不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

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本編

4 それはたぶん胡蝶の夢1

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そういえば、むかしどこかで「胡蝶の夢」という話を聞いたのを思い出した。

蝶となって飛び回る夢を見た男が、自分が蝶になる夢を見たのか、それとも蝶が人間になる夢を見ているのかわからなくなったという話だったと思う。

今の自分は、まさにそれじゃないかと思う。

日本で生活していたわたし(琴音)が異世界の夢を見ているのか、それとも異世界にいるわたし(アナスタシア)が日本にいた夢を見ていて醒めたのか。

だって、ここで見る夢は、いつも元の世界のことだ。そして目が覚めると、日本じゃない世界で、違う人間のからだに入っているという事実を毎回思い知る。

わかっているのは、それだけ。
いまの状況は自分にはわからないことだらけだ。


***

他人の身体で目が覚めてから、まる2日経った。

閉じ込められていて部屋から一歩も外を出られない以外は、わりと快適な生活をさせてもらっている。必要なものは与えられ、食べ物にも困らない。人に会わせられない事情があるのか、身の回りのことは自分でしなくてはいけないけど、1人暮らしが長い自分にとって、それほど苦ではなかった。

わたしのサイズに合わせた着替えが何着もクロゼットにかかっていたので、そのうち1着を選んで着る。中世ヨーロッパの貴族みたいなゴージャスなドレスだったらどうしようかと思ったけれど、今まで着ていたワンピースとそう変わらないでデザインと縫製でほっとした。比較的着やすいデザインが多く、ありがたい。選んだ服は、髪に合わせたような濃紺で、シルクとベロアで切り替えてある。とても素敵な手触りで仕立ての良いものだとわかる。

もともと私はワンピースが好きだった。なぜならば楽ちんで、ちゃんとした感じに見えるから。今着たワンピも膝丈でお嬢様っぽく見えると思う。

(なんだか、むだにスタイルいい。けしからん体型とはこのことよね)

部屋に置いてあった姿見で自分の姿を見る。

そこに映るのは、信じられないような美少女。濃紺の髪はふわふわとウェーブがかっており、髪を下ろす浮世離れした容姿がさらに際立つ。顔の造作は完璧な左右対称。大きめの瞳、長い睫毛、官能的な唇。しかも胸は大きく、腰は細い。

たぶん男性受けはすごくよさそうで、女性からは嫌がられそうだ。

アナスタシア。この国の大神官の一人娘で、王家に嫁ぐ予定だった(らしい・ルー談)。
わたしの魂が入ってしまったせいで、本人の魂がどこかにいってしまったんだそうだ。

アナスタシア本人にも、そのご両親にも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。未来あるお嬢さんの人生設計を狂わしてしまった。申し訳ない。

改めて鏡に映る自分の姿を見る。

こんなハイスペックな体にわたしみたいなアラサーが入ってしまっていいのだろうかと思う。
たぶんモテたんだろうなあ。かつて見た脳内映像でもいろんな男性に囲まれていたし。

とりあえず髪を後ろでねじってかんざしのようなスティック状のもので留める。

そこへ、コンコン、とノックの音がして、ティーポットとお菓子が乗ったワゴンを持ってルーが入ってきた。生活感皆無!みたいな容姿のルーが、がらごろとワゴンを押している様は違和感があってちょっと笑える。

「シア、お茶にしよう。いろいろと話してあげるよ。」
「ありがとう。なんだかすごくいい匂いがする。」

運ばれてきたワゴンには、さまざまな焼き菓子が並んだトレイが乗っていた。

ルー(フルネームは長くて覚えきれないのでルーと呼ばせてもらうことにした)は、力のある魔術師らしいけど、とても親しみやすくてわたしにも親切だ。そして私のことをシアと呼ぶことにしたようだ。

「以前のアナスタシア嬢とは違いすぎてて同じ名前で呼びたくないからね。」と言って。

なんとなくだけど、以前のアナスタシアのことをルーは良く思っていなかったみたいだ。

たどたどしくポットから紅茶をカップに注ごうとしていたルーを見て、わたしは慌ててそれを止める。
こんなことは慣れていないんだろう。いつもは使用人にさせていることを人払いをしているがゆえに自分でしようとしているルーを見て、そう思った。

1人暮らし歴が長いわたしにとってはお茶を入れるなんて大したことはないけど、慣れない人にとっては難しいことだ。手つきもあぶなっかしい。

「え、わたしが入れるからルーは座ってて。」
「大丈夫だよ、僕、きっとうまいよ。」

そういって、林檎のような香りがする紅茶を渡してくれた。
わたしはありがとうと言って、渡してくれたカップの中身を躊躇なく口に含むと、ルーの紅い瞳が驚いたように大きく見開いた。

「え?なにかおかしかった?」

まさかこの世界のマナーではすぐに飲んじゃだめだとか??

「いや、、ごめん。なんでもない。その、、熱くない?」
「熱すぎないし、とてもおいしい。どうもありがとう。」

人に紅茶を入れるなんて慣れてなさそうだから心配だったのかなあ。
次はわたしが入れてあげようと思い、近くにあったクッキーにも手をのばす。
バターが多く、サクサクとした口触りがおいしい。続けて紅茶を口に含むと口の中でバターの風味がひろがった。



「あの、さ。昨日話したことなんだけど。できそうかな?」

おもむろに、ルーが尋ねた。
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