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本編
24 月に叢雲、花に風6 【side アレクセイ】
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「アナスタシア嬢に話を持ち掛け、事に及ぼうとしたら、拒否されて逃げられた?」
「そうなんだよねー、世の中ってうまくいかないね。」
翌日、がっかりしながら事の顛末をイヴァンに報告しに行ったところ、がっくりと肩を落として「はああああああ」と盛大にため息をつかれた。
彼はこれから出かけるところだったのか、毛織物で出来たマントを羽織っていた。話が長くなると思ったのか、あきらめたようにマントを脱いで近くの椅子に投げて自分も座った。なんだかんだ言ってもちゃんと私の相手をしてくれているあたり、根っから人がいい奴だと思う。
イヴァンは飲料水が入った瓶を片手で私に向けて放り投げ、もう1本は自分で開けた。ごくり、と水を飲み込んだ後、セイとよく似た端正な顔をしかめて私を見た。
「人のことをゲームの駒みたいに扱われたら、そりゃあ怒るだろ。俺だって、好きな女が勝手な理屈で横から掻っ攫われるなんて御免だ。」
こうなったら直接彼女に会いに行くから準備しろ、と言われてちょっと慌てる。そんなことしたらルーが盛大に嫌がるから。これ以上話をややこしくしないでほしい。
「だって、これが一番合理的で最善の策でしょう? 私はアナスタシア嬢と子を為す気はないし、セイもルーも好きなだけ彼女を愛せばいい。君だってもちろん参加していいんだよ。ほら、誰にとっても悪くない話だ。」
「あーー、アレだよな。お前はそういう奴だったよな。」
イヴァンは、「どうしてこんな簡単なことがわからないんだろうな。」といって、くしゃりと私の頭を撫でた。まるで子供にするみたいに。
「あのさ、みんなお前の思い通りにはいかないんだって、理解しろよ。人には心や感情がある。理屈だけでは動けないんだ。」
そう言われても、逆に理解できない。一番合理的な方法を選ぶべきなのに、なぜそれをしないのか。
もやもやした気持ちのまま、転移で自分の部屋へ戻った。
*****
薄暗がりの寝室で、ぱあんっ、ぱあんっ、と身体同士がぶつかる音だけが響く。
「ああっ、もっとください。陛下ぁ・・・私の身体で気持ちよくなってくださいまし。」
「っっつ。出る!」
「あああああんっ!!」
後ろから乱暴に腰を掴みながら獣のように突き上げると、あっけなく女は嬌声を上げて果てた。彼女は母方のはとこで他国へ嫁いだものの数年で離縁して戻ってきた。王宮内に部屋を持ち、たまに身体を繋げる関係でもある。
彼女が全裸なのに対して、私はズボンを寛げただけで服を着たままだ。彼女の求めに応じて抱いただけなので、機嫌をとる必要もない。互いの肉欲が満たされればよかった。
豊満な彼女の身体は触り心地が良く、中もほどよく馴染んでいて、いつもであれば十分満足できた。しかし今日はアナスタシア嬢との行為のあれこれを思い出してしまい、今一つ気持ちよくはなれなかった。
(嫌がるのを無理に組み敷いて、強引にするのがいいんだろうか?それとも単に彼女がいいんだろうか?)
初めて経験した甘い香り、瑞々しく柔らかな身体。潤んだ目を思い出すだけで欲の感覚が蘇る。
明らかに男慣れしていない反応、強張った身体。いくら中身が変わったと言え、あそこまで無垢な反応には驚いた。もとのアナスタシア嬢も、さんざん男をもてあそぶ悪女だと言われた割に、経験はまったくなかったに違いない。
まっさらな彼女を私の思うまま淫らに仕立て上げたいと、ほの暗い欲望が脳内に浮かぶ。いやいや、今はそんなことを考えている場合ではないと目の前の女に目をやる。
果てたばかりでぐったりとした女の身体を清めてベッドに横たわらせると、身支度をして部屋を出た。決して身代わりにしたわけではないが、これ以上長居する気にはなれなかった。部屋の外にはセイが重苦しい顔で立っていた。ずっと私のことを待っていたらしい。
「陛下、折り入ってお話がございます。」
思いつめたような表情を見て、アナスタシア嬢のことだろうなと思った。まだ彼女に合わせるつもりはなかったのに。きちんとけりをつけてから会わせてやりたかった。失敗した。
どうやって話をしようかと考えながら廊下を歩くが、すぐ後ろから付いてくるセイの気配があまりに重く、いたたまれなかった。私の部屋へ招き入れる。まさかここで彼女の身体を弄んだとは言えなかったけれど、なんとなく気まずさを感じた。
「陛下。アナスタシア嬢は、、、まさか記憶喪失なのでしょうか?」
はあ、と思わずため息が出た。まあそう考えるのが普通だよね。はじめはセイに黙っていようと思っていたけれど、正直にすべて話したほうが良いだろうと判断した。
現時点でわかっていること、つまりアナスタシア嬢の身体を器にして異世界の魂を混ぜたこと、結果として別の人格として目覚めたこと、を話す。
「は・・・。陛下のいつもの冗談ではないんですよね。アナスタシア嬢の意識が戻る可能性はどれくらいあるのでしょうか?」
「残酷な言い方をするけど、限りなくゼロだよ。混じってしまったものは分離できないんだ。だから元のアナスタシア嬢の魂の一部が顕在化することはあっても、以前の彼女には二度と戻らない。そこは、あきらめてほしい。」
他に、いい言い方は思いつかなかった。
冷静なセイのことだから、状況を伝えればあきらめもつくだろうと思った。しかし彼は、長い時間、私と目を合わさず、何も言わなかった。
しばらく無言の時間が過ぎた。その後、何の感情も籠っていないような声で、「かしこまりました。お忙しい中お時間を取ってしまって申し訳ありませんでした。」と言って、セイは部屋を後にした。
「そうなんだよねー、世の中ってうまくいかないね。」
翌日、がっかりしながら事の顛末をイヴァンに報告しに行ったところ、がっくりと肩を落として「はああああああ」と盛大にため息をつかれた。
彼はこれから出かけるところだったのか、毛織物で出来たマントを羽織っていた。話が長くなると思ったのか、あきらめたようにマントを脱いで近くの椅子に投げて自分も座った。なんだかんだ言ってもちゃんと私の相手をしてくれているあたり、根っから人がいい奴だと思う。
イヴァンは飲料水が入った瓶を片手で私に向けて放り投げ、もう1本は自分で開けた。ごくり、と水を飲み込んだ後、セイとよく似た端正な顔をしかめて私を見た。
「人のことをゲームの駒みたいに扱われたら、そりゃあ怒るだろ。俺だって、好きな女が勝手な理屈で横から掻っ攫われるなんて御免だ。」
こうなったら直接彼女に会いに行くから準備しろ、と言われてちょっと慌てる。そんなことしたらルーが盛大に嫌がるから。これ以上話をややこしくしないでほしい。
「だって、これが一番合理的で最善の策でしょう? 私はアナスタシア嬢と子を為す気はないし、セイもルーも好きなだけ彼女を愛せばいい。君だってもちろん参加していいんだよ。ほら、誰にとっても悪くない話だ。」
「あーー、アレだよな。お前はそういう奴だったよな。」
イヴァンは、「どうしてこんな簡単なことがわからないんだろうな。」といって、くしゃりと私の頭を撫でた。まるで子供にするみたいに。
「あのさ、みんなお前の思い通りにはいかないんだって、理解しろよ。人には心や感情がある。理屈だけでは動けないんだ。」
そう言われても、逆に理解できない。一番合理的な方法を選ぶべきなのに、なぜそれをしないのか。
もやもやした気持ちのまま、転移で自分の部屋へ戻った。
*****
薄暗がりの寝室で、ぱあんっ、ぱあんっ、と身体同士がぶつかる音だけが響く。
「ああっ、もっとください。陛下ぁ・・・私の身体で気持ちよくなってくださいまし。」
「っっつ。出る!」
「あああああんっ!!」
後ろから乱暴に腰を掴みながら獣のように突き上げると、あっけなく女は嬌声を上げて果てた。彼女は母方のはとこで他国へ嫁いだものの数年で離縁して戻ってきた。王宮内に部屋を持ち、たまに身体を繋げる関係でもある。
彼女が全裸なのに対して、私はズボンを寛げただけで服を着たままだ。彼女の求めに応じて抱いただけなので、機嫌をとる必要もない。互いの肉欲が満たされればよかった。
豊満な彼女の身体は触り心地が良く、中もほどよく馴染んでいて、いつもであれば十分満足できた。しかし今日はアナスタシア嬢との行為のあれこれを思い出してしまい、今一つ気持ちよくはなれなかった。
(嫌がるのを無理に組み敷いて、強引にするのがいいんだろうか?それとも単に彼女がいいんだろうか?)
初めて経験した甘い香り、瑞々しく柔らかな身体。潤んだ目を思い出すだけで欲の感覚が蘇る。
明らかに男慣れしていない反応、強張った身体。いくら中身が変わったと言え、あそこまで無垢な反応には驚いた。もとのアナスタシア嬢も、さんざん男をもてあそぶ悪女だと言われた割に、経験はまったくなかったに違いない。
まっさらな彼女を私の思うまま淫らに仕立て上げたいと、ほの暗い欲望が脳内に浮かぶ。いやいや、今はそんなことを考えている場合ではないと目の前の女に目をやる。
果てたばかりでぐったりとした女の身体を清めてベッドに横たわらせると、身支度をして部屋を出た。決して身代わりにしたわけではないが、これ以上長居する気にはなれなかった。部屋の外にはセイが重苦しい顔で立っていた。ずっと私のことを待っていたらしい。
「陛下、折り入ってお話がございます。」
思いつめたような表情を見て、アナスタシア嬢のことだろうなと思った。まだ彼女に合わせるつもりはなかったのに。きちんとけりをつけてから会わせてやりたかった。失敗した。
どうやって話をしようかと考えながら廊下を歩くが、すぐ後ろから付いてくるセイの気配があまりに重く、いたたまれなかった。私の部屋へ招き入れる。まさかここで彼女の身体を弄んだとは言えなかったけれど、なんとなく気まずさを感じた。
「陛下。アナスタシア嬢は、、、まさか記憶喪失なのでしょうか?」
はあ、と思わずため息が出た。まあそう考えるのが普通だよね。はじめはセイに黙っていようと思っていたけれど、正直にすべて話したほうが良いだろうと判断した。
現時点でわかっていること、つまりアナスタシア嬢の身体を器にして異世界の魂を混ぜたこと、結果として別の人格として目覚めたこと、を話す。
「は・・・。陛下のいつもの冗談ではないんですよね。アナスタシア嬢の意識が戻る可能性はどれくらいあるのでしょうか?」
「残酷な言い方をするけど、限りなくゼロだよ。混じってしまったものは分離できないんだ。だから元のアナスタシア嬢の魂の一部が顕在化することはあっても、以前の彼女には二度と戻らない。そこは、あきらめてほしい。」
他に、いい言い方は思いつかなかった。
冷静なセイのことだから、状況を伝えればあきらめもつくだろうと思った。しかし彼は、長い時間、私と目を合わさず、何も言わなかった。
しばらく無言の時間が過ぎた。その後、何の感情も籠っていないような声で、「かしこまりました。お忙しい中お時間を取ってしまって申し訳ありませんでした。」と言って、セイは部屋を後にした。
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