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藤次郎-10
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「佳宵《かしょう》様、まずは千束屋に向かいます」
馬が街を目指し疾走している。鞍の前に座らせた佳宵に藤次郎はそう言った。
「何故ですか?」
「千束屋には神官がいます。連中に佳宵様の解呪の方法を聞き出します。時間が無いので、すこし荒っぽくなりますが、ご容赦願います」
藤次郎が巡回に出て既に一時間が過ぎていた。佳宵とのやり取りと、そして、今。併せて二時間。巡回の戻りの期限が三時間。残り一時間の中で神官から解呪の方法を聞き出し、なるべく遠くまで逃げなければならない。
街道筋の街並みは賑やかで、いまだに人の往来が途切れることは無い。千束屋の正面から入っても良いことはなさそうなので裏手から離れを目指した。裏手から入ると母屋の裏口から渡り廊下が連なりその先に離れと思わしき建屋があった。
「あそこですね。行きましょう」
離れの玄関を入ると行燈に照らされた上がり框《かまち》があってその上には女物の着物が投げ捨てられていた。部屋は四部屋あり廊下の左右に二部屋ずつ並んでいる。玄関まで盛大にあちこちの部屋から女の喘ぎ声が聞こえていた。
神官は一番奥の大きな部屋だろうと当たりをつけ、二人は一番奥の部屋の障子を音も無く開けると、神官が女の脚を両肩に担いで覆いかぶさっていた。
先に女がこちらに気付き神官の背中をぺたぺた叩いていたのだが、夢中の神官には分からなかったようだ。神官の脇に座り目線を合わせるようにして、
「おい。お楽しみ中に悪いが聞きたいことがある。
正直に話せば悪いようにはしない。女。声を上げるなよ」
と言って刀を見せた。
この世の終わりの様な顔をして藤次郎と目を合わせている。
藤次郎と佳宵は頭巾をかぶっているので神官からは誰かはわからないはずだ。
「神官、昼間の娘の呪詛の解呪はどうすればいい?」
「何を言っているのだ。そんなものは知るはずがないだろう」
佳宵は首を振る。答えは知っていると言う事だ。
「お前、ふざけるな」
刀を顔の前にだして脅しを入れる。
「ま、待て、あの呪詛は京で手に入れた香薬を使って祈祷したものだ。我々も初めて扱うもので、正直どうやって失敗した後に金をせびるかばかり考えていたのだが、まさか本当に効くとは……」
佳宵が頷く。本当の事を言っているようだ。
「解呪だ。解呪の方法は」
「悪いがそれは知らない。そもそも、どうやって作ったかさえわからないし使っていたこっちが信じていなかったのだから当たり前だろう!」
神官が声を荒げる。
「おい、静かにしろ。そのご立派な物をちょん切るぞ。嫌なら、おとなしくしろ」
周りの様子を伺ってみたが隣の部屋も向かいの部屋からも相変わらず女の喘ぎ声だけが聞こえてくる。こちらの様子には気付いていないようだ。
「その香薬は何処で手に入れた?」
「京の香具屋だ。竜の一族に伝わる秘薬とか言っていたが、それ以上は何処を斬られても話すことは無いぞ」
佳宵が頷く。既にあれから三十分が過ぎている。潮時か?
ふと気づくと二つの部屋で盛大に喘いでいた女の声が静かになっていた。
『まずい。佳宵様こちらに来てください。その障子を開けて庭から逃げます。静かに』
佳宵が頷く。
「おい! 二人ともお楽しみのところ悪かったな。二十から零まで数えろ。それまで目をつぶっていろ。途中でやめたら戻ってきて殺す」
「二十、十九、、、、、」
二人は障子を開けると静かに外に出た。
まだ、部屋の中から声が聞こえている。
「五……」
『佳宵様、追手です』
「ちょっと待って……離れに神官たち以外三人います。今までいた部屋です」
『え? 佳宵様、そんな事が判るのですか?凄い……』
「そうでしょう。こっちから逃げましょう。人影は無いです」
馬が街を目指し疾走している。鞍の前に座らせた佳宵に藤次郎はそう言った。
「何故ですか?」
「千束屋には神官がいます。連中に佳宵様の解呪の方法を聞き出します。時間が無いので、すこし荒っぽくなりますが、ご容赦願います」
藤次郎が巡回に出て既に一時間が過ぎていた。佳宵とのやり取りと、そして、今。併せて二時間。巡回の戻りの期限が三時間。残り一時間の中で神官から解呪の方法を聞き出し、なるべく遠くまで逃げなければならない。
街道筋の街並みは賑やかで、いまだに人の往来が途切れることは無い。千束屋の正面から入っても良いことはなさそうなので裏手から離れを目指した。裏手から入ると母屋の裏口から渡り廊下が連なりその先に離れと思わしき建屋があった。
「あそこですね。行きましょう」
離れの玄関を入ると行燈に照らされた上がり框《かまち》があってその上には女物の着物が投げ捨てられていた。部屋は四部屋あり廊下の左右に二部屋ずつ並んでいる。玄関まで盛大にあちこちの部屋から女の喘ぎ声が聞こえていた。
神官は一番奥の大きな部屋だろうと当たりをつけ、二人は一番奥の部屋の障子を音も無く開けると、神官が女の脚を両肩に担いで覆いかぶさっていた。
先に女がこちらに気付き神官の背中をぺたぺた叩いていたのだが、夢中の神官には分からなかったようだ。神官の脇に座り目線を合わせるようにして、
「おい。お楽しみ中に悪いが聞きたいことがある。
正直に話せば悪いようにはしない。女。声を上げるなよ」
と言って刀を見せた。
この世の終わりの様な顔をして藤次郎と目を合わせている。
藤次郎と佳宵は頭巾をかぶっているので神官からは誰かはわからないはずだ。
「神官、昼間の娘の呪詛の解呪はどうすればいい?」
「何を言っているのだ。そんなものは知るはずがないだろう」
佳宵は首を振る。答えは知っていると言う事だ。
「お前、ふざけるな」
刀を顔の前にだして脅しを入れる。
「ま、待て、あの呪詛は京で手に入れた香薬を使って祈祷したものだ。我々も初めて扱うもので、正直どうやって失敗した後に金をせびるかばかり考えていたのだが、まさか本当に効くとは……」
佳宵が頷く。本当の事を言っているようだ。
「解呪だ。解呪の方法は」
「悪いがそれは知らない。そもそも、どうやって作ったかさえわからないし使っていたこっちが信じていなかったのだから当たり前だろう!」
神官が声を荒げる。
「おい、静かにしろ。そのご立派な物をちょん切るぞ。嫌なら、おとなしくしろ」
周りの様子を伺ってみたが隣の部屋も向かいの部屋からも相変わらず女の喘ぎ声だけが聞こえてくる。こちらの様子には気付いていないようだ。
「その香薬は何処で手に入れた?」
「京の香具屋だ。竜の一族に伝わる秘薬とか言っていたが、それ以上は何処を斬られても話すことは無いぞ」
佳宵が頷く。既にあれから三十分が過ぎている。潮時か?
ふと気づくと二つの部屋で盛大に喘いでいた女の声が静かになっていた。
『まずい。佳宵様こちらに来てください。その障子を開けて庭から逃げます。静かに』
佳宵が頷く。
「おい! 二人ともお楽しみのところ悪かったな。二十から零まで数えろ。それまで目をつぶっていろ。途中でやめたら戻ってきて殺す」
「二十、十九、、、、、」
二人は障子を開けると静かに外に出た。
まだ、部屋の中から声が聞こえている。
「五……」
『佳宵様、追手です』
「ちょっと待って……離れに神官たち以外三人います。今までいた部屋です」
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「そうでしょう。こっちから逃げましょう。人影は無いです」
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