顔を上げた瞬間、こちらを遠巻きに見ていた子供たちが駆け出してきた。

目の前に来た子供たち…竜の災禍に巻き込まれ孤児となった三人の子の内から、一番年長の少女であるエウリカが、獣の皮を縫い合わせ作った袋を、差し出してくる。

「私に…?」

エメラルデラは戸惑いながらも、自分の片手に収まるほどの袋を受け取り、そっと開いた。
途端に食用に向いている種子や、乾燥させた甘酸っぱい木の実たちが転がり出る。
生きるために積み重ねてきた貴重な備蓄が、愛情と共に零れ出たのだ。

「みんなで集めたの。食べて…ちゃんと、ちゃんと…帰ってきてね」

大切だから、生きていて欲しい。
願いを込めた言葉。エウリカの大きな瞳が揺れて、エメラルデラを映し出している。

エメラルデラの唇は戦慄わななき、閉ざされ、今溢れる感情を言い表せずにいた。
近付くことを恐れ、いつも皆から距離を取り、わざと遠ざけていたというのに。

それでも、想ってくれている―――

切なさと同時に、愛しさが溢れ出る。

「ありがとう、エウリカ…皆…大切にするから」

エメラルデラは宝物のように贈り物を胸に抱き、小さく、噛み締めるように呟くと、もう二度と帰れないかもしれない家族の元を後にしたのだった。
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