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2 あんた
しおりを挟む「・・・す、すいません!」
慌てて手を離して、すぐに1人で立とうとした私。13歳の時に発症した持病のせいもあってか周りにはなるべく気を使っていたはずなのに思いもよらぬとこでやらかしてしまった。
空から降ってくる雨はこれから強くなるのだろうか。夕方のこの時間帯、早く帰らないと帰り道が不安になる。
「おいっ」
(・・・・えっ)
すぐに謝って離したはずなのに、何故か腕を掴まれた。少し低めの音でかけられた声にビクッとして、怯えながら彼をまた見上げた私は、傘を持ってはいけるけどうまくさせてない状態だ。
「え・・・あの・・・な、なんで・・・しょうか」
あんなことをしたから怒らせてしまったかもしれない。そうだ。きっとそうに違いない。
また謝ったほうがいいかと思い、パクパクさせていた口を一度ギュッと結んでから再度開こうとした。
「あんた・・・」
「・・・・」
「生きてる人?」
「・・・え?」
(は?)
「・・・・・」
開いた口が塞がらないとはこういうことなのか。
袖から覗く指先は冷たいし掴まれた腕は熱いけど、突拍子もない事を言われたもんだから、頭の中はまさに『無』だった。
そして開けた口をそのままに私は間抜けヅラで彼の瞳を見ていた。別に意識的に見つめていたのではない。初対面でこんなことを言われたのは初めてで、しかもどんな反応をしていいか分からなかった私は何も喋れずじまい。
「あぁ~・・・悪い。死人かと思った。血の気通ってないから」
「・・・・」
「顔白いけど大丈夫?」
「・・・だ・・・大丈夫です」
「ならいいわ」
「・・・・」
「じゃあな」
(えっ)
まるで流れ作業のように言いたいことだけ言った彼は私の腕をパッと離して屋根があるほうに歩いて行ってしまった。
「・・・なっ」
なにあれ。
そんな彼の背中を目で追って呆然としていると、被っていたフードを取った彼は駅の構内に人の波に紛れて吸い込まれていく。
「・・・・」
その後ろ姿でちゃんと見えたのは黒色の髪だけ。
振り返ることなくそのまま去った彼は私のことなんてきっとフードを取る僅かな時間に、もう忘れてしまっているのだろう。
そんなことを思いながら、少しため息をついてから手にしていた傘をまた空に向けて私は家までの道を1人トボトボ帰って行った。
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