佚語を生きる! -いつがたりをいきる-  竜の一族 上巻 降天の巫女編

Shigeru_Kimoto

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伍場 四

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「あぁ。寝ちまったのか」

屋敷に戻った吉右衛門は寝ている靜華を見つけ安堵した。それから、掛布団を奥から持ってきてかけてあげていたのだ。見慣れた寝顔だが目の前の靜華は涙の痕が頬にあった。

「そんなに、いやか……」

涙の訳はおそらく屋敷を出ていく前の事だろうと考えて指で頬をなでていた。

「あんた。誰がさわってええ言うた?」

スッと通る声を発し遅れて目を開いた靜華が、大きな瞳を鋭く光らせ吉右衛門を見ている。しかし、語気に鋭さは感じられない。これは、靜華が良くやる嬉しい時の反応だ。

「なんだ、起きてたのか」

「そやな。掛布団をかけてウチの事をいやらしく見てはったあたりからや」

「そいえば、竜が来なかった?」

吉右衛門は屋敷に急ぎ戻った一番の懸案を訪ねた。

「藪から棒やなぁ~。来はったで。おおきになぁ、言わはりよった」

「お前の言い方聞いてると、今一つ切迫した感じが伝わらねぇな。京ことばのせいなのか?」

「はんなりやろ。ウチは西の方から転々としてきたからな。言葉は京ことばだけじゃなくていろいろ混じってん」

「そうなんだ。で、竜はそれだけか?」

「……そうやな。それだけやった」

靜華の顔が一瞬だけ曇った様に感じたが、それも気のせいと思えるくらいあふれる笑顔を返してきた。

「さっきの事、かんにんな。よく考えたら、あれウチに良い暮らしさせたかったからやろ。そこを汲めんと怒ってしもたな。でもな、危ないん仕事はあんたにさせとうないんや。それはわかりはるよな?」

「ああ、十分伝わっているよ」

起き上がった靜華が手を取って珍しく吉右衛門に不安げな表情を見せていた。靜華は暮らしぶりについては満足していた。どちらかと言えば自分を理由に吉右衛門が無理をしそうで怖いのだ。どうも、その辺りが伝わり切れていないと思う靜華である。
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