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序章
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しおりを挟むいや尚だけではない。
神崎家の跡継ぎがΩに堕ちたんだ。暫くは社交界の格好のゴシップになることだろう。
そんな屈辱を味わうくらいなら
いっそのこと今ここで命を絶ってしまおうか。
僕は部屋を見渡して何か自殺に使えそうなものがないか探す。
刃物はない。
シーツをくくって首を吊ろう。
首吊り自殺は糞尿を垂れ流して死んでしまうらしいが、そんな汚い僕の死体を見れば樂鴈寺も僕を番にしなくてよかったと思うだろう。
だが両親は悲しむだろう。
だけどΩに堕ちたことでもうすでに落胆させた。
後も継げないΩの僕なんてきっと意味がない。
今僕が死んでも、昨日高熱を出していたんだから突然の病で死んだことにできる。
家に汚点は残さないで済む。
そうと決めれば僕は両親宛に遺書を机にあった適当なメモ紙に書き、シーツを布団から剥いで天井を見上げる。
どこか吊るせる場所は‥
その時、
「萩!!!」
最初に入ってきたのは父様だった。
ああ、失敗だ。
「萩っ」
シーツを持った僕を見て母様が悲鳴をあげた。
「どうして分かったんですか?」
僕は不思議と冷静だった。
「ここは精神科の患者も入ることがあるから小型の監視カメラが設置してある。職員の方が慌ててやってきてまさかと思ったが‥」
いつもの父様ならここで僕を叱るんだろう。
だがそうしないのは、
言葉に詰まっているのは、
同じアルファとしてオメガに堕ちることがどれだけの悲劇か共感できるからなんだろう。
「とにかく命を絶つなんて悲しいことはするな。お前が死ねば私達家族は一生お前の死に苦しみ続けなければならないんだぞ。」
「‥でも神崎家に汚点を残さずに済みます。」
僕のせいで両親が笑いものにされる方がいやだ。
それに僕なんていなくなっても‥
「萩!その言葉、私の目を見てもう一度言ってごらん!
萩のその言葉を同じΩの私に。萩には私が不幸に見えるのか?」
「‥母様、申し訳ありません。」
母様が泣いている。
違う。そうじゃない。母様はなにも悪くない。
「でもこれからどうしていけばいいのか分からないんです」
人生先が真っ暗とはまさにこのことだ。
「きっと大丈夫だよ、萩。萩にはもう運命の相手が、真宗君がいる。二人でこれからどうしていくのか考えればいい。」
そう言って母様は廊下に立ったままの樂鴈寺 真宗を振り返る。
振り返った母様に樂鴈寺も微笑み頷き、
「お任せください。私が必ず萩を幸せにして「僕は運命なんていらない。」
樂鴈寺の言葉を遮って僕は言い切る。
そうだ。
彼の存在が僕の運命を狂わせた。
彼がいなければ僕はアルファとして生きていられた。
「万が一にでも僕の首筋を噛んでみろ。その時こそ舌を噛んで本当に死を選ぶ。
僕は父様と母様が望むから生きるんだ。貴方は僕に必要ない。」
そういえば舌を噛み切って死ぬのが一番楽な死に方だったな。
なんて僕は心配する両親や樂鴈寺をよそ目に思った。
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