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本編
2 彼女の魔力が気持ちよすぎる1【side ルー】
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「・・・なにやってんの? 偉い人のくせに。」
あまりのばかさかげんにあきれてものが言えない、というのが大神官の話を聞いた率直な感想だった。
僕は、ルー・レイスティア。職業は魔術師。
裕福な貴族の三男として生まれた僕は、幼いころから膨大な魔力を持っていることがわかり、王宮に引き取られた。誰よりも強い魔術師として成長した僕は、2年前に即位したばかりの王直属の魔術師として働くようになった。
やっていることは、日々の研究と、あとは王の身を守ること。
それ以外は比較的自由に動ける今の生活は、結構気に入っている。
閑話休題。
3日前に、日頃王とは良好な関係とは言えない神殿のトップである大神官が僕のところに相談にきた。神に仕えると言いながら、贅沢三昧で政治にも口を出す男。できることなら関わりたくない人種だ。
王と近い立場にいる僕に相談なんてうさんくさいと思ったけど、とりあえず話は聞くことにした。あちらのテリトリー(神殿)に行くのも嫌だし、かといって自分の屋敷に来られるのも迷惑なので、王宮内の、仕事場兼私室として使っている部屋に訪ねてくるよう伝える。
大神官は夕方近くになってやってきた。
いつもの偉そうな態度はなく、奇妙なくらいおどおどしている。始終目がきょろきょろして落ち着きがない。人目を気にしているようだ。
「で。わざわざ僕に相談ってなにさ。」
薄暗い室内で、古めかした本と薬臭い標本に囲まれた机にあるランプだけがあたりを照らす。僕がつまらなそうに尋ねると、大神官は小声で「訳あって、眠ったまま目が覚めない自分の娘、アナスタシアを助けてほしい。」と言った。
僕はそっけなく返した。
「眠ったままって。原因に心当たりはあるんじゃないの?誰かに薬を盛られたとか」
大神官の娘であるアナスタシア嬢といえば有名だ。
神に愛された、美貌の少女。光の加減で金色にも見える琥珀の瞳と濃紺の美しい髪を持つだけでなく、魅了の魔力が使えると聞く。
たしか年齢は18だったか。同世代の少女よりも豊かな胸と誘うような唇で幾多の男性を虜にしているともっぱらの噂だ。また自分の欲に忠実で、おそろしく快楽に弱い、とも。
一度だけ、どこかの夜会で見たことがある。確かに世の男であれば手に入れたいと思うような美しさだった。
(男好きしそうな見た目だったよね。僕はごめんだけど)
そんな彼女を自分だけのものにしようと狙う男性も多いだろう。
どうせ欲に狂ったどこかの男に睡眠薬でも飲まされたのではないかと暗に尋ねた僕に、大神官は言いにくそうに、目を合わせないように床に目を落として、言った。
「実は、、、異世界から魔力が強い人間を召喚したのです。魔力だけを取り込もうとしたところ、、その、、アナスタシアが目覚めなくなってしまって、、、。」
消え入りそうな声で大神官が話す言葉に、僕は舌打ちしそうになるのをこらえた。召喚は何十年も前から禁術になっているはずだ。正しく使いこなせる魔術師だってほとんどいないだろう。少なくとも正規に所属する魔術師であれば手を出そうはずもない。裏ルートで頼むか、でなきゃ魔術がさかんな隣国に頼ったのかもしれない。
おおむね娘を王に差し出すために魅了の魔力だけでは弱いので、強い魔力を娘に持たせようとしたんだろう。本人が望んだとも思えないし、大神官の独断か。
「大神官が禁じられた召喚をやったなんて、王に知れたらまずいんじゃないの?」と意地悪く言ってやると、大神官の太った体がびくりと震え、身に付けていた数多の装飾品が、じゃらりと鳴った。
国を、王家を護るべき神殿のトップが自分の欲のために異世界から人間を召喚するなんて。しかも自分の娘に欠けている魔力を補うために禁じられた魔術を使うなんて。
欲深さにあきれてものも言えないけど、いま神殿に恩を売っておくことに損はない。それに神殿所有の貴重な魔力石を提供するという見返りも魅力的だったので、一応様子を見ると言って、アナスタシア嬢をこの部屋の隣にある客室に転移で移した。その間も彼女は全く目を覚まさなかった。
隣の客室とこの部屋は、隠し扉で行き来できるようになっている。建前上は王宮内にある数ある客室のひとつだが、比較的小さいことと、王の私室と比較的近いことから僕専用の部屋として以前から使っていた場所だ(だから僕は王宮内に2部屋所有していることになる。王の覚えがめでたいと得だね)。自分の屋敷に帰るのがおっくうなときは寝泊まりに使っていたりする。2人はゆうに眠れるサイズのベッドに、そっとアナスタシア嬢を寝かす。
(・・・なんだろう、今まで感じたことない魔力の気配がする)
僕は不思議な気持ちで、静かに眠る少女を見下ろした。
姿かたちこそ以前目にしたアナスタシア嬢に違いないが、なぜか無性に惹かれるものがあり、首をかしげた。そもそも眠る体から滲み出る魔力は、僕が知っているアナスタシア嬢のそれではなかった。
というか、今まで知っている誰とも違う特別な気配だった。あたたかな、不思議な光を孕んだ魔力。うつくしい、世界を照らす、ひかりのようで。
きっとこれが、取り込んだという異世界の魔力なのだと腑に落ちた。
それにしても異世界の魔力とは、こんなに美しいものなのか。
うっとりしながら彼女の持つ魔力を無心に探っていると、強い酒を飲んだ後のように頭がくらくらしてきた。
あまりのばかさかげんにあきれてものが言えない、というのが大神官の話を聞いた率直な感想だった。
僕は、ルー・レイスティア。職業は魔術師。
裕福な貴族の三男として生まれた僕は、幼いころから膨大な魔力を持っていることがわかり、王宮に引き取られた。誰よりも強い魔術師として成長した僕は、2年前に即位したばかりの王直属の魔術師として働くようになった。
やっていることは、日々の研究と、あとは王の身を守ること。
それ以外は比較的自由に動ける今の生活は、結構気に入っている。
閑話休題。
3日前に、日頃王とは良好な関係とは言えない神殿のトップである大神官が僕のところに相談にきた。神に仕えると言いながら、贅沢三昧で政治にも口を出す男。できることなら関わりたくない人種だ。
王と近い立場にいる僕に相談なんてうさんくさいと思ったけど、とりあえず話は聞くことにした。あちらのテリトリー(神殿)に行くのも嫌だし、かといって自分の屋敷に来られるのも迷惑なので、王宮内の、仕事場兼私室として使っている部屋に訪ねてくるよう伝える。
大神官は夕方近くになってやってきた。
いつもの偉そうな態度はなく、奇妙なくらいおどおどしている。始終目がきょろきょろして落ち着きがない。人目を気にしているようだ。
「で。わざわざ僕に相談ってなにさ。」
薄暗い室内で、古めかした本と薬臭い標本に囲まれた机にあるランプだけがあたりを照らす。僕がつまらなそうに尋ねると、大神官は小声で「訳あって、眠ったまま目が覚めない自分の娘、アナスタシアを助けてほしい。」と言った。
僕はそっけなく返した。
「眠ったままって。原因に心当たりはあるんじゃないの?誰かに薬を盛られたとか」
大神官の娘であるアナスタシア嬢といえば有名だ。
神に愛された、美貌の少女。光の加減で金色にも見える琥珀の瞳と濃紺の美しい髪を持つだけでなく、魅了の魔力が使えると聞く。
たしか年齢は18だったか。同世代の少女よりも豊かな胸と誘うような唇で幾多の男性を虜にしているともっぱらの噂だ。また自分の欲に忠実で、おそろしく快楽に弱い、とも。
一度だけ、どこかの夜会で見たことがある。確かに世の男であれば手に入れたいと思うような美しさだった。
(男好きしそうな見た目だったよね。僕はごめんだけど)
そんな彼女を自分だけのものにしようと狙う男性も多いだろう。
どうせ欲に狂ったどこかの男に睡眠薬でも飲まされたのではないかと暗に尋ねた僕に、大神官は言いにくそうに、目を合わせないように床に目を落として、言った。
「実は、、、異世界から魔力が強い人間を召喚したのです。魔力だけを取り込もうとしたところ、、その、、アナスタシアが目覚めなくなってしまって、、、。」
消え入りそうな声で大神官が話す言葉に、僕は舌打ちしそうになるのをこらえた。召喚は何十年も前から禁術になっているはずだ。正しく使いこなせる魔術師だってほとんどいないだろう。少なくとも正規に所属する魔術師であれば手を出そうはずもない。裏ルートで頼むか、でなきゃ魔術がさかんな隣国に頼ったのかもしれない。
おおむね娘を王に差し出すために魅了の魔力だけでは弱いので、強い魔力を娘に持たせようとしたんだろう。本人が望んだとも思えないし、大神官の独断か。
「大神官が禁じられた召喚をやったなんて、王に知れたらまずいんじゃないの?」と意地悪く言ってやると、大神官の太った体がびくりと震え、身に付けていた数多の装飾品が、じゃらりと鳴った。
国を、王家を護るべき神殿のトップが自分の欲のために異世界から人間を召喚するなんて。しかも自分の娘に欠けている魔力を補うために禁じられた魔術を使うなんて。
欲深さにあきれてものも言えないけど、いま神殿に恩を売っておくことに損はない。それに神殿所有の貴重な魔力石を提供するという見返りも魅力的だったので、一応様子を見ると言って、アナスタシア嬢をこの部屋の隣にある客室に転移で移した。その間も彼女は全く目を覚まさなかった。
隣の客室とこの部屋は、隠し扉で行き来できるようになっている。建前上は王宮内にある数ある客室のひとつだが、比較的小さいことと、王の私室と比較的近いことから僕専用の部屋として以前から使っていた場所だ(だから僕は王宮内に2部屋所有していることになる。王の覚えがめでたいと得だね)。自分の屋敷に帰るのがおっくうなときは寝泊まりに使っていたりする。2人はゆうに眠れるサイズのベッドに、そっとアナスタシア嬢を寝かす。
(・・・なんだろう、今まで感じたことない魔力の気配がする)
僕は不思議な気持ちで、静かに眠る少女を見下ろした。
姿かたちこそ以前目にしたアナスタシア嬢に違いないが、なぜか無性に惹かれるものがあり、首をかしげた。そもそも眠る体から滲み出る魔力は、僕が知っているアナスタシア嬢のそれではなかった。
というか、今まで知っている誰とも違う特別な気配だった。あたたかな、不思議な光を孕んだ魔力。うつくしい、世界を照らす、ひかりのようで。
きっとこれが、取り込んだという異世界の魔力なのだと腑に落ちた。
それにしても異世界の魔力とは、こんなに美しいものなのか。
うっとりしながら彼女の持つ魔力を無心に探っていると、強い酒を飲んだ後のように頭がくらくらしてきた。
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