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第五章 私はあなただけを見つめる
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「あれはまだ私があなたくらいの頃だった……」
昔の時代は恋愛結婚じゃなくてお見合い結婚が普通で私もいつかお見合いで運命の人に出逢うんだと思っていた。
私は小さい頃から自分の名前の由来でもあるひまわりが大好きでひまわりのように誰からも憧れられるような人になりたくて必死だった。
私は全然完璧な人ではなかったから。
勉強は人と同じくらいの成績で運動は全くできなかった。
運動会のかけっこなんていつもドベで男子からバカにされていた。得意なことは何も無くて人よりも優れているところなんてひとつもなかった。
だけど、成長していくにつれ私は男子からバカにされることがなくなっていった。
どうしてかというと私は自分では気づかなかったが周りの人たちが驚くほどの美人だったからだ。
幼い頃はバカにしていた男子も成長して美人になった私には何も言えなくなったようだ。
そして結婚できる歳になって私はたくさんの人とお見合いをした。
でも、全員が私の顔やスタイルで結婚を決めるような人ばかりだった。なので私はすべてのお見合いを断っていた。
私は本当に自分を大切にしてくれて愛してくれる人と結婚したかったからでもそんな人は全く現れなかった。
私があまりにもお見合いを成立させなかったので父も母も私が結婚しないんじゃないかと心配しはじめていた。
そんなある日、おばあちゃんが私の部屋に来て言った。
「陽花子、ちょっといいかい?」
「うん……」
私は父と母の早く幸せになってほしいという思いを分かっていたのですごく申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「あんた、お見合いが嫌なんやろ?」
「そうじゃないけど……本当に好きな人がいいなって思って、でもお見合いが嫌な訳じゃないんだよ。ただ大切にしてくれる人がいいの!顔とか見た目とかで決めるんじゃなくて……」
私は慌てて否定したが本当の気持ちを誰かに話したのは初めてだった。
親にはそんなこと言えなかったがおばあちゃんには話すことができた。
「まぁ、私もお見合い結婚だったから分からんことはないがね。大切にしてくれる人がいい、見た目じゃなくて中身を見て決めてほしい、すごく分かるけどね、あんたのお父さんとお母さんには分からんとよ」
おばあちゃんは優しくそう言い私の思いを分かってくれた。
私の父と母はお見合いではなくてずっと幼なじみとして小さい頃から一緒に育っていて家同士も仲が良かったのでそのまま結婚したのだ。
二人は初恋同士で両思いだったからお見合いをする私の気持ちが分からないのだと思った。
「……おばあちゃんもお見合いが嫌だったの?」
「そうね、私も嫌だった。でもおじいちゃんと出逢ってすごく嬉しかった」
「どうやっておじいちゃんと出逢ったの?お見合いで結婚しても出逢った時はおじいちゃんの良さなんて分からないでしょ?」
「……最初、私は誰がお見合いの相手か分からないままお見合いをするお店に行ったけどね、廊下でどの部屋か分からなくなってしまって迷子になっていたら男の人が助けてくれたの。そしたら私のお見合い相手がその男の人でびっくりしてしまって好きになった。
それがあんたのおじいちゃんよ。あの出逢いは運命だと思ったんよ」
「えっ!お見合いで運命の出逢いとかそんなことあるの?」
「あるわよ、ちゃんとまっすぐその人を見ていればね」
私はお見合いなんていい出逢いなんかないと思っていたけどおばあちゃんの話を聞いて少しはお見合いも悪くないかもしれないと思った。
「陽花子、あんたはお見合いで結婚せんでもいい。恋愛で本当に好きになった人と結婚せんね。でも最後に一回だけお見合いしてほしい」
そう言っておばあちゃんは私の部屋を出ていった。
私が今までしてきたお見合いはすべて父と母が持ってきたお見合いでおばあちゃんが私にお見合いの話を持ってきたのは初めてだった。
そして私は最後におばあちゃんが持ってきてくれたお見合いをすることにした。
その人はおばあちゃんのお友達のお孫さんでおばあちゃんが言うにはとってもいい人で顔がすごく整っているらしいが私は見た目で決める気はなかった。
お見合いの当日になった。
私はとても緊張しながら相手を待っていた。
今までと違う緊張感なのはこのお見合いで最後にしようと決めているから。このお見合いで結婚しなかったら恋愛で結婚しようと思っていたから。
それと私がお見合いをするお店はおばあちゃんとおじいちゃんが出逢った昔ながらのお店だったのですごく緊張した。
私の正座をしていた足が痺れはじめてソワソワしながら待っていると襖が開き男の人が入ってきた。
「はじめまして僕の名前は東藤明彦《とうどうあきひこ》です。よろしくお願いします」
その男の人はとても整った綺麗な顔をしていて私は言葉を失った。
「……」
「……どうかされましたか?」
「あっ、いや私は陽花子と申します。こちらこそよろしくお願いします」
私は焦りながら自己紹介をした。
見た目では決めないと言っておきながら彼のことがすごく気になった。
そしてお店でご飯を食べた後、緊張している私に気づいたのか外に出かけようと声をかけてくれた。
彼のお気に入りの場所に連れて行ってくれるそうで私は彼と一緒に出かけた。
私はお見合いに母のおさがりの着物を着ていたのだが下駄が合わなかったのかもう少しで着くという所で私は歩けなくなってしまった。
だけど初めて会ったばかりの彼にここまで気を使わせてその上、歩けないなんてそんなことすごく申し訳なくて私は痛い足に歯を食いしばりながら必死に歩いた。
「もう少しだけど少し休憩しよう」
「はい……」
彼のお気に入りの場所は少し高い所にあるらしくて私たちは長い坂道を登っていた。
なので私の足はもう限界でここから歩ける気がしなかった。
「足、もしかして痛い?」
「えっ……」
彼は私の痛い足に気づいてくれたようだった。
そして彼は落ち込んだような表情をした。
「ごめんな、どうしても見せたい景色があったんだけど着物で坂道を歩かせるなんて気が利かなくて……」
「いえ、私は大丈夫ですので!」
「でも……」
私は落ち込んだ彼を必死に元気づけようとしたが彼はすごく申し訳なさそうだった。
「……私が緊張していたから元気づけようとしてくれていたんですよね?ありがとうございます。そのおかげで今は全然緊張していませんよ。
今はすごく楽しい」
私がそう言うと彼はすごくほっとしたような顔をした。
「そう言ってくれてありがとう。じゃあ、見せたい場所まで僕が運ぶよ」
「えっ!?」
「だって足痛いんでしょ?」
「そうだけど……」
「ほら、乗って!」
彼は私をおんぶして運ぼうとしてくれた。
私はおんぶされることに抵抗はあったが足の痛さに負けておんぶされることになった。
そして私を軽々と運ぶ彼を見ながらすごく男らしいと感じた。
彼の大きな背中もおんぶされながら感じる温かい体温も私はすごく安心した。
すると、私はいつの間にか寝てしまっていた。
「陽花子さん、着きましたよ」
そう声をかけられて目を覚ますとそこにはものすごく綺麗な景色が広がっていた。
高い所から町が一望できて夕日に照らされた町が輝いて見えた。
「うわぁー、すごい……!」
「ですよね、僕はここから見るこの景色が大好きなんです」
「こんなにすごい景色を見たのは初めてです!ここに来れて良かった、ありがとう!」
彼は私が目を輝かせながら喜んでいるのを見てすごく嬉しそうだった。
それから私は彼と何回か会うことになり、少しずつ彼に惹かれていった。
そしてお見合いが成立し、私は彼と結婚することになった。
だけど、結婚指輪はそのうち買うということで結婚式ではつけることがなかった。
それから一年がたっても結婚指輪は買わなくて私は彼が買うことを忘れているのではないかと思うようになった。
というか、私とはお見合いで結婚しただけだから本当は好きじゃないんじゃないかと思った。
だって私は彼から好きと言われたことがなかったから。
そして一年目の結婚記念日に私は彼と初めて一緒に行ったあの綺麗な景色の見える場所で待ち合わせることになった。
彼は仕事が終わってその場所に来るそうだが私に伝えたいことがあるらしくて私は早めに行って待っていた。
私は今日こそちゃんと好きだと伝えようと心に決めていた。
結婚しているのに今さら好きと伝えるのは違うかと思ったが考えてみたら私も彼に好きと伝えたことがないことに気づいた。
だけど、待ち合わせの時間になっても彼は来なかった。
仕事が長引いているのかと思い待ったが来なかったので家に帰ることにした。
でも、その日の夜中になっても帰って来なくて心配していると警察から電話がかかってきた。
「警察ですが、東藤さんのお宅ですか?」
「はい……」
「実は今日の夜頃に東藤明彦さんが大型トラックとの交通事故に会い、お亡くなりになりました」
「え……」
「トラックの運転手にひき逃げされたことにより怪我の処置が遅れてしまって発見された頃にはもう手遅れの状態でした」
警察から告げられたことはとても残酷な現実だった。
「そんな……!」
「明日、警察署まで来ていただけますか?荷物の確認などをしていただきたいんですが……」
「……」
「大丈夫ですか?もしあれでしたら別のご家族の方でもいいですけど」
「大丈夫です……分かりました。明日うかがいます」
私はもう何も考えられなかった。涙さえも出てこなくてどうしようもなかった。
だって、私まだ好きだって伝えてない……。
まだ一年しか一緒にいないのに、離れ離れになるのは早すぎるよ……。
それに彼が私に何を伝えようとしていたのかもう分かんないじゃん……。
何で……何で?何で!
何で私は生きてるうちに伝えなかったの?
何でずっと一緒にいたのに……。
こんなことなら見つめているだけじゃなくて伝えていれば良かった……。
私は次の日、一人で警察署に向かった。
警察から見せられたのは彼の遺体と荷物だった。
遺体は顔を見ただけですぐに彼だとわかった。そして荷物を見て私は驚いた。
彼の荷物の中には車にひかれてボロボロになったひまわりの花束と高級そうな小さな紙袋があった。
その小さな紙袋から小さな箱が出てきて箱をそっと開けると中には指輪が入っていた。
「これって……」
その指輪は結婚指輪だった。
私が驚いて言葉を失っていると警察の人が私の方へ近寄ってきた。
「……あの、これを」
そう言って渡されたのはボロボロになって何回も折りたたまれた一枚の紙だった。
「これは東藤さんがずっと握りしめていた紙です。トラックにひかれた後も亡くなる時もずっとこの紙を握りしめていました」
「……」
私は何も言わず静かに紙を開いた。
その紙に書いてあったのは彼が私に伝えようとしていた言葉だった。
きっと彼は緊張してちゃんと伝えることができるか分からなかったから紙に書いて何回も練習していたんだと分かった。
『僕は陽花子のことが好きです。大好きです。
(ここで指輪を渡す)
ごめん。結婚指輪を渡すのが遅くなって、でも普通の日に渡していいのか分からなかったから結婚記念日になるまで待ってたんだ。
僕、こういうの本当に鈍くて間違ってたらすまない。
陽花子はこんな僕のこと呆れてるよな
陽花子は僕のことを本当は好きじゃなくてお見合いだから仕方なく結婚してくれたんだと思うけど、僕は初めて会った時から陽花子に一目惚れしてたんだ。
初めて会った時の印象はものすごく綺麗な人だと思った。陽花子は美人で大人びててすごく惹かれたんだ。だから、僕も大人っぽく振る舞わなきゃと思って感情が表情に出ないように必死だった。
陽花子が僕のこと好きじゃなくてもいい、だけど僕は大好きだからこれから好きになってもらえるように頑張るよ。
陽花子と出会えて本当に良かった。
こんな僕と結婚してくれてありがとう。
これからも末永くよろしくな。』
私は読みながら涙が流れた。
「これって……」
両想いだったんだ……!
彼も私のことを好きでいてくれたんだ……。
私一人の片想いじゃなかったんだ。
でも、彼は私が好きだということを知らない。だから彼は片想いだと思いながら死んでしまったんだ……。
それを知って私は毎年ひまわり畑に通うようになった。
彼を思いながらひまわりを見ると彼が優しく光を照らしてくれる気がするから。
だから私はずっとひまわりを見つめ続ける。
それから私は彼の名前を呼ぶことはなくなった。
明彦さん……。
その名前を呼ぶともういないことを実感するから。
名前を呼ばなければずっと遠くにいるただの憧れの人と心のどこかに落とし込むことができた。
そして何年も夏の季節になるとひまわり畑に通っていたがある年にある女の子と出会った。
昔の私にとても似てて思わず声をかけてしまった。 その子の名前は陽葵ちゃんというらしくてまるでひまわりのようなとても美人の女の子だった。
私はいくら頑張ってもひまわりみたいな人にはなれなかったけど陽葵ちゃんはひまわりそのものだと感じた。
すべての憧れのような人でとても眩しかった。
でも、彼女がどうしても昔の私と重なって私は自分の話をした。
すると彼女は涙を流して泣いてくれた。
私は彼がいなくなってから心が枯れたように自分の中から感情がなくなった気がしていた。笑顔や表情はあるけれど心から笑顔にはなれなかった。
だけど彼女が私の変わりに泣いてくれて私はすごくスッキリした。
これからはちゃんと心から笑顔になれる気がして、私の中にまた感情が戻ってきたように感じた。
彼女のおかげでまた私は前を向けるのかもしれないと思った。
昔の時代は恋愛結婚じゃなくてお見合い結婚が普通で私もいつかお見合いで運命の人に出逢うんだと思っていた。
私は小さい頃から自分の名前の由来でもあるひまわりが大好きでひまわりのように誰からも憧れられるような人になりたくて必死だった。
私は全然完璧な人ではなかったから。
勉強は人と同じくらいの成績で運動は全くできなかった。
運動会のかけっこなんていつもドベで男子からバカにされていた。得意なことは何も無くて人よりも優れているところなんてひとつもなかった。
だけど、成長していくにつれ私は男子からバカにされることがなくなっていった。
どうしてかというと私は自分では気づかなかったが周りの人たちが驚くほどの美人だったからだ。
幼い頃はバカにしていた男子も成長して美人になった私には何も言えなくなったようだ。
そして結婚できる歳になって私はたくさんの人とお見合いをした。
でも、全員が私の顔やスタイルで結婚を決めるような人ばかりだった。なので私はすべてのお見合いを断っていた。
私は本当に自分を大切にしてくれて愛してくれる人と結婚したかったからでもそんな人は全く現れなかった。
私があまりにもお見合いを成立させなかったので父も母も私が結婚しないんじゃないかと心配しはじめていた。
そんなある日、おばあちゃんが私の部屋に来て言った。
「陽花子、ちょっといいかい?」
「うん……」
私は父と母の早く幸せになってほしいという思いを分かっていたのですごく申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「あんた、お見合いが嫌なんやろ?」
「そうじゃないけど……本当に好きな人がいいなって思って、でもお見合いが嫌な訳じゃないんだよ。ただ大切にしてくれる人がいいの!顔とか見た目とかで決めるんじゃなくて……」
私は慌てて否定したが本当の気持ちを誰かに話したのは初めてだった。
親にはそんなこと言えなかったがおばあちゃんには話すことができた。
「まぁ、私もお見合い結婚だったから分からんことはないがね。大切にしてくれる人がいい、見た目じゃなくて中身を見て決めてほしい、すごく分かるけどね、あんたのお父さんとお母さんには分からんとよ」
おばあちゃんは優しくそう言い私の思いを分かってくれた。
私の父と母はお見合いではなくてずっと幼なじみとして小さい頃から一緒に育っていて家同士も仲が良かったのでそのまま結婚したのだ。
二人は初恋同士で両思いだったからお見合いをする私の気持ちが分からないのだと思った。
「……おばあちゃんもお見合いが嫌だったの?」
「そうね、私も嫌だった。でもおじいちゃんと出逢ってすごく嬉しかった」
「どうやっておじいちゃんと出逢ったの?お見合いで結婚しても出逢った時はおじいちゃんの良さなんて分からないでしょ?」
「……最初、私は誰がお見合いの相手か分からないままお見合いをするお店に行ったけどね、廊下でどの部屋か分からなくなってしまって迷子になっていたら男の人が助けてくれたの。そしたら私のお見合い相手がその男の人でびっくりしてしまって好きになった。
それがあんたのおじいちゃんよ。あの出逢いは運命だと思ったんよ」
「えっ!お見合いで運命の出逢いとかそんなことあるの?」
「あるわよ、ちゃんとまっすぐその人を見ていればね」
私はお見合いなんていい出逢いなんかないと思っていたけどおばあちゃんの話を聞いて少しはお見合いも悪くないかもしれないと思った。
「陽花子、あんたはお見合いで結婚せんでもいい。恋愛で本当に好きになった人と結婚せんね。でも最後に一回だけお見合いしてほしい」
そう言っておばあちゃんは私の部屋を出ていった。
私が今までしてきたお見合いはすべて父と母が持ってきたお見合いでおばあちゃんが私にお見合いの話を持ってきたのは初めてだった。
そして私は最後におばあちゃんが持ってきてくれたお見合いをすることにした。
その人はおばあちゃんのお友達のお孫さんでおばあちゃんが言うにはとってもいい人で顔がすごく整っているらしいが私は見た目で決める気はなかった。
お見合いの当日になった。
私はとても緊張しながら相手を待っていた。
今までと違う緊張感なのはこのお見合いで最後にしようと決めているから。このお見合いで結婚しなかったら恋愛で結婚しようと思っていたから。
それと私がお見合いをするお店はおばあちゃんとおじいちゃんが出逢った昔ながらのお店だったのですごく緊張した。
私の正座をしていた足が痺れはじめてソワソワしながら待っていると襖が開き男の人が入ってきた。
「はじめまして僕の名前は東藤明彦《とうどうあきひこ》です。よろしくお願いします」
その男の人はとても整った綺麗な顔をしていて私は言葉を失った。
「……」
「……どうかされましたか?」
「あっ、いや私は陽花子と申します。こちらこそよろしくお願いします」
私は焦りながら自己紹介をした。
見た目では決めないと言っておきながら彼のことがすごく気になった。
そしてお店でご飯を食べた後、緊張している私に気づいたのか外に出かけようと声をかけてくれた。
彼のお気に入りの場所に連れて行ってくれるそうで私は彼と一緒に出かけた。
私はお見合いに母のおさがりの着物を着ていたのだが下駄が合わなかったのかもう少しで着くという所で私は歩けなくなってしまった。
だけど初めて会ったばかりの彼にここまで気を使わせてその上、歩けないなんてそんなことすごく申し訳なくて私は痛い足に歯を食いしばりながら必死に歩いた。
「もう少しだけど少し休憩しよう」
「はい……」
彼のお気に入りの場所は少し高い所にあるらしくて私たちは長い坂道を登っていた。
なので私の足はもう限界でここから歩ける気がしなかった。
「足、もしかして痛い?」
「えっ……」
彼は私の痛い足に気づいてくれたようだった。
そして彼は落ち込んだような表情をした。
「ごめんな、どうしても見せたい景色があったんだけど着物で坂道を歩かせるなんて気が利かなくて……」
「いえ、私は大丈夫ですので!」
「でも……」
私は落ち込んだ彼を必死に元気づけようとしたが彼はすごく申し訳なさそうだった。
「……私が緊張していたから元気づけようとしてくれていたんですよね?ありがとうございます。そのおかげで今は全然緊張していませんよ。
今はすごく楽しい」
私がそう言うと彼はすごくほっとしたような顔をした。
「そう言ってくれてありがとう。じゃあ、見せたい場所まで僕が運ぶよ」
「えっ!?」
「だって足痛いんでしょ?」
「そうだけど……」
「ほら、乗って!」
彼は私をおんぶして運ぼうとしてくれた。
私はおんぶされることに抵抗はあったが足の痛さに負けておんぶされることになった。
そして私を軽々と運ぶ彼を見ながらすごく男らしいと感じた。
彼の大きな背中もおんぶされながら感じる温かい体温も私はすごく安心した。
すると、私はいつの間にか寝てしまっていた。
「陽花子さん、着きましたよ」
そう声をかけられて目を覚ますとそこにはものすごく綺麗な景色が広がっていた。
高い所から町が一望できて夕日に照らされた町が輝いて見えた。
「うわぁー、すごい……!」
「ですよね、僕はここから見るこの景色が大好きなんです」
「こんなにすごい景色を見たのは初めてです!ここに来れて良かった、ありがとう!」
彼は私が目を輝かせながら喜んでいるのを見てすごく嬉しそうだった。
それから私は彼と何回か会うことになり、少しずつ彼に惹かれていった。
そしてお見合いが成立し、私は彼と結婚することになった。
だけど、結婚指輪はそのうち買うということで結婚式ではつけることがなかった。
それから一年がたっても結婚指輪は買わなくて私は彼が買うことを忘れているのではないかと思うようになった。
というか、私とはお見合いで結婚しただけだから本当は好きじゃないんじゃないかと思った。
だって私は彼から好きと言われたことがなかったから。
そして一年目の結婚記念日に私は彼と初めて一緒に行ったあの綺麗な景色の見える場所で待ち合わせることになった。
彼は仕事が終わってその場所に来るそうだが私に伝えたいことがあるらしくて私は早めに行って待っていた。
私は今日こそちゃんと好きだと伝えようと心に決めていた。
結婚しているのに今さら好きと伝えるのは違うかと思ったが考えてみたら私も彼に好きと伝えたことがないことに気づいた。
だけど、待ち合わせの時間になっても彼は来なかった。
仕事が長引いているのかと思い待ったが来なかったので家に帰ることにした。
でも、その日の夜中になっても帰って来なくて心配していると警察から電話がかかってきた。
「警察ですが、東藤さんのお宅ですか?」
「はい……」
「実は今日の夜頃に東藤明彦さんが大型トラックとの交通事故に会い、お亡くなりになりました」
「え……」
「トラックの運転手にひき逃げされたことにより怪我の処置が遅れてしまって発見された頃にはもう手遅れの状態でした」
警察から告げられたことはとても残酷な現実だった。
「そんな……!」
「明日、警察署まで来ていただけますか?荷物の確認などをしていただきたいんですが……」
「……」
「大丈夫ですか?もしあれでしたら別のご家族の方でもいいですけど」
「大丈夫です……分かりました。明日うかがいます」
私はもう何も考えられなかった。涙さえも出てこなくてどうしようもなかった。
だって、私まだ好きだって伝えてない……。
まだ一年しか一緒にいないのに、離れ離れになるのは早すぎるよ……。
それに彼が私に何を伝えようとしていたのかもう分かんないじゃん……。
何で……何で?何で!
何で私は生きてるうちに伝えなかったの?
何でずっと一緒にいたのに……。
こんなことなら見つめているだけじゃなくて伝えていれば良かった……。
私は次の日、一人で警察署に向かった。
警察から見せられたのは彼の遺体と荷物だった。
遺体は顔を見ただけですぐに彼だとわかった。そして荷物を見て私は驚いた。
彼の荷物の中には車にひかれてボロボロになったひまわりの花束と高級そうな小さな紙袋があった。
その小さな紙袋から小さな箱が出てきて箱をそっと開けると中には指輪が入っていた。
「これって……」
その指輪は結婚指輪だった。
私が驚いて言葉を失っていると警察の人が私の方へ近寄ってきた。
「……あの、これを」
そう言って渡されたのはボロボロになって何回も折りたたまれた一枚の紙だった。
「これは東藤さんがずっと握りしめていた紙です。トラックにひかれた後も亡くなる時もずっとこの紙を握りしめていました」
「……」
私は何も言わず静かに紙を開いた。
その紙に書いてあったのは彼が私に伝えようとしていた言葉だった。
きっと彼は緊張してちゃんと伝えることができるか分からなかったから紙に書いて何回も練習していたんだと分かった。
『僕は陽花子のことが好きです。大好きです。
(ここで指輪を渡す)
ごめん。結婚指輪を渡すのが遅くなって、でも普通の日に渡していいのか分からなかったから結婚記念日になるまで待ってたんだ。
僕、こういうの本当に鈍くて間違ってたらすまない。
陽花子はこんな僕のこと呆れてるよな
陽花子は僕のことを本当は好きじゃなくてお見合いだから仕方なく結婚してくれたんだと思うけど、僕は初めて会った時から陽花子に一目惚れしてたんだ。
初めて会った時の印象はものすごく綺麗な人だと思った。陽花子は美人で大人びててすごく惹かれたんだ。だから、僕も大人っぽく振る舞わなきゃと思って感情が表情に出ないように必死だった。
陽花子が僕のこと好きじゃなくてもいい、だけど僕は大好きだからこれから好きになってもらえるように頑張るよ。
陽花子と出会えて本当に良かった。
こんな僕と結婚してくれてありがとう。
これからも末永くよろしくな。』
私は読みながら涙が流れた。
「これって……」
両想いだったんだ……!
彼も私のことを好きでいてくれたんだ……。
私一人の片想いじゃなかったんだ。
でも、彼は私が好きだということを知らない。だから彼は片想いだと思いながら死んでしまったんだ……。
それを知って私は毎年ひまわり畑に通うようになった。
彼を思いながらひまわりを見ると彼が優しく光を照らしてくれる気がするから。
だから私はずっとひまわりを見つめ続ける。
それから私は彼の名前を呼ぶことはなくなった。
明彦さん……。
その名前を呼ぶともういないことを実感するから。
名前を呼ばなければずっと遠くにいるただの憧れの人と心のどこかに落とし込むことができた。
そして何年も夏の季節になるとひまわり畑に通っていたがある年にある女の子と出会った。
昔の私にとても似てて思わず声をかけてしまった。 その子の名前は陽葵ちゃんというらしくてまるでひまわりのようなとても美人の女の子だった。
私はいくら頑張ってもひまわりみたいな人にはなれなかったけど陽葵ちゃんはひまわりそのものだと感じた。
すべての憧れのような人でとても眩しかった。
でも、彼女がどうしても昔の私と重なって私は自分の話をした。
すると彼女は涙を流して泣いてくれた。
私は彼がいなくなってから心が枯れたように自分の中から感情がなくなった気がしていた。笑顔や表情はあるけれど心から笑顔にはなれなかった。
だけど彼女が私の変わりに泣いてくれて私はすごくスッキリした。
これからはちゃんと心から笑顔になれる気がして、私の中にまた感情が戻ってきたように感じた。
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