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第二合

第17話

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 茶碗にごはんをよそい、納豆を用意して、俺はぴりかと並んで着席する。
 それから指をくわえて眺めているぴりかの横で食べる準備に入る。
 フィルムをそっと外して醤油をちょっとだけかけて箸でかき混ぜる。


「むほー、すごい匂いじゃなっ」
「これぞ納豆よ」
「ひかりの足の裏みたいな匂いじゃ」
「おい人聞きの悪いことを言うなっ。てかいつ臭いを嗅いだ?」
「儂もやる」
「いいけど……落とすなよ。ネバネバしてるからさ」


 絶対に断っても意味がないと思ったので仕方なく彼女にもやらせてみる。
 それで高校生と子供が一緒に納豆をまぜるという謎の光景が誕生した。
 回転が謎のシンクロをする。


「どれくらい混ぜれば食べれるんじゃこれ」
「正確には混ぜなくても食べれるけど一説には混ぜれば混ぜれるほど美味しくなると言われてる」
「ならいっぱいやるぞー」
「いやもうこれでいいから。ごはん冷めちゃうし」


 俺がいい塩梅になった納豆をごはんにかけてるぴりかも真似る。
 そして同時に天下の納豆ご飯が誕生した。


「それじゃ、いただきます」


 普段なら決して言わないが教育の一環としてしっかりやっておく。
 ぴりかも遅れて言う。
 食べるタイミングも彼女は俺に合わせた。互いに横目で見ながら口に運ぶ。
 日本の妖怪なだけあってやはり橋の扱いは大したものだ。


「美味しいか?」


 反応を伺うとぴりかの顔がぱっと輝いた。


「実にけしからん!」
「だからなんだその褒め方は」
「豆がふっくらやわらかくて噛み応えが楽しいのう。ネバネバと塩分がごはんよく合う。んまー」
「納豆くらいで大袈裟なやつだ」


 そう言ったが俺も同じように感じていた。
 普段は納豆だけでシンプルに食べることはない。だがこうしてシンプルな食べ方をすると素材の足がダイレクトに舌の上に広がってはっきりと良さが分かる。


「美味しいの、ひかり」
「そうだな、なんか今日のは格別に美味しい」


 笑いあう俺たちは納豆ごはんをかき込み咀嚼する。
 妙に新鮮な朝食だった。ひとりじゃないなんていつぶりだろう。
 とても不思議な朝だった。
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