不埒な魔術師がわたしに執着する件について~後ろ向きなわたしが異世界でみんなから溺愛されるお話

めるの

文字の大きさ
27 / 133
本編

27 願わくば花の下にて3 【side アナスタシア】

しおりを挟む
「喜べ、アナスタシア!隣国の第二皇子から婚姻の打診があったぞ。これでお前も皇子妃だ!」

部屋に入るなり、父が弾んだ声で告げた。日頃父は私がいる屋敷の離れにほとんど来ない。よほど急いで知らせたかったのだろう。先程まで人と会っていたせいか、じゃらじゃらと装飾品をつけたままだ。

「まあ、うれしいことですわ。お父様のお役に立てそうでなによりです。」

読みかけの本を閉じつつ、ちっともうれしくなさそうな声で答えた。聞けば、先日の夜会で私を見染めた皇子がいたらしい。これだけ悪評のある女を妃に望むとは、ずいぶん酔狂な方だ。

椅子に座るのも時間が惜しいと言わんばかりに、父は私に使者から預かった手紙を見せた。

手渡された封筒を光にかざすと透かしで入れられた公国の紋章が見える。封蝋もキリル公国の皇族だけが用いる特殊な顔料が含まれたものだ。正式な文書で間違いない。

「本来ならばアレクセイ陛下に嫁ぐべきところだが・・・。しかしキリル公国は我が国とも縁が深い国だしイヴァン皇子は聡明で民にも人気がある。必ずお前を幸せにしてくれるだろう。」

早く婚約式のドレスを仕立てねば、と浮かれた声音で呟く父を横目に、封筒から手紙を取り出して読みだす。そこにはキリル公国の第二皇子であるイヴァン殿下の正妃として迎えたい、ついては急なことだが次の新月の夜に特別な儀式を行う必要があり、数日後に迎えを寄越す、と丁寧な筆跡で書かれていた。

次の新月とは、、、3日後ではないか。儀式に適した日がこの日しかないとはいえ、あまりにも急な話だ。

隣国では魔力に対する信仰とでも呼べるものがあり、とりわけ女性が持つ魔力に対して価値を置く。私の魔力を高めるための儀式だと言われれば、受け入れるしかない。

(・・・セイには、なんて伝えよう)

まっさきに思ったのは、それだった。
普通の令嬢であれば、皇子に見染められて幸せとか、相手はどんな方だろうとか、思うのではないだろうか。なのに私が考えるのは恋人でもない男のこと。我ながら愚かな女だ。

「お父様、今回のお話は出来るだけ内密にしていただけますか?」

「そうだな、どこで邪魔が入るかもしれん。準備が整うまでは、決して口外しないようにしよう。」

父には口止めをしたので世間の口の端に上ることはしばらくないはずだ。私自身はあれこれ悩んだ結果、セイには何も伝えないことにした。

彼にしてみれば、一時的に関係があった女がいなくなったところでたいした問題ではないだろう。それに、言ったところで、何ができるわけでもないのだから。




約束の夜の前日、つまり2日後に迎えが来た。護衛の若い騎士と黒い長衣を纏った年配の男の2人。年配の男は立ち居振る舞いから魔導士だと思われた。

箱馬車に乗り辿り着いたのは王都にある高級旅館だった。直接国境を超えるのかと思ったが、時間短縮のため部屋に設置した簡易の転移陣から別の転移陣を経由して、隣国の神殿へと向かう旅程だという。馬車酔いこそないが、慣れない転移で目が回りそうになる。先を憂える暇すらない。

ようやく目的地に着いた頃には、心身ともにくたくたになっていた。

出迎えには、キリル公国の大神官だという白い髭を蓄えた男と、世話係だという年配の女が立っていた。男は派手好きな父とは違い、地味な色のカフタンを身に着けていた。

用意された部屋は広く、短期間で用意したとは思えないほど準備が整っていた。数日の滞在には十分過ぎるほどだったが、窓がないためか軟禁されているような圧迫感がある。

荷物は不要と言われていたものの、最小限必要なものはトランクに入れて持ってきた。事前に騎士が部屋に運び込んでくれ、すでに部屋の隅に置かれている。外套を脱ぎ、ラックに掛ける。

「こちらでゆるりとお過ごしください。」

案内してくれた女性が立ち去ると、入れ替わるように大神官が部屋を訪れた。これからの予定について説明してくれるという。

「我が国には皇族に嫁ぐ女性には高い魔力が求められます。そのため貴方様には異世界から魔力を持つ魂を取り込む儀式を行っていただきます。儀式が終了いたしましたら、第二皇子との対面となります。」

「了解しました。儀式とはどのように行うのでしょうか。」

「我が国の皇室にのみ代々伝わるもので、魔法陣でこの世界と異世界とを短時間繋ぎます。そこから魔力を持つ魂を引き入れ貴方様に移します。肉体の損傷やそれに伴う痛みの危険はございません。しかしながら、まれに取り込んだ魂が表に出てしまい、宿主の魂の一部が奥に沈んでしまう危険があります。その点だけご了承いただけますよう。」

大神官が話したのは、つまり異世界召喚した魔力を私に取り込むが、精神の欠損が起きる可能性があるということだった。

「構いません。」

短く答える。どうせ相手は私の容姿を気に入ったのだ、中身は気にしないだろう。私だって会ったこともない相手に嫁ぐのだから、今までの心がどうなろうと、記憶が欠けようと関係ない。半ば投げやりだった。

部屋に戻ると、どっと疲れが出たのか直ぐに用意されたベッドに入ってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転生先は男女比50:1の世界!?

4036(シクミロ)
恋愛
男女比50:1の世界に転生した少女。 「まさか、男女比がおかしな世界とは・・・」 デブで自己中心的な女性が多い世界で、ひとり異質な少女は・・ どうなる!?学園生活!!

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...