アイドルになった僕は五感を失った彼女の光になる

春空 桃花

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第十五章 感じない気持ち

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   俺はびっくりして手を離した。


   周りにはたくさんの人がいたがみんなが俺たちに注目していた。

   碧はびっくりしたように俺に気づくと顔を真っ青にしていた。

「太陽!? 何してるのよ!」

   碧が必死に陽葵を落ち着かせていた。

   陽葵……?

「陽葵!どうしたんだよ!」

   俺が陽葵に触れようとした瞬間に碧が怒った。

「陽葵に触らないで!」

「碧、お前まで何言って……!」

   まるで俺が他人の変出者のようだった。


「あー、もう!ここではゆっくり話せないから着いてきて!」

   碧はそう言うと陽葵の肩を二回叩き、手を繋いで歩きはじめた。

   俺はその後を着いていき、マンションに着いた。
「ここは?」
「陽葵の家よ」

   そう言って部屋に入ると陽葵の両親がいた。
「太陽くん!」

「お久しぶりです……」

「元気にしてた?ずいぶんと有名になってさすがね」

「ありがとうございます。……あの、それより陽葵はどうしたんですか?」

   すると陽葵をゆっくり椅子に座らせた碧が僕の方を向いた。


「陽葵は目も見えていないし、耳も聞こえていない……」

「はっ……?」

   陽葵の目が見えない?
   耳が聞こえない?

「大学生の時に交通事故にあって、頭を強くうった後遺症よ」

「事故?後遺症?俺、何も聞いてないんだけど?」

   俺は陽葵の彼氏で幼なじみで親友で……陽葵のことは何でも知ってるって思っていたし、陽葵が俺に隠し事なんてしないってずっと信じてた。

「陽葵が言わないでって言ったの」


「何でだよ!」

「陽葵の想いも少しは分かりなさいよ!」

「想ってるんだったら教えろよ!彼氏だろうが!今まで俺がどれだけ心配してたか……!」

   バチン!!!

   俺が怒ると碧が俺の顔にビンタした。
「……」


「……陽葵のこと何も知らないくせに」


「はっ?お前、何して……!」

「陽葵が悪くなったのは目と耳だけじゃないの!」

   それを言っている碧の目は涙で溢れていた。

「今の陽葵は、目と耳とそれに匂いも味も感じない。今、分かるのは触られた感触だけ……」

   俺は碧が言っている意味が分からなかった。

   視覚と聴覚と嗅覚と味覚がない……。
   あるのは触覚だけ。

「でも、陽葵の触覚もどんどん無くなってきてる……」

「……」

「もう、わかったでしょ?陽葵には五感がないの!」


   五感がない……。

俺の頭の中は真っ白になって何も考えられなかった。

ただ、教えて欲しかった。それだけを強く感じた。

俺には何もできないことは分かってる。
でも、知っていたなら何かできたかもしれない。
できなくてもそばにいることはできたのに……!

アイドルをやめてでも陽葵のそばにいたいと思うのに。

「事故にあった時、陽葵は太陽のライブを見に東京に行ってたの」

「え……」

「そして道路に飛び出した子供を守ろうとして引かれたの。子供は無事だったんだけどね」


   俺のライブを見に来ようとして事故にあった……?

   ライブを見にさえ来なければ陽葵をこんなことにならなかったかもしれない。

   というか、俺がアイドルにさえならなければ……。

   俺のせいで陽葵は……!


「太陽、陽葵が言わなかった理由が分かるでしょ?
太陽が自分のせいだって思わないように陽葵は黙って姿を消したんだよ」


   陽葵は俺のために……。

   本当に俺は陽葵に守られてばかりだ。

「ごめん!……俺、何も分かってなかった」

   俺が謝ると碧は静かに頷いた。

「私に謝るんじゃなくて陽葵に話しかけてあげなよ」

「でも、陽葵はもう聞こえないんじゃ……」


「太陽、こっちに来て」

   碧がそう言い、俺は陽葵に近づいた。

「手書き文字なら伝わるよ。陽葵の手のひらに名前を書いてあげて」

   碧に言われ、俺は指で陽葵の手のひらに名前を書いた。


『ぼ く は き だ か た い よ う』


   そう書くと陽葵は少し驚いた顔をしたが静かに微笑んだ。


「……太陽?」


   久しぶりの陽葵の声に俺は涙が出てきた。

「太陽、そっか太陽だ!久しぶりだね!」


   あ~、陽葵だ……!


「陽葵?陽葵わかる?」

「太陽、手に書かないと伝わらないって」

   碧が泣いてる俺に困り顔でそう言った。

「あっ、そっか」


『ひ さ し ぶ り』


「うん!太陽も元気にしてた?太陽が有名になって、みんなが太陽のことを好きになってくれてるって思うとすごく嬉しかったよ」


『あ り が と う』


「うん!」

   陽葵は笑顔で頷いた。
   俺は昔と変わらない笑顔の陽葵が改めて好きだと感じた。

   もう、こんなことをしないと話せないけど陽葵と話せてる自分がすごく嬉しかった。



   俺は自分の方が陽葵より先を進みたくて頑張って来たのに気がついたら彼女の方が離れていって立ち止まっていた。

   アイドルになって普通の人たちやファンには手の届かない存在になったのに、それと同時に陽葵からも手の届かない存在になってしまった。

だけど、陽葵が俺に届かないんじゃなくて……、
誰も陽葵に届かなくなってしまったんだ。

手が届かない存在なのも、離れていってしまったのも
俺じゃなくて、全部陽葵だった。
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