アイドルになった僕は五感を失った彼女の光になる

第四章 託される希望

   太陽が電話をしにどこかに行った。

   太陽に彼女はいないみたいだけど好きな子とかからなのかな……とそんなことを考えていた。
   だって、私の前で電話に出れないような相手なんじゃないのかそう思った。

   でも、ひまわりを見ているとそういう不安な気持ちが少しおさまる気がした。
   それにしてもひまわりは綺麗だなと思いながら近くにあるベンチに座った。


「あなたもひまわりが好きなの？」
   一人のおばあちゃんに声をかけられた。
   そのおばあちゃんはお年寄りで髪は白髪だった。
   でも、歳をとっても整った顔をしていて綺麗な着物を着ていたのですごく上品なおばあちゃんに見えた。

「はい。ひまわりを見ていると元気が出るんです」
「そうね、ひまわりには人を元気にする力があるからね」
そのおばあちゃんはとても優しい声でそう言った。

「あなたお名前は？」
「陽葵です。大日野陽葵、実はひまわりが名前の由来なんです」
   おばあちゃんに名前を聞かれてそう答えるとおばあちゃんは驚いたような顔をしながら笑顔で微笑んだ。

「陽葵、いい名前ねー。ひまわりが名前の由来なんて私と同じね」
「そうなんですか？」
「私の名前はね、陽花子《ひかこ》というの。昔にしては少し珍しい名前よね」
「陽花子さんですか、綺麗な名前ですね」
「ありがとう」

   そのおばあちゃんの名前は陽花子さんというそうで同じひまわりが名前の由来ということもあってすごく親近感がわいた。
   それにこんなにも美人な人と同じだなんて嬉しいと思った。
   私はこんな奇跡のようなことがあるんだと思いながらもう一度ひまわりを眺めた。


「あなた、私の若い頃に似ているわね」

「え……！そうですかね？」
   突然そんなことを言われて私はすごく驚いた。 

「えぇ、すごく似てるわ。あなた好きな人がいるでしょ？でも、見つめているだけではいつかきっと後悔するわよ」
「え……」
   おばあちゃんは優しい声でそう言った。
   でも、その声はとても悲しそうな声でもあった。

「ひまわりの花言葉のように……私はあなただけを見つめる。でもね見つめているだけでは後悔するの、私も昔そんなことがあったわ。あなたは私に似てるからそんな思いはして欲しくないの」
   おばあちゃんは悲しい表情でひまわりを見つめていた。

「あの、その話聞かせてもらってもいいですか？」

「……そうね、あれはまだ私があなたくらいの頃だった」
   私がそう言うとおばあちゃんは少し考えたようにしながら話してくれた。


   私はおばあちゃんの話を聞きながら涙が止まらなかった。
   そして話し終わるとおばあちゃんは私の背中を優しく撫でてくれた。

「ありがとう、私の代わりに泣いてくれて……」

「そんなことがあっても前向きに生きていてすごいですね……」
「だからこそ私は今もあの人だけを見つめているの。あなたも私のように後悔しちゃダメよ」
「はい……ありがとうございます」

   私はおばあちゃんにすごく勇気をもらった。
   見つめているだけでは後悔する。
   だから私は太陽に好きと伝えようそう決めた。

   私は泣いて赤く腫れてしまった目を必死に元に戻した。

   すると太陽が戻ってきた。
「陽葵、陽葵に話したいことがあるんだ」
「私も太陽に言いたいことがある」

   太陽が私に何を話そうとしているのかは知らないけど、太陽がもし彼女ができたとかそんなことを話そうとしているのなら私が先に言わなくちゃ。

   もう、後悔はしない！

「太陽、好きです」

   もう、何も考えない。
   友達のことも、太陽のことも、もう誰かに気を使って自分の気持ちに蓋をしちゃダメだと思ったら考えるよりも先に言葉が出た。

   太陽は驚いたような顔をしていたが、今の私たちの世界には暑い夏の季節とひまわりと青空だけの二人しかいない空間が広がっていた。