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窮鶏獅子を噛む
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「この格好することも、お前を好きなことも、今の俺には全部当たり前で、そうなるまでの気持ち、忘れてた。それをお前に押しつけようとしてた。」
あれ?
なんだこの感じ?
「全部を変えることは出来ねー。でも、お前に嫌われんのは嫌だ。だからせめて、すぐに変えられるとこだけと思って、格好変えた。」
なんか、変だ。
嫌な予感がする。
「他も、直せるとこは直す。昨日みたいに、俺のダメなとこちゃんと言って欲しい。俺を、意識して欲しい。」
ぞわぞわ?
もぞもぞ?
「今は嫌いで構わねー。つか、嫌われることしかしてねーしな。でも、これからは違う。お前に好かれること、してくから…。」
なんか擽ったい。
なんか痒い。
「だから好きになれとは言わねー。でも、ずっと見てろ、俺を。」
うあぁ!と、鳥肌立った!
何だコレ何だコレ!?
鋭いけど怖くはない、真っ直ぐな視線に居心地が悪くなる。
よし、話を変えよう。
「あ、の…なんで、教室に、いたんですか?」
「あぁ?」
「ッ、あ、いや、その…」
話を逸らしたのが分かったのか、機嫌の悪くなったらしい獅子雄さんの眉間に皺がよる。
情けなくもそれにビビる俺。
「あ、いや、教室にいたのは、まず、変わった姿をお前に、見て欲しかったからだ。」
「……俺が休むとか、思わなかったんですか?」
素朴な疑問。
昨日あんなこと言っちゃったんだ。
普通なら学校に来づらくて、休んでもおかしくないだろう。
「お前は、休まねーだろ。」
「え?あ…はい、まぁ。」
「お前が、変に真面目だってことも、休みたくてもそう言えないくらいビビリだってことも知ってる。お前を好きになってから、俺はずっとお前を見てた。」
「なッ…」
なんて恥ずかしい奴!!
しかも話を変えたつもりが、これじゃ完璧に墓穴を掘った結果じゃないか!
「…なぁ、嫌か?」
「へっ?」
突拍子もない質問に、間抜けな返事しか出来なかった。
「俺が見てたって知って、気持ちワリィと思ったか?」
あぁ、そういう意味の質問だったのか。
そういう事なら答えは…
「嫌、じゃ、ない…?」
“嫌”と言おうとしたが、言えなかった。
男同士なんて、とは思ってるけど、そういえば嫌とか気持ち悪いとかは全く感じていない。
俺の答えに、獅子雄さんがニヤリと笑う。
「お前、俺に惚れかけてんな。」
嫌な予感が当たった。
さっきの嫌な感じの正体は…
「完全に落としてやるからな。覚悟しとけよ、アラマキリョータ。」
そう言い俺を抱き締めてきた熱に、俺は喜びを感じ小さく震えた。
あぁ、これが吊橋効果か。
斯くして、その日より獅子雄さんによる俺へのもうアタックが始まった。
それはもう熱烈で、俺が落とされるのにそう時間は掛からなかったと思う。
しかし落としてからも熱烈具合に変わりはなく、まさに恋は盲目と言ったところか、最強の不良はただの恋する男となった。
その余りの変わりように、ある者は驚き、ある者は悲しみ、ある者は笑ったが、本人は全く気にしてないらしい。
俺はというと、あれからガラリと生活が変わった。
何が変わったって、つるんでた友達以外の周りの態度だ。
軽く談笑するのにも固唾を飲み見守られ、友達がふざけて小突こうもんならもう大変。
誰が言い始めたのかは分からないが、俺は影で猛獣使いという不名誉な称号を付けられていた。
そんな俺はきっと卒業したら、「荒巻!?ヤメロヤメロ!ソイツの名前出すな!猛獣従えて襲いに来るぞ!」とか言われるのであろう。
そんな覚え方をされるのと、曖昧な覚え方をされるの、どちらの方がいいのか。
うーん、何とも言い難い。
「良太、帰ろうぜ。」
「あ、はい!」
ま、考えたところで過去が変わるわけではないし、仕様がないと諦めよう。
今は隣を歩いているのだから、それでいい。
牙の抜けた獅子の横には、今日も胸を張った鶏が寄り添っているのだった。
end
あれ?
なんだこの感じ?
「全部を変えることは出来ねー。でも、お前に嫌われんのは嫌だ。だからせめて、すぐに変えられるとこだけと思って、格好変えた。」
なんか、変だ。
嫌な予感がする。
「他も、直せるとこは直す。昨日みたいに、俺のダメなとこちゃんと言って欲しい。俺を、意識して欲しい。」
ぞわぞわ?
もぞもぞ?
「今は嫌いで構わねー。つか、嫌われることしかしてねーしな。でも、これからは違う。お前に好かれること、してくから…。」
なんか擽ったい。
なんか痒い。
「だから好きになれとは言わねー。でも、ずっと見てろ、俺を。」
うあぁ!と、鳥肌立った!
何だコレ何だコレ!?
鋭いけど怖くはない、真っ直ぐな視線に居心地が悪くなる。
よし、話を変えよう。
「あ、の…なんで、教室に、いたんですか?」
「あぁ?」
「ッ、あ、いや、その…」
話を逸らしたのが分かったのか、機嫌の悪くなったらしい獅子雄さんの眉間に皺がよる。
情けなくもそれにビビる俺。
「あ、いや、教室にいたのは、まず、変わった姿をお前に、見て欲しかったからだ。」
「……俺が休むとか、思わなかったんですか?」
素朴な疑問。
昨日あんなこと言っちゃったんだ。
普通なら学校に来づらくて、休んでもおかしくないだろう。
「お前は、休まねーだろ。」
「え?あ…はい、まぁ。」
「お前が、変に真面目だってことも、休みたくてもそう言えないくらいビビリだってことも知ってる。お前を好きになってから、俺はずっとお前を見てた。」
「なッ…」
なんて恥ずかしい奴!!
しかも話を変えたつもりが、これじゃ完璧に墓穴を掘った結果じゃないか!
「…なぁ、嫌か?」
「へっ?」
突拍子もない質問に、間抜けな返事しか出来なかった。
「俺が見てたって知って、気持ちワリィと思ったか?」
あぁ、そういう意味の質問だったのか。
そういう事なら答えは…
「嫌、じゃ、ない…?」
“嫌”と言おうとしたが、言えなかった。
男同士なんて、とは思ってるけど、そういえば嫌とか気持ち悪いとかは全く感じていない。
俺の答えに、獅子雄さんがニヤリと笑う。
「お前、俺に惚れかけてんな。」
嫌な予感が当たった。
さっきの嫌な感じの正体は…
「完全に落としてやるからな。覚悟しとけよ、アラマキリョータ。」
そう言い俺を抱き締めてきた熱に、俺は喜びを感じ小さく震えた。
あぁ、これが吊橋効果か。
斯くして、その日より獅子雄さんによる俺へのもうアタックが始まった。
それはもう熱烈で、俺が落とされるのにそう時間は掛からなかったと思う。
しかし落としてからも熱烈具合に変わりはなく、まさに恋は盲目と言ったところか、最強の不良はただの恋する男となった。
その余りの変わりように、ある者は驚き、ある者は悲しみ、ある者は笑ったが、本人は全く気にしてないらしい。
俺はというと、あれからガラリと生活が変わった。
何が変わったって、つるんでた友達以外の周りの態度だ。
軽く談笑するのにも固唾を飲み見守られ、友達がふざけて小突こうもんならもう大変。
誰が言い始めたのかは分からないが、俺は影で猛獣使いという不名誉な称号を付けられていた。
そんな俺はきっと卒業したら、「荒巻!?ヤメロヤメロ!ソイツの名前出すな!猛獣従えて襲いに来るぞ!」とか言われるのであろう。
そんな覚え方をされるのと、曖昧な覚え方をされるの、どちらの方がいいのか。
うーん、何とも言い難い。
「良太、帰ろうぜ。」
「あ、はい!」
ま、考えたところで過去が変わるわけではないし、仕様がないと諦めよう。
今は隣を歩いているのだから、それでいい。
牙の抜けた獅子の横には、今日も胸を張った鶏が寄り添っているのだった。
end
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