佚語を生きる! -いつがたりをいきる-  竜の一族 中巻 偽りの残滓編 

Shigeru_Kimoto

文字の大きさ
23 / 56

参場 五

しおりを挟む
 霞の具合が悪そうなので一旦、庭の岩の上に霞を置いて吉右衛門は残りの仕事にとりかかっていた。吉右衛門は会敵した敵を絶対に生かしては置かない。理由は再戦だ。二度目の敵は学習してくる。それを防ぐ意味で決して生存者を残さないのを自分に言い聞かせている。それが例え戦う事が出来ない者たちであろうとも。それを防ぐための黒ずくめだったのだが……

今夜は戦闘にならなければ殺生などは、するつもりなど無かったのだが、意図せず戦端は開かれてしまった。こうなってしまっては館中の者の未来を奪うしかなかった。気が重い仕事であって、出来れば避けたい事態でもある。弁慶には霞の世話をお願いした。いくら弁慶でもこれだけの大人数を殺めさせるわけにはいかないと吉右衛門は考えての事である。

悪鬼だ。吉右衛門は悪鬼になる。身動きの取れないものを斬っていく。心の善良な部分を残していてはとても出来ない悪鬼の所業。だから、決して忘れない。自分の手で殺した者たちの事を。

………………

一番奥の部屋までたどり着いた吉右衛門の身体は、返り血を浴びて頭から足先まで血まみれで、とても常人には直視など出来るものではない。

奥の襖に手を掛けて最後の部屋に入った時に、霞が慌てて追いかけてきた。

「ちょっ……。この部……にいる……」

吉右衛門は誰かに何か話かけられた様な気がした。後ろを振り返ると霞と弁慶が立って必死に吉右衛門を止めようとしている。霞は太刀を持つ右腕に弁慶は背後から羽交い絞めにしていた。

「お……おぅ。どうした? 二人とも血相変えて」

二人が吉右衛門を制止して、しばらくすると、吉右衛門の視線がようやく焦点があって、会話も繋がり始めた。

「どうしたではないぞ! お主こそどうした? 焦点が定まらない視線で。もう大丈夫か?」

「あぁ。大丈夫だ。」

「ならいい。この部屋の者は殺してはダメだ」

「なぜだ? 弁慶」

「そうとも。この俺を殺すことは出来ないぞ! 下がれ下郎ども!!」

部屋の奥から男の声が聞こえてくる。行燈の火が落ちていて、よく見えないが何人か部屋の中にいるようだ。

「話せるようにしてあげたわ」

霞が付け加える。

「灯りをつけろ!」

吉右衛門が霞に指示した。

……行燈の灯りに照らされた部屋の中央に四人。全員が布団の上にいて霞の術中にあり、話が出来るのは中央の男だけだ。

声の男が中央に、男の右腕に一人女が。男の首に手を回している。左手の方にも一人。男を背にして、男の左手が女の乳房を掴んでいる。そして、男の上に騎乗する女が一人。全員が全裸だ。

「我が源九郎義経である! 源氏の棟梁を継ぐ者と知っての狼藉か? 場合によっては一族郎党皆殺しの憂き目に合うことと心得よ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...